【新連載!】10年ぶりにセックスをしたい…いや「しよう!」と思うに至った重大な事情

それはある日、夢子がインターネットで目にしたツイートから始まった。

「子宮がなくなったら、セックスの感じ方は悪くなるんじゃないの?」

 夢子がこれを目にしたのは、自身のヒステレクトミー(子宮摘出手術)まであと3カ月、というタイミングだった。手術は子宮内膜症の根治のために受ける。

 少し説明しよう。

 夢子は初潮のころから子宮内膜症の症状に苦しんできた。子宮内膜症とは、子宮ではない場所に「勘違い子宮内膜」が住み着いてしまうせいで、子宮の持ち主に大きな苦痛と心労を与える不治の病である。それらの組織はやっかいな居候のように腸のくぼみや靭帯などにまで勝手に広がり、居つく。そこでおとなしくしていればいいものを、ヤツらは増殖したり出血したり炎症を起こしたり……と、無駄にイキイキ活動してしまう。

 子宮なら出血しても膣という出口から血は排出される。だが子宮外から出た血はドンドン腹の中に溜まりそして固まる。それが子宮周辺のいろんな臓器の癒着や炎症を引き起こし、激痛や貧血などさまざまな症状を引き起こす。

 一説によるとその痛みは陣痛のそれに匹敵するとか。この疾患を持つ女性は、そんな痛みを慢性的にお腹の中に抱えつづける。内膜組織によるゲリラ活動はホルモン周期ごとにくり返されるため、子宮の宿主の苦悩は閉経まで続く。

 現代の医療では、子宮内膜症を根治するには子宮を切り落とすしかない。夢子は長年、薬で症状を抑えてきた。だが近年はもはや痛みにも症状にも効かなくなり、起きているより寝ている時間のほうが圧倒的に長くなってきた。夢子はそこで手術を決意したのであった。

◎子宮がなくなれば、女じゃなくなる?

 夢子はどこの誰とも知らぬ人がネットに書き込んだそのつぶやきを、一笑に付そうとした。

「セックスは総合芸術だから、ひとつのパーツが抜けていたからといって、その本質が変わるわけじゃないよ。その日の体調や気分、相手で変わるだろうし。子宮がなくなったからといって性感が悪くなるなんてことないから!」

 自分の説には自信があった夢子だが、彼女がこのイシューについて語る際にひとつ問題があった。

 夢子は10年近くセックスしていないのだ。

 夢子は考えつづけた。

「『子宮がなくなったら女じゃなくなる』とか『子宮を失ったら性欲がなくなった』とかよく聞くけど、実際のところどうなんだろう? 私は同じ疾患で苦しむ女性に『ほんとかどうかわからない説より、自分の健康を優先して治療を選択しなよ』といってあげられる人になりたい。けどセックスレスの状態じゃ何も語れないなぁ。」

 恋愛はめんどくさい。性欲もほとんどない。夢子にはセックスフレンドも彼氏も夫もいない。

「私には知りようがないわ、残念だけど」

 そう片づけようとした夢子だったが、その書き込みがいつまでも鍋底にこびりついた焦げのように頭から離れないのだった。

 しばらく経ってネットで「子宮がんになったけど、オーガズムがなくなるかもしれないのが不安だし夫も嫌がっているから、子宮は切りません」という記事を目にしたとき、激しく疑問に思った。

 そうなの? ほんとうに違うの? 性生活になんら変化がないかもしれないのに、健康リスクを冒してまで子宮摘出を渋る必要ってほんとうにあるの?

これは一生に一度しか経験できないことだ。子宮を取り出したら快楽もなくなるのか、知る機会は一回きり。しかも全女性がこの臓器を失う経験をするわけじゃない。ほかの女から教えてもらうのもなかなかむずかしいだろう。この千載一遇の好機を逃してしまっては、あとで取り返しがつかない。きっと後悔することになる……。

 セックスレスの夢子。彼氏も夫もいらない! と書かれた鉢巻をキリリと巻きつづけて早10年。この鉢巻きの結び目をほどく気はさらさらなかった。

 だがやがて夢子の心中では「ねえ、セックスレスの状況だけなら、変えてもイイんじゃない?」という議論がくり返されるようになった。

「自分の健康を優先して子宮の治療を選択しなよ」といえる人になるためなら!

