『an・an』セックス特集で展開された「男性を傷つけるな!」キャンペーン

2017/08/10 20:00

夏が来~れば思い出す~~♪ ハイ、きましたセックス特集。毎年恒例で特集を組む『GLITTER』、昨年から参戦した『Tarzan』も気になるところですが、まずは王道『an・an』からスタートです。

 関ジャニ∞・横山裕氏のセクシーグラビアが話題になっていますね。お肌、むっちゃきれい~。セックス特集にはムダ毛問題が付き物で、男性の口から「むだ毛って引く」といわせて女性のコンプレックスを煽る商法が私は大のニガテですが、これだけ美肌の男性に「むだ毛とか、絶対に許せないですから」といわれたら、「ですよね!」としか答えられません。個人的には3年前に表紙を飾った松坂桃李氏のように、上腕にまでうっすら毛が生えているほうがワイルド感あって好きですが!

 セックス特集の構成や内容自体は、毎年さほど変わらないんですよね。人気タレントのグラビア、読者のめくるめくセックス体験記、テクニック解説、お悩み相談、有名作家の描き下ろし短編官能小説(漫画になる年も)……などなどがタイ焼きの型のように並んでいて、餡だけ変えて焼き上げられます。餡というのは、回答している識者です。各科のドクターや、AV女優男優、アダルト界隈の有名人など、顔ぶれこそ変わっても全体的には毎年同じ形のタイ焼きに仕上がります。

 だからこそ、ちょっとした味の違いが気になるんですよね。その年のトレンドもありますし。今年目についた傾向は、「男性を傷つけない」でした。

◎「何かにつけて恥ずかしがれ」

「男のほうが実は繊細だから、傷つけるな」という言説自体は、『an・an』にかぎらず大昔からはびこっています。でもセックス特集においてはこれまで、「男性をもっと悦ばせるためにご奉仕して!」「こんなふうに彼の気を惹こう」「そしたらセックスしてもらえるよ、萎えさせちゃダメ」といった具合に、いかに男性を興奮させるかに重きが置かれていました。それが今年は、男性を傷つけないで、というコンサバな姿勢が強く見られるのです。

 たとえば、セックスを盛り上げるために彼の欲求にあえてダメ出しをして駆け引きしようと提案する心理カウンセラーは、

「ダメといわれるとしたくなるのが人間の本能。ただ、今の男は拒否されると弱いので、ハードル設定は極力低く。ダメと言いながら、受け入れる体制を見せて」

……ってめんどくさいな! 男性が傷つかないギリギリのラインを見極めながら、彼を挑発しろって難易度高いですよ。さらに、テクニック解説担当のAV男優・森林原人氏も

「日本人の男は自信がない人が多いんです。峰不二子のように、女性が積極的に性を謳歌しているようなスタイルだと、ハードルが高すぎて萎えてしまう恐れが。なので、面倒くさいとは思いますが、恥ずかしさや頼りないを全面に出しつつ上手に攻めて」

とレクチャーします。極意として「何かにつけて恥ずかしがれ」といい切ってもいます。同じページで「イク演技はしないほうがいい」といいながら、でも恥ずかしい演技、頼りない演技はしたほうがいいって、不思議~。しかもそれをしながら「女性から攻め」なきゃいけないんです。このページのタイトルは「二人でさらなる高みに昇りたい! 必勝テクでセックススキルをUP」ですが、自分を押し殺しながら一緒に昇天って至難のワザじゃない?

ほかにも無理に潮を吹かせようとする男性は女性に不評といいながら、「でも、そこを否定すると傷つく男性もいるので、伝え方には気をつけてほしい」といい、男性の自尊心を満たすための腰使いを提案し……。これって、「俺を興奮させて気持ちよくしてほしい!」という男性より、「俺を傷つけずに気持ちよくしてくれるのがベストだよね」という男性のほうが主流になりつつあるということ? 前者もイヤだけど、なんだか「日本、大丈夫?」感が強いです。

「男のエロス vs 女のエロス」は、AV女優の紗倉まなちゃん、男優のしみけん氏、サブカルの杉作J太郎氏の3人による鼎談ですが、杉Jさん飛ばしまくってます。「男が浮気をしたら、セックスに何か不満があるということだと思ったほうがいい」「(女性は相手の男性に対して)浮気をしたことを怒る前にセックスを磨け」「(体位を変えるときに)もしそこで女性に『ちょっとやめて!』とかって拒否されたら、もう立ち直れないかもしれない」……。

 それに対して、ふだんはトガッた文章や、甘いルックスとミスマッチ感のあるクールな観察力を見せる紗倉まなちゃんが、なんかユルく受け流している感じなんですよ。私、「えええ、これは鼎談ではなく、まなちゃんがしみけんさんや杉Jさんを持ち上げるトークなの!?」とガッカリ感に見舞われましたよ。現場でほんとうにそれを言ったかどうかはわかりませんが、まなちゃんがかなり「さしすせそトーク」※をしているのにも気になります。

※「さすが」「知らなかった」「すごい」「センスいいですね」「そうなんだ~」で相槌を打つと男性が喜ぶ、とされる会話術。

◎男性よりも、まず自分を傷つけないように

 浮気の是非はここでは問いませんが、女の不倫は徹底的に叩かれるけど、男の不倫は「しょうがない」になってしまうという、近年よく見られるようになった非対称性が、まんまここにも表れているようでした。これも結局は、男性が傷つかないための構図ですよね。女性誌で男性を傷つけないようにしようキャンペーンを展開するって、私からすれば奇っ怪な現象です。

 グラビアでは関ジャニの横山氏だけでなく、エロメン東惣介氏も濡れ場を演じていますが、ビジュアルで表現されるセクシーな男性像と、誌面に出てくる「傷つけられたくない男たち」とのギャップが大きすぎ。でもね、ちゃんといるんですよ、セクシーな男性。それはセックス特集とは関係のないインタビューページに登場するアラーキーこと荒木経維氏。

「例えば女だったら、美人じゃなくたってその人の個性ってものがある。だから俺は、全部受けて立つ」
「今は老いを撮りたいね。美容雑誌とかはすぐ、若返ろう若返ろうって言うけど、そういうことじゃなくて老いていく魅力を感じてほしいよね、女にも。年を取って魅力的になっているのに、なんであんなつまらない青春に戻ろうとするのかね。今のほうがずっといいじゃない。老いていくことは美しいんだから」

 ひと言でいうと、しびれます。傷つけられたくないと怯える男と、こういう考えで生きている男。どちらとお手合わせ願いたいかというと、私の答えは決まっています。

 という残念感は随所に見られますが、「実は知りたい、ホントのところ。SEXあれこれQ&A」などは、勉強になることも多い内容として読みました。いま求められているのは、このように女性の心身、そしてライフスタイルに添った実用的な情報であることはたしかです。

 コミュニケーションで相手を傷つけないようにすることはもちろん大事です。でもだからといって、誌面で必要以上に「男性を傷つけるな」とくりかえせば、それは呪いになります。男性を傷つけるときらわれる、セックスもできなくなる。そんなメッセージを暗に発しているのですから。それよりも、まずは自分を傷つけず身を守りながら、そのうえで気持ちよくなれる術を教えてほしいな。それが女性誌の役割ではないでしょうか。

最終更新:2017/08/10 22:30
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