[連載]海外ドラマの向こうガワ

優雅なメイドを主人公に、「ヒスパニック女性=低賃金労働者」の偏見を打破した『デビアスなメイドたち』

2017/01/29 19:00

■テレノベラとは違う、コミカルかつテンポのいいストーリー

 エヴァは、同作で複数のメイドを主人公にすることにより、ヒスパニックの女性もメジャー作品でヒロインを演じる白人女性同様、思慮深く、豊かな感情があることを描き、「ヒスパニック女性はメイド以上の存在」と世間に認識してもらおうと挑戦した。主人公役には全員ヒスパニック系の女優を採用。これはプライムタイムに放送される英語番組としては初の試みとなり、「ヒスパニック女性による、ヒスパニック女性のためのドラマ」だと放送前から大きな注目を集めた。

 批評家の中には「テレノベラ(ラテンアメリカ系のメロドラマ)のように、うるさく大げさな演技が鼻につくような作品になるのではないか」と意地悪な予想を立てた者もいたが、放送がスタートした途端、視聴者からは「めちゃくちゃハマる!」と大好評。「メイドたち一人ひとりが深く描写されていて、共感が湧く」「雇用主らほかの登場人物たちの性格や感情も、うまく描かれている」という声が上がった。また、『デスパレートな妻たち』を手がけたマーク・チェリーがクリエーターを務めているため、ストーリーもテンポよく進んで飽きないと絶賛された。

 同作は、メイドドラマなので「金持ちのご主人様と貧乏人のメイド」という設定ではあるが、黒人奴隷時代を彷彿させるような厳しい主従関係は描かれていない。メイドたちの職場は治安の良い地区の豪邸、おいしい料理も食べられるし、金持ちは頻繁に外出するため自由になる時間も多い、住み込みの場合にはきれいな部屋に住めると、利点が強調されている。長年働いているメイドは家族同様に扱われ、信頼を寄せられ、メイドも雇用主のために親身になり、尽くす。雇用主とのロマンスが生まれることもある。

 いい思いばかりをしているわけではなく、メイドだからと見下されることは多い。ドラマではそのような差別や移民家政婦の苦しい立場も描かれている。とはいえ彼女たちに悲愴感はなく、キリストへの信仰の深さや、芯の強さ、情深さから数々の苦難を乗り越えていく。そんな姿が見ていて気持ちいいと、視聴者を魅了したのだろう。

 また、雇用主の1人として出演しているスーザン・ルッチの存在も、この作品をヒットに導いた大きな要因だといえよう。スーザンは、1970年から2011年まで、40年以上も放送されていた国民的昼メロドラマ『オール・マイ・チルドレン』で主役を演じ、長年にわたり「アメリカで最も稼ぐ女優の1人」と呼ばれてきた大御所。感情をむき出しにするドラマチックな演技をさせたら右に出る者はいないと評されている昼メロの女王が、『デビアスなメイドたち』ではコミカルな演技を披露するとあり、放送前から大きな話題を集めた。そして、放送が始まってからは「こんなコミカルな演技ができるなんて!」とファンを大喜びさせたのだ。スーザンのほかにも、メロドラマでおなじみの役者たちが出演しており、作品を大いに盛り上げている。

 残念ながら視聴率が落ち込み、シーズン4をもって終了となってしまったが、業界や批評家からは最後まで高く評価されていた『デビアスなメイドたち』。ヒスパニック女性たちの熱い情熱とパワフルな行動力は、日本の女性たちも大いに参考にできるだろう。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国→台湾を経て、現在は日本に帰国。数年後に来るだろう海外生活を前に、日本での生活を満喫中。

最終更新:2017/01/29 19:00
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