『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』ブックレビュー

「善意」と「弱者意識」により嘘は広まり、勢いを増す――偽ニュースが生まれる理由

2017/04/11 15:00

「権力にむさぼられる力なき市民」のスタンスから生まれる偽ニュース

 「メディア」より「プラットフォーム」の方が責任の所在はあいまいになりがちで、偽ニュースが紛れ込む余地が増えるが、一方で「メディア」発の偽ニュースもあり、本書で紹介されているのが朝日新聞の吉田調書問題だ(福島原発事故の際に、所員が所長の命令を無視して逃げたかのように報道)。こういった問題が生まれた背景として、「新聞などの既存型マスメディアにおける権力=政治家・行政・大企業、市民=善・弱者という固定化された考え方」が指摘されている。

 嘘は論外だが、「権力側のすることは多少悪めに盛る」のはマスコミの基本的な報道姿勢のようにすら見える。マスコミの役割には「権力の批判、監視」があるので、権力サイドのしていることを斜めから見るスタンスは、その点からは必要だ。しかし、「権力=政治家・行政・大企業、市民=善・弱者」という考え方は思考停止の状態でもあり、ニュースを見る側にしてみれば、世の中は毎日悪いことばかり起きているように思えて辟易する。企業や政府がしたいいことを、ありのままに報道されたものは残念なまでに少ない。

 また、「(「盛る」レベルを超えた)嘘つきが著名人になった」ケースでは、マスメディアもネットメディアもお手上げだろう。佐村河内守氏の騒動のように嘘をメディアが見抜けず関連番組が作られていき、氏の信頼性をマスメディアが担保してしまうという事態になった。嘘はタダでつけるが、ある人物を嘘つきだと証明するのは、手間も時間も執念もいる。さらに、一度嘘つきの神輿を担いでしまうと、嘘つきを担いだ自分の不覚を知られたくない関係者の多くは口をつぐむ。嘘への最高の抑止力になるはずの「良心の呵責」がない病的な嘘つきにとって、嘘はメリットだらけなのだ。

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)
気づかないうちに自分が加害者になる可能性もある
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