武蔵大学・千田有紀教授インタビュー(前編)

2016年炎上した差別的広告を振り返る「電車内で化粧する女性を見てオジサンは傷ついている」

2016/12/05 15:00

■オジサンたちは電車内で化粧する女性を見て傷ついている

 男性が考えていることを女性の口からいわせるのも、こうした広告の常套手段だ。「25歳を過ぎたら女の子じゃない」といいたいのは、女性ではなく男性だろう。東急電鉄のマナー向上広告「車内化粧篇」にも同様の構図が見られる(現在も東急電鉄HPで視聴可能)。

「素朴な感じの女性に、『都会の女はみんなキレイだ でも時々、みっともないんだ』と言わせて両者を対立させています。女性にとって化粧は、ビジネスマナーでもあります。すっぴんで会社に行くと、身だしなみを注意されますよね。電車内で化粧をすることの是非に関する議論は、2000年代前半にまでさかのぼることができます。オジサンたちは化粧する女性を見て傷ついているんですよ。目の前で化粧される=自分がオトコとみなされていない、ということですから」

 化粧をせずに会社に行くと、ルミネのCMのように男性から「需要が違う」といわれる。15年に過労自殺した電通の女性社員は、「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」と上司に叱責されていた。女性に装いを求めつつ、自分たちの目の前で装いの準備をするなというのは、なかなかに身勝手だ。

「こうした抑圧に対して女性が『いやだよね』と意思表示すると、『そうだ、そうだ!』と反応がある……原理原則的なフェミニズムのようなものがTwitterなどのSNSにあふれているのは、おもしろい現象です」

(三浦ゆえ)

(後編につづく)

千田有紀(せんだ・ゆき)
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』(勁草書房)、『女性学/男性学』(岩波書店)、共著に『ジェンダー論をつかむ』(有斐閣)など多数。

最終更新:2016/12/06 19:04
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