【連載】日本を捨てる女性たち

「日本が一番だと思っていたけれど、実はそうでもない」日本を脱出し、タイでデザイン会社を経営する女性

2016/12/17 15:00

■言葉が通じなくても「生きてる感」に満ちていた

「親戚のお姉さんがアメリカに留学していたこともあって、小さい頃から漠然と海外への憧れはありました」という金野さん。美術関連の高校を卒業し、大学ではデザインを専攻。在学時にはスペインに旅行し、卒業後はワーキングホリデーで1年間オーストラリアへ。現地では、農場やレストランでアルバイトしながら語学を勉強した。

「海外に旅行したいというより、住んでみたい、働きたいと思っていたんですね」

 ワーホリに前後して2度、アジアにも旅行。このとき初めて旅したタイに、その後住むことになる。

「オーストラリアから帰ってきても、なかなか就職先がなくて(笑)。そんなとき友達が見つけてくれた求人広告が、タイで日本人デザイナーを探しているというものだったんです」

 旅行に来たときに接したタイ人の優しさもあり、印象は良かった。思い切って飛び込んでみたのは、バンコクにある日本語フリーペーパーの編集部だった。タイには数万人の日本人が住んでおり、日本人向けのサービス業やメディア、飲食店などさまざまな仕事が、日本の地方都市よりもむしろ充実しているほど。16年時点では10誌以上の日本語フリーペーパーが発行されているが、そのうち最も有名な老舗に、金野さんは就職した。

「初めは言葉がわからなくて、本当に大変でした。店や屋台で『これを買いたい』ということすら言えない。それでも『生きてる感』に満ちていたんです。言葉が通じないから、生活の一つひとつをこなしていくだけで精いっぱい。毎日がとにかく必死だったけれど、そのぶん充実していました」

 タイ語学校に通いながら、情報誌のデザインをする日々。少しずつ言葉を覚えていくうちに、タイに居心地のよさを感じるようになっていく。いい意味で、肩の力の抜けた環境。自分が外国人であるという、日本にいてはわからない不思議な感覚の面白さ。

「タイは階級社会です。お互い違う身分、階層には近づかないところがあります。でも外国人はフラットなんですね。ハイソ層とも庶民層とも付き合えるし、向こうも受け入れてくれる」

 古来から外国人を利用しつつ発展してきたタイ人は、したたかではあるが、外国人に対して日本人よりもはるかに慣れていて、フレンドりーだ。特に対日感情はよく、日本食やアニメ、日本旅行など、タイ人の生活の中に「日本」はすっかり浸透している。日本人が実に暮らしやすい国だといえる。

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