【官能小説】セミダブル千夜一夜 第七夜 舐め犬と飼い主

 しぇー子が泊まりにくるようになってもう半年近くになる。

 相変わらず夜中に急にやってきては、俺のベッドに潜り込み、しかし決して体を許さず、なぜか俺に「お話」をねだっては、聞いたり聞かなかったりして、寝てしまう。俺も最近では完全にそれを許してしまっている。

「しぇー子は、あれだね。猫みたいだよね。」

 ある夜、俺が仕事をしていると、酔っ払ってやってきて早々にベッドに潜り込んだしぇー子に、半ば呆れながら俺は言った。締切が近いので、今夜はしぇー子をどうこうしようという気はおきない。明日までに何枚か書いて編集に見せないとやばいのだ。

 とはいえ追い返すことまではできないのが俺の弱みで、一旦は「仕事してるから、勝手に寝ろ。」と言って机に向かっていたものの、気分転換を言い訳に仕事の手を休め、コーヒーを淹れ、カップをすすりながらベッドに腰掛けて、しぇーこに、そう話しかけた。

「なにそれ。」

「呼ばないのに勝手に来るし、来たからっつっていう事聞かないし。触ると逃げるし。」

「あたし、猫キライ。」

「へー。意外だな。猫好きそうなのに。」

「猫はあたしのこと好きだよ。野良猫よく寄ってくるし。でもこっちは好きじゃない。うまくいかないよね。」

「…俺のこと言ってんの?」

「笹王さん猫なの?」

「いや、猫じゃないけどさ」

「笹王さん、うさぎっぽいよ。」

「なんで」

「目、赤いし。」

「寝てないからだよ。ほっとけよ。」

「飼うんなら犬がいいな。大きい犬。小さい犬キライ、うるさいもん。」

「ふーん」

「ね、犬の話して。大きい犬の話。」

「忙しいんだよ。締め切りがあるんだよ。」

「そんなのすぐ書けるよ。笹王さん才能あるから。」

「なんだよ、こないだは才能ないっつってたぞ。」

「ねえ、してよ、お話。」

「…。」

 俺はせめてもの嫌がらせに、「大きくなった小さい犬」の話を始めた。

 家に帰ってドアを開けると、玄関口にいきなり見知らぬ若い男が立っていたので、ものすごくびっくりした。本当に驚いたときには声がすぐ出ないものらしく、どうしていいかわからないまま、ただ目の前の男を見つめていると、男は満面の笑みで、

「おかえり、お仕事、ごくろうさま」と言った。

 やっとのことで、「…誰?どうやって入ってきたの?」と、絞り出すように尋ねると、男は、あたしの言葉にちょっと驚いたような顔をしてから、すぐに照れたような顔になって舌を出し、

「僕、シシ。今日、人間にしてもらった。」と、更に嬉しそうな顔になった。

「…え? シシ?」

 シシはあたしが室内で飼ってるトイプードルだ。5年前、当時の彼と休日ランチをして帰る途中のペットショップで出会った。ガラスケースの向こうからこちらを見つめるまん丸い顔の子犬が気になり、近寄って覗き込むと、泣く一歩手前のような濡れた黒い目で、ガラスを引っ掻いてこちらにアピールしてきた。その様子が可愛すぎて、ついその場で買ってしまったのだった。忍者ハットリくんに出てくる獅子丸にどことなく似ていると彼が言うので、初めシシマルと名付けたが、飼い始めると呼びにくいので、そのうち、シシだけになった。

 シシがきてすぐのうちは、彼があたしの家にやってくる頻度は多くなったが、しばらく連絡が取れなくなったと思うと、ほどなくして他に女を作り、別れてしまった。

 それからはシシとずっと一緒だが、正直あたしのこの5年間はシシに救われてきたと言っていい。仕事で疲れて家に帰ると、尻尾を振りながら玄関に走り寄ってきて、黒い目であたしを見上げるその姿は、それだけでその日の疲れを忘れさせてくれた。子犬の頃はトイレのしつけがなかなかできず、家の床を汚して「シシ、ダメ!」と叱ったときにみせるしょんぼりした顔も、このうえなく可愛かった。

 そのシシが、今、人間になったと言って、眼の前にいる。

「お前は真面目だって、善行を施しているって、褒美に人間にしてやるって、神様が、人間にしてくれた。」

 よく見ると、栗色の天然パーマがトイプードルっぽいし、黒目の大きい丸い顔は、たしかにシシを人間にするとこうなるだろうな、と思えた。年令も5歳だから人間だとハタチ前後か。あたしはその言葉を信用することにした。

「たぶん、本当にシシなんだね。信じるよ。」と言うと

「ありがとう!いままで僕を、いままでかわいがってくれて、いままでありがとう!これからは人間、これからはよろしくお願いします!」と大きな声で言い、シシは玄関口におすわりして、深くお辞儀をした。

 とりあえずソファーに座って一息ついていると、シシは台所でなにかごそごそやっているようだったが、しばらくすると、ティーカップに紅茶を淹れてもってきてくれた。いつもあたしがやっているのを見よう見まねで淹れてくれたようで、紅茶はぬるいしカップも汚れたままだったが、あたしはシシの思いやりに感激した。

