『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』著者・上間陽子さんインタビュー(後編)

少女が早く大人になることを強いる沖縄の社会――暴力の連鎖が生む格差と矛盾

2017/03/20 17:00

■産むことで家族を再生したいという思い

 女性たちの子ども時代は、とても短い。10代の半ばで唐突に終わる。それはおしなべて、妊娠・出産によってもたらされる。

「抱えるものができてしまうと、そのために動かないといけないですよね。だいたいの子は、産みたいんです。そうすることで、家族を再生したいのでしょう。自分がこれまでとても大変な思いをしてきたから、自分の子どもはちゃんと育てたい、と。でも、相手の男性が、それについてこられないんです」

 だから彼女たちは、ひとりで子どもを育てるために働きに出る。といっても16~17歳の女性が働けるところは限られている。キャバクラなどの水商売や、性風俗店。法律的に18歳未満は働けないはずだが、そこを厳しく取り締まるようになると、彼女たちは稼ぐ手段を失う。

「その矛盾については、私の中でも、まだ考えがまとまっていないのですが……。でも、風俗業が未成年の勤め先としてふさわしい場所だとは、やっぱり思えません。男性客は18歳未満だとわかれば、足元を見てきます。感染症を避ける方法や、危ない客への対応など、長年働き、ネットワークも持つ20歳以上の女性と10代半ばの子ではスキルに差があって当然なので、その未熟さに付け込まれることもあります」

■上手に依存する方法を覚えてほしい

 夜の街で働く女性の多くは、いずれは“昼職”に就きたいと願っているという。

「沖縄でトップクラスのお店に勤めていて稼ぎがいい女性でも、『昼間の仕事がいい』と言うんです。いま沖縄は景気がいいので、正規職にこだわらなければ、仕事はあります。でも、職歴や資格がないという以前に、水商売や風俗業でしか働いたことがない女性……特に16~17歳ぐらいで働き始めた女性たちは、昼のお仕事に対してハードルの高さを感じています。中学卒業以来、社会に受け入れられた経験がないままなので、『昼に働いている人たちと自分とは違う気がする』と感じているようです」

 それゆえ、夜の街で体を張って心を張って生きていく女性たちに、上間さんは「こんなに早く大人にならなくていい。ゆっくり大人になっていい」と言いたくなる。なかにはすでに大人の顔をして、誰かの助けを必要としていないように見える子もいるが……。

「彼女たちは言わないんですよ、『助けてほしい』って。10代半ばにしてひとりで生きようと覚悟を決め、風俗業界で日々、自分より10歳も20歳も年上の男性と渡り合う。そういう形で大人になろうとしているから、弱みを見せたくないのでしょうね。

 私はよく人から『そんなに頼られても困りませんか?』と訊かれるのですが、『もっと頼ってよ!』と思っています。10代半ばなんて、まだまだ大人に甘えていい年齢でしょ? だから私は彼女たちが強がっているときほど、よく見るようにしています。そうしたら、強がっていても、それをキャッチしてあげられるかもしれない。彼女たちには、上手に依存する方法を覚えてほしいんです。誰かに助けてもらったら、それをその人に返すのではなく、誰か次の人に渡してあげる。それが上手な依存の仕方だと思うんです」

 まずは彼女たちに読んでほしかった、と上間さんは言う。調査として数年にわたって話を聞き取ってきた彼女たち自身と、「こう生きてきたよね」「こう生きているよね」と確認し合いたかった、と。そのなかには笑いもあり、涙もあった。上間さんと女性たちは、これからも沖縄で生きていく。
(三浦ゆえ)

最終更新:2017/03/20 17:00
裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)
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