[ドラマで気になるアノ男]

『僕たちがやりました』窪田正孝、思春期の高校生役を好演も気になったこと

2017/09/26 21:00

 『僕たちがやりました』(フジテレビ系)が完結した。視聴率は最後まで苦戦したものの、原作漫画の世界観を最後まで守ったことで優れた青春ドラマに仕上がった。見ていて嫌な気分になる描写もあったが、それでも目が離せなかったのは、描かれている若者たちの姿がリアルだったからだ。

 物語はトビオ(窪田正孝)、伊佐美(間宮祥太朗)、マル(葉山奨之)という3人の高校生とパイセン(今野浩喜)という金持ちの先輩の4人を中心とした青春群像劇。ある日、マルが不良たちにリンチされたことを知ったトビオたちは、報復のために不良たちの高校に爆弾を仕掛ける。爆弾は窓ガラスが割れる程度のもので、ちょっとした脅しのつもりだったが、プロパンガスに引火したことで、多くの死傷者が出る大事故となってしまう。パイセンから300万円を渡されたトビオたちは、逃亡生活を送ることになるが、目先の欲望に目がくらみ、短絡的な行動を繰り返すうちに泥沼にハマっていく。

 本作を見て、2013年に起きた、バイト先の冷凍庫に入った写真をSNSに投稿した若者たちの事件を想起した。当時は「バイトテロ」などといわれたが、今考えるとあれは、SNSにまつわるさまざまな事件の始まりといえる出来事であり、YouTuber的なノリの負の部分が大きく報道された最初のケースだったのではないかと思う。

 悪ふざけで始めたことが、取り返しのつかないことになっているのに、本人たちはうまく実感できない。だからちゃんと反省することもできず、軽薄に振る舞うしかないトビオたちの姿には、何とも言えない気持ち悪さを感じる。その「気持ち悪さ」から目をそらさず最後まで向き合ったからこそ、SNSが生活の中に溶け込んでいる若者たちの気分を描いた、優れた青春ドラマになったと言えよう。

 それにしても、イメージダウンになりかねない役を演じきった4人は見事だった。パイセンを演じた今野浩喜は、脇役でのドラマ出演が多かったが、本作でより注目されることだろう。伊佐美を演じた間宮祥太朗とマルを演じた葉山奨之は、イケメン俳優としての仕事を知っていると、別人のように嫌な奴で、軽薄な高校生を、よくぞここまで演じきったと思う。

 そして、何よりトビオを演じた窪田正孝にくぎ付けだった。トビオは、普通の人の中にある弱さと情けなさを全開にして、人間の醜さをこれでもかと見せていた。しかし、醜態をさらしながら、それでも生きようとするトビオから最後まで目が離せなかった。これは窪田の演技に愛嬌があったからだ。そんな窪田は現在29歳だが、多感な思春期の高校生を演じさせたら右に出るものはいないだろう。

 ただ、繊細な演技と童顔の表情は問題ないのだが、平凡な高校生を演じるにしては、肉体が屈強すぎたことは気になった。鍛え抜かれた細マッチョなので、平凡な若者と言うには、カッコ良すぎやしないかと思ってしまったのだ。童顔で繊細な少年役を演じていると同時に、鍛え抜かれた肉体でアクションをガンガンこなすことができる両輪が窪田の個性となっているが、平凡な人間の役を演じる時は、その鍛え抜かれた肉体が邪魔になってきているのかもしれない。

 逆に、童顔と鍛えた体を生かすことを考えると、普通の少年が異形の怪物に変貌するような役、例えば最近窪田が主演を努めた映画『東京喰種トーキョーグール』の主人公のような、人間と怪物の中間で苦悩するような存在が、今のハマり役なのではないか。

 別の方向で、強い可能性を感じさせるのは、EXILE TRIBEが所属するLDHの制作する映像プロジェクト『HiGH&LOW』シリーズだろう。窪田は無名街と呼ばれるスラム地区のストリートチルドレンたちを束ねるクールなリーダー・スモーキーを演じており、パラクールを駆使したアクションを、水を得た魚のように披露していた。ボディーガードを演じた『4号警備』(NHK)でのアクションも素晴らしかったが、現代の日本を舞台にしたドラマにアクションシーンを取り入れようとすると、どうしても世界が狭くなってしまう。だったら『ハイロー』のような荒唐無稽でハチャメチャな世界を舞台にして、現実にはあり得ないようなカリスマ的なキャラクターを演じる方が、窪田のアクションの自由度は倍増するのではないかと思う。

 30歳まであと1年あるので、もう一回くらい普通の高校生を演じてもいいのかもしれないが、それで“思春期の少年”は打ち止めにして、鍛え抜かれた肉体を駆使するアクションスターとなることが窪田にとっての理想の俳優道ではないかと思う。個人的には少年漫画の傑作として名高い永井豪の『デビルマン』の主人公・不動明を演じてもらいたい。これから、原作に忠実なアニメがNetflixで作られるので、実写ドラマも窪田主演で作ってほしい。その存在だけで十分大傑作となるだろう。
(成馬零一)

 

 

最終更新:2017/09/26 21:21
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