女性ファッション誌動向を甲南大学・栗田教授に聞く

モテ系・赤文字系が凋落、「mer」はヒット! 2016年の女性誌動向5大トピックを徹底分析

2017/01/02 16:00

■「mer」は10年代のヒット雑誌
――ギャル系以外で、好調な動きの女性誌はありますか?

栗田 近年、若い世代向けで成功したのは、「mer(メル)」(13年創刊、学研プラス)。これは、2010年代のヒットですね。音楽活動なども器用にこなし、マルチな活躍を続ける主力モデルの三戸なつめさんが「前髪パッツン」というコピーとともに有名になった雑誌です。ファッション系統のジャンルは、ナチュラルな自分らしさを強調した「わたし系・ピュア系」。三戸さんのヘアメイク、ファッションやライフスタイルは社会現象にまでなりました。わたし系・ピュア系の元祖ともいえる青文字系・ストリート系の雑誌としては、ボーイズファッションを女子に取り入れた先駆的存在の「mini」(00年創刊、宝島社)、古着リメイクで一世を風靡した「Zipper」(93年創刊、祥伝社)などがあります。残念ながら、伝統ある老舗版元の雑誌は、日々進化を遂げてゆくストリートやそれを映すウェブの動向や情報に、どうやら編集部や編集体制が追いついていけなくなってしまったようです。16年中には、ストリートスナップの意義と価値を日本に広めた伝統誌「SEDA」(91年創刊、日之出出版)が休刊、かつては女子高校生必読誌の1冊だった「Zipper」も、休刊こそしていませんが、月刊から季刊化しています。

 モデルのイメージだけに頼らず、読者イベントやウェブなどと誌面の連動企画を上手に生かし、わたし系・ピュア系という新系統を生み出した「mer」で成功した学研ですが、過去にファッション誌の休刊も経験しています。「non-no」に匹敵する14万1,000部を売る(ABC公査)、今や最強のローティーン誌「nicola」(97年創刊、新潮社)よりもさらに古く、30年の歴史を誇ったローティーン誌は同社の「ピチレモン」(86年創刊)だけでした。残念ながら「ピチレモン」は15年中に休刊してしまいました。そこでリストラした人材や資源を、「mer」に投入してくれているのかもしれません。学研は、半世紀もの長きにわたって「科学」や「学習」といった学年誌を作ってきた経験と伝統の蓄積があるので、雑誌制作において、最も大切な判断材料となる、読者年齢のセグメントや、時代・世代で嗜好や志向が大きく変わってくることを、経営者が充分に理解しているのでしょう。それは重要なことです。

■「ku:nel」は復刊で赤文字系に?
――「ku:nel」(マガジンハウス)の大胆なリニューアル復刊は話題になりました。

栗田 「ku:nel」(03年創刊)は一昨年の76号で休刊し、4カ月休んだ後、77号で16年1月に復刊しました。それに伴い、タイトルを赤くし、題字が最近は前より25%ほど大きくなっています。76号までは、表紙のテキストサイズや文字数は企業情報誌のような作りだったのに、復刊後は女性ファッション誌とカバーの作り方が同じになりました。各号ごとコンセプトのキャッチは、創刊から一昨年の休刊あたりまでは短い。「お宅訪問」「装いの花束」とか、10字未満で、これは情報誌と同じ。しかし、最近は、15文字程度に増えていて、赤文字系の形式と同じ。つまり、ファッション誌では凋落気味の赤文字系の戦術をうまく「横取りした」形です。

 ただ、内容はライフスタイル誌です。マガジンハウスはライフスタイル誌で会社を支えてきた伝統があるので、「ku:nel」で半世紀越しにチャレンジしているのかなとも思う。「GINZA」(97年創刊)もそうです。単一コンセプトではなく、自由度が高い。ファッション、メイクの看板にとらわれていません。例えば、最新号の「おいしい生活」というコンセプトは、通常のファッション誌のキャッチフレーズではありません。稼ぎ頭の「an・an」(70年創刊)ではできないことを、別働隊の「GINZA」でやっている印象です。

『新社会学研究 2016年 第1号』
この頃、雑誌にときめかなくなってるの
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