[官能小説レビュー]

監禁され、見物人の前で愛し合う……『透明な迷宮』の“そそる”部分を読み解く醍醐味

toumeinameikyu
『透明な迷宮』(新潮社)

 官能に特化した作品ではなく、一般文芸で官能寄りの作品における魅力は、「不透明な官能」を表現しているところである。ストレートに官能的なシーンが描かれているわけではないが、そのシーンの背景を読み解いていくことに面白さを感じる。わかりやすい表現をするならば、グラビアアイドルの水着姿と服を着ている姿の違いだろうか。水着の写真はストレートにエロを感じるけれど、厚手のニットを着たグラビアには「そそる」部分を見つける醍醐味がある。

 今回ご紹介する『透明な迷宮』(新潮社)も、「そそる」ヒントがちりばめられた作品だ。6作品で構成されている短編集だが、今回は表題となる『透明な迷宮』をご紹介したい。

 舞台はブダペスト。豪奢なサロンの一室に、主人公の岡田が閉じ込められているシーンで始まる。彼とともに捕われている人々の年代は20代から40代までさまざまで、国籍もバラバラ、すべて観光客である。その様子を、仮面を付けて下半身を露出させた男女4名が椅子に座って観察している。監禁された人々がこの館の主人から命じられたのは、「ここで、見物人の目の前で、愛し合え」という命令であった――。

 貿易会社に勤務している岡田は、出張でブダペストに来ていた。仕事を終えてカフェで酒を飲んでいると、日本人のミサが声をかけてきた。震災の1年後に日本の会社を辞めてヨーロッパを転々としているという彼女は、連れの女性フィデリカを放ったらかしにし、岡田のテーブルに移り談笑を始めた。その様子をつらい表情でフィデリカは見ていた。彼女はレズビアンであった。

 2人が仲良くしている様子が気に入らなかったフィデリカの策略により、岡田とミサは何者かに監禁されてしまう。そして、監禁された岡田とミサは、見物人の目の前で、リクエスト通り「日本的に」愛し合う。解放された2人は岡田のホテルで別々にシャワーを浴び、長い口づけを交わす。「一緒に日本へ帰ろう」とミサを誘ったのだが、彼女は空港に現れなかった。

 それから3カ月後、岡田はミサからのメールを受信する。彼女が帰国しているということを知った岡田は、ホテルのダイニングでミサと再会するが――。

 現実なのか、それとも夢なのか。ブダペストで監禁された現実と「ミサ」という女性、それぞれの輪郭が曖昧にぼやけていて、読者の想像力を掻き立てられる。

 「見物人の前で愛し合う」というショッキングなシーンはあるものの、直接的な官能のシーンは、ほとんど描かれていない。しかしその後、岡田がミサのことを深く考え、憎み、「会いたい」と感じていたことから、その行為が岡田にとって非常に有意義であったことが伺える。ラストシーンの絶妙なからくりによって、人を愛することは単純で滑稽であると痛感させられる。

 『透明な迷宮』は、想像を膨らませてくれる官能的な小説だ。何度も読み返し、その時々の読者側の感情や環境により異なる味わいがあるところも面白い。作者である平野氏にリードされながら快楽の物語にたゆたうことができる、希有な楽しみを噛み締められる作品だ。
(いしいのりえ)

見えそうで見えないものほど見たくなる

しぃちゃん



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