子宮摘出が決まってから「こんな不当な目に遭ってたまるか」と怒りがわいてきた/神田つばきインタビュー「子宮を手放し、性の冒険に出た私」【2】

2017/08/04 20:00

 前篇では『ゲスママ』(コアマガジン)の著者、神田つばきさんに子宮摘出、さらにはご自身の母性や更年期についてうかがいました。前回、摘出手術後にポルチオを感じることができたと語ってくださった神田さん。中篇である今回は、神田さんが出られた「性の冒険」についてうかがいます。

▼前篇:子宮は女の象徴だと思っていた女性が、摘出してはじめて知ったポルチオの快感

――子宮摘出の話に戻ります。神田さんはガンの診断をうけてから手術まで期間が短いですよね。

神田つばきさん(以下、つばき):その年の6月24日に診断が出て、7月上旬には手術しました。転移しているかもしれないステージだったので、一回病院に行っただけですぐ手術日が決まりました。気持ちが追いつきませんでした。怒りがあったからなんとか持ちこたえたという感じ。

――それはどのような怒りですか?

つばき:「こんな不当な目に遭ってたまるか」と思いました。自分が母になれるのかって不安はあったのに、早く子どもを作れっていわれて、出産して。セックスレスなのに中絶して、ガンになって、「転移してなかったからよかったね、っていってるお前らなんじゃい!!」って。「あたし別に幸せじゃないんですけど! あたしのここ(子宮)は出産の機械じゃないのよ!」って。

――幸せじゃなかったんですね。

つばき:それまで子どもを自分と同じような父親がいない家庭で育てたくないから、がんばってきた。だけど、私には、セックスや繁殖に対する喜びが一切ありませんでした。子どもが生まれてもうれしくなかったし、旦那さんとセックスして「この人が大好き!」とも思えなかった。自分の本当の気持ちをなにも確かめないで、イベントだけ消化しちゃったからです。出産して、子宮を取ったらエンドマークが降りちゃった。騙されたような気持ちでした。

――誰に騙されてたんでしょうか?

つばき:主人もだし、母もだし、なんなら思ったほどいい子に育ってくれない子どもたちもだし、お姑さんはもちろん、あと世の中の全部。「お前らみんな私を騙して子宮取りやがったな!」って(笑)。摘出後に、夫からも親からも「これからは女としておとなしくしててくれよ」っていう雰囲気をすごく感じました。「もう静かにお母さん業をやってね」っていう空気に対して、「ざけんなよ!」って思っちゃったんです。いまはうかつに使えない言葉になっちゃったけど、テロリストの気持ちでした。

家族を犠牲にしても、性の冒険は止められなかった
――テロリストになっちゃったんですか!

つばき:子宮を取って失ったものを、手段は選ばず強引に、恋愛とセックスで取り返そうと思ったんです。私には母性があまりないし、親から夢を与えられなかったので、それまでに自己実現ができていませんでした。だから手術後、恋愛とセックスで自分を試すことに夢中になったんです。それは私のわがままだし、その結果、家族を犠牲にしてしまいました。私と同じように自己実現できていない人たちが家族を犠牲にすることなく個々の能力を発揮できるように話していかなければ、と思っています。

――家族のどなたを犠牲にされたんでしょう。

つばき:やっぱり子どもたちですね。それは子宮を取って離婚したところから始まってるんじゃありません。子どもを産むってことの意味もわからずに、周囲に押し切られて「じゃあ」って産んだ。失礼ですよね、命に対する冒とくです。だから簡単に産んで、簡単に3人目を中絶したのね。私の母が私に夢を与えることができなかったように、私も娘たちに夢を与えることができなかった。なんにも子どもに楽しさを与えられなかった。すごく犠牲にしたなって思ってますね。

――仕事をしたことで犠牲にしたって思われているわけじゃないですよね

つばき:それもある! 仕事をはじめたときはさっきの逆で、自分を実現することにのめりこんじゃって。結局お母さんになりきれてないんですよ。 もう犠牲者続出です。テロリストのうしろにはバタバタと犠牲者がいる。

――「テロリスト」というよりは覚醒されて、病気に一矢報いるために戦士になられたイメージです。そして出会い系で積極的にお相手を探す性の冒険に出られたんですよね。

つばき:「私は一体どこにいるのかな」「自分の子宮を誰に貸していたのかな」って大混乱しちゃって。じゃあ、貸していたものを取り返さないといけないなって。子宮はもうないけど、「子宮の中に入っていた自分の“女性”はどこに行っちゃったのかな」と考えると、いてもたってもいられなくなっちゃった。自分が探しているもののはっきりした正体は見えてないままに、落し物を探しにいくような感じ(笑)。

――性の冒険では、「女に生まれてよかった」という瞬間は発見できましたか?

つばき:ありましたね。セックスでは。

――性の冒険に出られたのは手術後に「グツグツ煮えるような気持ち」が湧いてきたからだそうですね。その気持ちが何で、どこから来たか、いまでは判明していますか。

つばき:結婚や出産・育児など、それまで試せることは全部やったけど、どうもそれはうまくいかなかった。「じゃあちょっと短絡的ではあるけれどもセックスと恋愛を謳歌することで自分の女性性を試そう」と思ったんですね。それが私のグツグツの正体です。

理性では逆らえない快感
――セックスで「女に生まれてよかった」という瞬間を実感されたとのことですが、そのときは止まれない感じだったんですか?

