日本女子大学現代女性キャリア研究所・大沢真知子所長インタビュー(前編)

「配偶者控除を廃止すれば女性が働きやすくなるわけではない」現代女性が本当に活躍するためには?

2017/01/12 15:10

■専業主婦の1割は貧困層

――やはり103万円の壁はなくすべきということですか?

大沢 配偶者控除をなくすだけでなく、次世代に貧困が連鎖していかないような税負担と給付のあり方を考えていく必要があります。最近の研究で、専業主婦の1割は貧困だと言われています。シングルファザーやシングルマザーも増えています。独身の女性の貧困問題も顕在化しています。つまり、所得の再配分機能を強化するような形での制度改革が必要だと思います。

――専業主婦にとって厳しい時代だということですね。

大沢 今、経済界は、配偶者手当に代わる「家族介護手当」に切り替えることを検討していると聞いています。また、00年代になって既婚女性の労働力率(15歳以上に占める労働力人口の割合)が上昇している背後には、夫の所得の減少があります。最近のみずほ総合研究所のリポートでも、女性の雇用が拡大し、年収100~149万円に女性の所得が集中しているのは、夫の所得の減少が背後にあると指摘しています。2人以上の勤労世帯の世帯主の月の平均賃金は、97年から2015年にかけて7万円以上減少しています。

 こう見ると、世間で語られがちな「配偶者控除は女性の働き方に制限をかけているから、なくすべきだ」という単純な議論とは全く違うことがわかってくると思います。

 今、日本の政府は大きな赤字を抱えています。その理由の1つは、高齢化による社会保障費の増大です。社会保障制度の支え手を増やすことで借金を減らし、福祉を充実させなければならないので、将来的に配偶者控除のような制度を維持していくことは難しいと思います。

■「103万円の壁」がなくなれば女性が働きやすくなるとはいえない

――103万円の壁がなくなれば、女性の社会進出が進むのだろうというイメージを持っている方は多いと思いますが、実際は違うということでしょうか?

大沢 103万円の壁は「税金の壁」ですが、もう1つ「130万円の壁」があります。これは「社会保険の壁」と言われていて、年収が130万円を超えてしまうと、たとえパート社員であっても社会保険に加入する必要が出てきます。つまり社会保険料の支払いが発生し、夫の扶養から外れなければいけない。昨年の10月からは、501人以上従業員のいる企業に勤めていて、週20時間以上働いており、年収106万円以上の人には加入が義務付けられました。中小企業でも、労使の合意があれば、年収106万円から厚生年金に加入できるようにする法案が検討されています。これは非常に大きな壁です。

 社会保険料は企業も半分負担しなくてはいけないので、企業側からすると、女性に年収を106万円未満に抑えてもらって、社会保険や健康保険の負担を避けたいと考えるかもしれない。従業員の雇用において、非正規化に拍車をかける可能性も高まります。簡単に、この103万円の壁がなくなることで女性が働きやすいようになるかというと、そうは言えないと思います。

 ただ、これにはメリットもあります。年収106万円を超えて働き、若いうちに社会保険に入っていれば年金が充実することになり、将来的には年金や医療保険などの保障が女性自ら得られるようになります。厚生年金に加入すれば基礎年金に加えて、企業と折半で支払う保険料によって年金の上乗せ部分(報酬比例部分)があるので、若い人に限れば、プラスに働くことになるかと思います。

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