[サイジョの本棚]

田中カツやキュリー夫人ら“偉人”のイメージに隠れた、人間臭い真の魅力に迫る

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!

■『小説 田中カツ』(渡辺順子、随想舎)

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 「足尾鉱毒事件」や「田中正造」という単語は広く知られているが、その妻のことを知る人は少ない。『小説 田中カツ』は、現代に残された手紙や日記、関係者への聞き込みから、正造の妻・カツをはじめとする、足尾鉱毒事件に関わった“明治の女”たちの生涯を描き出した小説だ。

 「明治の女」と聞いて浮かぶのは、江戸時代からの風習を引きずり、夫や家族につき従う「旧(ふる)い女」か、平塚らいてうに代表される、女性の人権を訴える「新しい女」の両極端だろう。そして、カツの生涯は、その表層をなぞれば、献身的に夫に尽くした前者のタイプと見る人が多いかもしれない。

 評判の美少女で、正造に熱心に口説かれるまま、15歳で田中家に嫁いだカツ。村の名主の跡取りとして生まれた正造は、その人生のほとんどを足尾鉱毒事件の被害者たちに捧げている。衆議院議員として全国から支援を募り、資金や食物、自宅、さらにはその時着ているものまで、片っ端から農民に渡していた正造。死後には神として祀られるほど尊敬される一方で、癇が強く、強情で、妻には特に厳しく当たる正造は、当時の価値観から見ても“一般的な良き夫”とは言い難かった。しかし、結婚当初こそ正造に傷つけられたカツだが、その信念の理解者となり、家を仕切りながら、夫の指示のまま被災地を巡る支援活動に身を投じるようになる。

 そんなカツを、「夫に献身的に尽くした女性」と見ることもできるが、本書からは、単なる耐え忍ぶ女性像にはとどまらない彼女の姿も浮かび上がってくる。

 正造が選挙に立った際には積極的に票を読み、親から結婚を反対されている女性を助けるために正造を動かし、夫の知らないところで経済的にも自立するすべを心得た彼女の生涯は、「夫に尽くした」という言葉に収まらない生命力と才覚にあふれているように見える。正造の死後、裁判を引き継いで決着に尽力したカツは、晩年も地域の住民から慕われ、穏やかに暮らし、臨終の際には部屋に入りきらないほどの見舞い客が集まった。その人生は、ただ忍んでいただけでは味わえない豊かなものだろう。

 そして、本書ではカツだけではなく、足尾鉱毒事件に関わり、闘うことを決めた女性、闘わざるを得なかった女性たちの半生も詳しく描かれている。

 本書に登場する女性のほとんどは、30代、40代、50代以上だ。鉱毒事件の被害を訴えるため上京し、一軒家で共同生活する女性たちの生き生きとした姿や、被災地で1人、あばらやのような小屋で生きていくことを決めた老女。両親の意向で最先端の教育を施され、新聞記者として活躍する女性もいれば、DV夫から逃げ出したことで非難されつつ、社会活動に身を投じる女性もいる。そのどの人生も、単純に「旧い女」「新しい女」とは分けられない、それぞれの道だ。

 ほぼ同時代に生まれた彼女たちの生涯を俯瞰することで明らかになるのは、生まれたときの家庭環境や教育、地域の価値観が、その後の人生を左右し、自ら解こうとしない限り、知らず知らずのうちに縛られているということ。それは、明治時代にかかわらず、現代でも同様だろう。人は生まれてくる環境を選べない。それでも、置かれた境遇に絶望せず、自らの生きる道を選択して闘ったあまたの明治の女たちの姿が、「夢」や「希望」にはない泥臭さで、活力を感じさせてくれる。



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