「ありがとね、シシ。」

 あたしは手を伸ばして、ソファーの前に座ってかしずいているシシ青年の、天然パーマの頭を撫でた。柔らかい髪の感触は、かつて犬だったシシのものと全く変わりなかった。

「ありがとう!ありがとう!」

 シシは、あたしの膝に手をつくと、やにわに顔を近づけてきて、あたしの顔をぺろぺろ舐め始めた。けものっぽい匂いが漂った。

「ちょっと、やだ、シシ、やめて」

 シシはその声が聞こえないようで、首ごとおおきく振りながら夢中であたしの顔を舐め、それからあたしの首筋を舐めた。舌先がたまに耳たぶにあたって、びくっとした。

「いままでは犬、いままで至らない点、いままであった。これからは人間、これからはお役にたてる、これからはがんばる!」

 そう言いながらシシは、なおも首筋を舐める。あたしは力が抜けてつい姿勢を崩し、ソファの背もたれから体がずり落ちた。シシはあたしに覆いかぶさるようにソファーに手をつくと、ブラウスの胸元に鼻を突っ込んで、なおも舐め続けた。シシの天然パーマの頭髪が、あたしの顎をくすぐった。あたしはぼんやりした気持ちになり、しばらくシシに体を任せていたが、ふとわれに返って体を起こし、言った。

「シシ、あたしシャワー浴びたい。」

「はい。」

「シシも一緒に浴びよう。」

「はい。」と言いながらも、シシは嫌な顔をした。この子は風呂嫌いなのだ。

「人間になったんだから、ちゃんと綺麗にしなきゃ。」と言うと、納得したようで、あたしが手を引くとしおらしい様子で風呂場についてきた。

 服を脱いだシシは精悍な体をしていて、あたしはどっきりした。神様は、シシの体をいくぶん逞しくしてあげたみたい。あたしはペット用ではなく、自分の使っているシャンプーで、シシの頭髪を洗ってやった。ボディシャンプーで、頭髪以外も洗ってやった。シシを洗ってやってる間、あたしはこのうえなく幸せな気持ちになり、なおかつ、このうえない淫らな気持ちになっていった。

 シシの体を拭いてやってから、自分もシャワーを浴び、バスタオルを巻いただけの姿でバスルームを出ると、シシは廊下に座ってあたしを待っていてくれていた。あたしは部屋に戻ってベッドに座り、バスタオルを外すと、

「シシ、おいで」と言った。

 シシは嬉しそうにやってくると、再び、まだところどころ濡れたままのあたしの体をぺろぺろと舐め始めた。シシの濡れた髪が顔に当たる。シシの舌は、あたしの唇と首筋のあたりを往復するだけなので、あたしはじれったくなってつい、シシの両頬を持って、自分の乳房に促した。シシは目の前に差し出されたあたしの乳首を、一度くんくんと匂いを嗅いで、それからそれもぺろぺろ舐め始めた。

 明らかにいけないことをしている、とあたしは思った。それでも、無邪気に、一心にあたしの乳首を舐めるシシが愛おしくて、今日はもうこの悦楽に溺れてもいい、ということにした。あたしは再びシシの両頬を抑えると、自分の股間に促した。シシは目の前に現れた茂みに妙に納得したようで、毛づくろいをするように、丁寧にそれを舐め始めた。茂みの下であたしのクリトリスは、もう硬く尖っていた。シシの舌がそれに当たる。

「ああ…シシ…可愛いね、シシは…。」

 あたしはうわ言のようにつぶやき、それを聞いたシシは、なおも一心不乱に舐め続ける。

「シシ、シシ…んっ…シ…あぁっ」

 簡単に絶頂が訪れ、あたしの体が大きく反り返った。シシはあたしのその様子にちょっとびっくりしたようで、目を丸くして、こっちを見ていた。あたしは急に恥ずかしくなった。

「シシ、もういいわ、ありがとう」

というと、シシは満面の笑みを浮かべて、再びあたしの股間に顔を埋めて舌を使い始めた。

「シシ、もういいってば、シシ、やめなさい。」

 シシは甘えん坊で、遊んでもらってると思うと、一向に止めようとしない子であることを思い出した。この単調な動きの「遊び」を妙に気に入ったようで、シシは頭をあたしの足の間でゆっくりと上下させることに夢中になっている。一度絶頂を迎えて敏感さを増しているあたしのクリトリスが、シシの舌で何度も弾かれ、あたしは再び昂まっていった。

「シシ、ダメ、やめなさい」

 あたしは強く言ったつもりだったが、粗相をして叱られるときの「ダメ」と、こういうときの「ダメ」は違うことをシシは学習していた。トイプードルは頭がいいのだ。

 気がつくとあたしの右手は自分の乳房をまさぐっており、左手でシシの頭を撫でていた。

「シシ…」あたしの声はほとんど吐息のようだった。

 シシの舌の動きが激しくなった、気がした。シシの頭が動くたびに、下半身から波のように快感が訪れ、その波は次第に高さを増していった。まもなくさらなる絶頂が訪れそうだったが、それは今まで体験したことのないようなものであろうことが予感された。

「シシ…気持ちいい…気持ちいい…イク…イキそう…」

 そして、それは訪れた。一瞬、頭が真っ白になった。

 体が大きく痙攣し、あたしの股間から、いままで出したことのない「潮」が噴出した。シシの顔に自分でも驚く量の液体がかかった―

 絶頂のあと、あたしはぐったりしてベッドに体を投げ出した。シーツが、あたしが出した潮で汚れていた。シシが少し驚いた顔で、あたしを見ていた。

「ごめんね、シシ。顔にかかったでしょ?」

 シシはしばらくあたしの顔を見つめ、それからシーツのシミを見てから、また満面の笑みになってあたしの方を向き直り、

「…粗相したね。ダメ!」と言った。

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