『重版未定』著者・川崎昌平さんインタビュー

「他人の記事をパクるのはこんな人」弱小出版社の編集者が語る、パクリ騒動が起こるワケ

2017/01/23 15:00

■自分を編集できるスキルを身につければ、もっとおもしろい表現ができる

――パクリ問題が起きたのは、キュレーションメディアに編集者がいないことも要因のひとつだといわれていますよね。

川崎 作り手もユーザーも自分で自分を編集できる世界が生まれれば、最高ですよね。手前味噌ですが、編集者でありながら本を書いていると、自分の著作に関しては「自分で自分を編集する」という作業が、そこそこできている方だという自負があります。今回出した『重版未定』や15年に出した『自殺しないための99の方法』(一迅社)などの初出は同人誌です。同人誌の特徴は、編集者がいないこと。したがって、自分で自分の本を編集しなければなりません。これができている本とできていない本では、やはり差が出ます。もちろん「編集できていない本」であっても、あふれんばかりの情熱で押し切って、めちゃくちゃおもしろい本になっている、という例は多々あります。

 でも「編集できていない本」と向かい合うには、受け手にも作り手と同じぐらいの情熱が必要です。多くの同人誌のイベントは、読みたい・読ませたいという愛にあふれた人々の集いですから、それでも成立しますが、より外の世界……例えば一般の書店やウェブで発表しようとなると、ある程度の客観性が求められます。

――同人誌もそうですが、今はSNSやブログで、自分からなんでも発信できる時代です。編集のスキルというと、具体的にはどんなことでしょう?

川崎 伝え方だと思います。例えば、猫が好きで猫の記事を書く人は、猫に愛がある。そこは一番大事な部分です。でも、愛があった上でも伝わらない相手がいます。その相手にどうすれば伝わるかを、一個一個の手順として、客観的に引いて考えることができる、または少しクールダウンして読み直すことができる技術。それが編集のスキルです。

 ひとりよがりの意見になっていないか、異なる意見の存在を前もって想定できているか、作品に対する関係者の存在を理解すると同時にそれらの調整は済んでいるか……などなど、基本的な「編集のスキル」の有無は、紙媒体だろうがウェブだろうが、意識すべきポイントだと思います。そういう編集のスキルを磨ける場があれば……パクリ記事を作っている人もウェブの世界のおもしろさに気づけるんじゃないかな、と想像しているんですが。

 キュレーションメディアの件でもそうですが、ウェブがらみで炎上する人を見ていると、冷静になるタイミングを知らないと感じます。

――よく言われるのが、きちんと読まずに反射的に発言してしまうことですね。

川崎 そうですね。やはり読むスキルは、数ある編集のスキルでも必須のもの。コツは「落ち着いて最後まで読むこと」に尽きます。予備校でセンター試験の現代文を教えていたとき、やはり最後まで読むことが重要だと教えていました。一度最後まで読んで、一呼吸置いてから問題を解く。設問と問題文を行ったり来たりする人もいますが、あれは絶対ダメです。文章の論旨を自分の思考ではなく設問によって読み解こうとしてしまうから、答えを自分で構築できなくなるわけです。

 そして「読まずに書く」のもダメですが、「書いたけど読まない」のも最悪です。編集者からすると、誤植の最大の原因となります。野球選手の年俸のニュース記事で、年俸6300万円のはずが「年俸6300円」になっていたり(笑)。そういうのを目にするたびに、自戒として「書いたら読む」を徹底せねばと思っています。

――川崎さんは、今後も出版社勤務と作家活動を続けていかれる予定ですか?

川崎 はい。今後は、『重版未定』に出てくる架空の出版社「漂流社」を実際に作ろうと思っています。出版社が漫画を作るのは当たり前ですが、「漫画が出版社を作る」のはなかなか例がないと思って。僕一人で、著者、編集者、編集長をやろうと思っているので、「それ、もうお前の同人誌じゃねーか!」という話ですが(笑)。
(姫野ケイ)

川崎昌平(かわさき・しょうへい)
1981年、埼玉県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。作家、編集者、東京工業大学非常勤講師。2007年、『ネットカフェ難民』(幻冬舎新書)により、新語・流行語大賞トップテン。著書に『若者はなぜ正社員になれないのか』(ちくま新書)、『自殺しないための99の方法』(一迅社)、『小幸福論』(オークラ出版)、『はじめての批評』(フィルムアート社)ほか。

最終更新:2017/02/01 20:12
重版未定
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