つばき:止まらないですね。色きちがいってこういうことだなって。いま思うと、すごいです。前向きなエネルギーがいくらでも湧いてきて。それくらいセックスでは充実できたんですよね。

――恋愛では充実できなかったということですか。

つばき:恋愛では充実できませんでしたね。

――よく「精神的につながってないと本当のセックスの快楽は得られない」と聞きますが。

つばき:そんなことないですよ。

――そんなことないんですね!

つばき:精神的なことはさておき、「体が合う」相手っているなと思います。精神とちがって、体が「合う」っていうことは脳天に稲妻が降り注いだように、一瞬で深くわかってしまう。その快さには理性では逆らえないですよ。

――初対面でもものすごく深いオーガズムを得ることは可能なんでしょうか。

つばき:可能ですね。こんな話までしていただけるとは思っていなかったのでうれしいです。

神田つばき『ゲスママ』コアマガジン
――セックスの充実といえば前篇でうかがったポルチオが思い浮かびますが、その後、産婦人科の先生とは?

つばき:あの先生とは2回しかデートできなかったの! ただそのあとも、ふたりだけポルチオにちんぽが当たる人がいたんですよ。

――なんと! それはちんぽが大きかったからですか(ザワザワ)?

つばき:大きさは関係ないんですよ。大事なのは、角度。

――角度なんですか、ふぉぉ……。

「子宮がない」と相手に伝えるか
つばき:そう、角度。『ゲスママ』に出てくる恋人のひとり、萬斎くんはちんぽがポルチオに当たる人だったんです。人格は最低でしたけど。

――先ほどおっしゃってた「心がつながってなくても深い快感は得られる」ことのエビデンスのようなお話です。

つばき:萬斎くんとセックスしてるときに、「うんちしてるときみたいにいきんで」っていわれて、そのとおりにしたら、グッてポルチオに当たったんですよ。うまくいえないんですけど、膣の縦の長さを短くする感じです。膣が浅くなったときにいい角度で当たりました。

――出会い系などで相手を探す場合、セックスの相性は会う前にある程度わかるものなんでしょうか。

つばき:ある程度はわかりますね。わからないのはひとつだけ。当たる角度だけ。

――重要な角度!

つばき:セックスに入るときの間合いなどの相性が合うかどうかは、電話で何度も話せばなんとなくわかります。ネットのやりとりだけでは、私はわからないですね。やっぱり声を聞いて複合的に判断します。

――子宮を摘出した女性が避けては通れない問題のひとつに「セックスパートナーには摘出の事実をいうか・いわないか」があると思います。神田さんはどう対処されていますか?

つばき:私はいつも会う前、電話している段階でなるべく話していました。子宮がないことで相手の態度が変わったら自分がヘコむとわかっているので、最初にその話をして、楽な気持ちで会話できるようにしておきます。

――子宮を摘出したって男性に知られたら「じゃあナマでいいんだよね?」っていわれそうで、怖くていえません。

つばき:とんでもないですよね。「看護師から『女性が子宮を摘出してるなら、避妊しなくていいよ』と聞いた」って教えてくれた男性がいました。「ひどい」と思って、その人とはセックスしなかった。性病をうつされるかもしれないから。

――ひどいですね!

つばき:ああそうだ、もう一件、いま思い出した(笑)! 手術直後につき合った人に取ったことを話したら、「俺のちんぽにガン、うつらないよね?」っていわれた。

――なにそれサイテーですね!

病気は、人を変える。
つばき:そのときはすごく悲しかったんだけど、何もいえなかったの。それから20年近く経って、その人がLINEの連絡先に表示されたんです。あのことだけはいわなきゃと思って連絡したら、彼は病気になってたの。「昔こういったんだよ」っていったら、彼の返事が「俺そんなこといったんだ。本当に恥ずかしい。最低だオレ」。それを聞いた瞬間に許せたし、彼の闘病を応援する気持ちになれて、「いってよかった」と思いましたね。

――その方も病気でいろいろ見えるようになられたんですね。

つばき:病気って、大変ですけど貴重な体験なんですね。いまはなんでもいえるようになっちゃたけど(笑)。その当時にいわなかった自分も弱い人間だったなと思って。

――や、さすがにそれはいえないですよ~。

つばき:女の人ってそういう思いをいっぱい抱えてるのかもしれないですね。それを何十年経っても、思い出したら修正していかないと、どんどん心が縮こまっていくような気がする。所詮わからないんですよ、男には。女がどんな思いでいるかなんて。でもわからないなりに、男性は女性に畏敬の念を持ってもらわないとうまくいかないと思います。

*   *   *

「子宮にちんぽが届くまで」の主人公・夢子ちゃんも、摘出手術前に正体不明のかきむしられるような思いに急かされ、それまでの自分からは考えられないような行動に出ます。術後の神田つばきさんも同じように「グツグツ」する気持ちが湧いてくるのを感じて「性の冒険」に出られたとは! 夢子の思いと神田さんの「グツグツ」は、同じでものはないけれど、「病気に蹂躙されたくない」というスピリットは似ているような気がします。

 次回、最終回では男性嫌悪や「解放としての閉経」そして「生にも性にも真剣に生きること」などについてうかがいます!

最終更新:2017/08/04 20:00
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