さらに、人生に一度しかない子宮との離別というイベントを有効活用するためなら!

我々はセックスレスと決別するのもやぶさかではない!

と、夢子の心の中の野党が声高に主張している。

「マアマア、野党のみなさん、ここはちょっと落ち着きましょうか。手術まではまだ時間がありますよ。それまでにセックスする機会がめぐってくるかもしれないじゃないですか。そんなときには、じゃあ、思い切ってセックスするという方向にしちゃいますか(笑)」

「与党のみなさん、妥協案ですね! しょうがない。そうしましょう!」

 ということで議会は閉会した。手術まであと3カ月というときだった。

◎10年ぶりのセックスで検証したいこと

 ときは過ぎ手術は1カ月半後に迫り、セックスのチャンスの神さまは夢子のもとを訪れていなかった。

 子宮内膜症の症状がつらくて寝込んでいるから、そもそも自分の部屋からほとんど出ていない。チャンスの神さまどころか、人間と話すのすら1週間に5分程度で、その内訳は医師:3分、薬剤師:2分というありさまだった。

 まあ、自然発生的にセックスできなかったんだからしょうがないよ、しょうがない。ハハハ、もともとがバカバカしい思いつきだったのよ。検証の件はしょうがない、あきらめ………………って、あきらめきれない!! 知りたい!!

「やはり我々は、妥協案など受け入れるべきではなかった!」

 いきり立つ、野党のみなさん。夢子の心の中のセックスレス打破党が、一大クーデターを起こした瞬間だった。

 そうと決まれば目標に向かって猪突猛進するのが夢子である。成功したければ“PDCAサイクル”をまわす、それがセオリーだ。

 PDCAサイクルでは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の4つをくり返しつつ活動する。自分の行動の精度を徐々に上げることになるので、目標に達しやすい。夢子の立てた計画は以下のとおりだった。

Plan(計画):
・男性女性双方の視点から、子宮摘出手術前と後とで性的興奮に違いがあるか検証する
・手術前にセックスする。男性に感覚を覚えていてもらう。自分もどう感じたか覚えておく
・術後、再度同じ男性とセックスする。男性に子宮がなくなったけど感じは変わったかを聞き、自分の体感も違うかを検証する

 だがPDCAのD(実行)を決める時点で夢子は早々に壁にぶちあたった。

Do:
・なにをDoすればセックスできるのかわからない!

 夢子は焦っていた。子宮内膜症の進行を遅らせるために毎日服用している薬であるピルを、手術を受ける1カ月前からやめなくてはいけない。手術中に血栓ができないようにするためだった。

 薬をやめて子宮内膜症の症状が出てしまうと、大量の出血が起こり、さらには破水後の妊婦が感じるに匹敵する痛みで、風呂や食事すらままならなくなる。外出などとてもじゃないが不可能だ。

 手術の1カ月前ということはPlanを実現する活動期間はあと2週間しかない。

「ほんとにやるの? まじで? 無謀かつバカバカしすぎるPlanじゃありませんか?」

 夢子は何度も自問するのだった。

*   *   *

 夢子は10年のセックスレスからほんとうにちんぽと子宮をジャストミートできるのか? オレは、夢子がこれからたどるちんぽへの道をみんなとシェアしていきたいと思う。

 これが夢子の元を去る、オレの最後の仕事になる。

 オレは何者かって? そう、オレは夢子の子宮だ。

■大和彩
米国の大学と美大を卒業後、日本で会社員に。しかし会社の倒産やリストラなどで次々職を失い貧困に陥いる。その状況をリアルタイムで発信したブログがきっかけとなり2013年6月より「messy」にて執筆活動を始める。著書『失職女子。 ~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで(WAVE出版)』。現在はうつ、子宮内膜症、腫瘍、腰痛など闘病中。好きな食べ物は、熱いお茶。



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