【messy】

自立を謳いながら「女の幸せ=結婚」に縛られつづける子宮系女子の不自由

2016/11/08 20:00

子宮の声〉は魂の欲求であり、そこに本当に幸せになれるヒントが隠されていると主張する子宮系女子たち。膣にパワーストーンを挿入する〈ジェムリンガ〉から始まり、〈お金大好き教〉に転じ、高額な〈セッション〉や〈資格商法〉で信者からのお布施を回収するシステムづくりはひと通り設置し終わったのでしょうか。

 お次の展開は、続々と出版物が世に出回りはじめました。彼女たちが個人で講演会的な集いを開いたり、サロンや協会を作ったりするのはさておき、〈自分自身にYES!を出そう〉というキラキラワードで女性を応援する体裁で、その実は、女性のココロとカラダに全く優しくないものを、出版物として版元ってどうなのよ~的な疑問が湧きあがってきます(お約束の「ゴシップサイトのお前が言うな」ですけど)。

 しかし出版物という形にしたことで、編集者が整理したりライターがリライトしているなど多少なりともプロの手が入っていると思われますので、子宮系女子たちが直接発信するブログなどよりは、はるかに読みやすくなっているのは確かです。それと同時に毒気が薄まり子宮系女子たち特有のアブナイ万能感が伝わりにくく、面白みに欠けるとも言えますが。でも、広く浅く教えを広めるにはもってこいの方法でしょう。

 まずは、「一般社団法人 日本性愛セラピスト協会」なるものを立ち上げた子宮系女子・田中みっち氏が、10月頭に出版した新刊から見ていきましょう。

◎もしかして、自費出版?

 田中みっち氏が世に送り出したのは、親の呪縛から解き放たれて自立し、パートナーと幸せになるためには〈性愛のパワー〉が必須であると説く『姫婚ノススメ~ママより幸せな結婚をする方法~』(ポエムピース)です。

 Amazonの内容には〈今、全国で大人気の性愛セラピスト田中みっち待望の初書籍〉とありますが、この版元をネットで検索すると自費出版の原稿を募っているので、身銭を切って出版された可能性もありそうです。話題にはなっているものの、大手が企画に乗るほど子宮系女子の需要は高まっていなかったか~と少しホッとさせられます(真偽はどうかわからないけど)。

 同書は〈親から精神的に自立をしないと、幸せな結婚につながる真のパートナーシップは得られない〉という主張が核になっています。精神的に成熟して自分軸で生きるためにはタブーを捨て(子宮教の常套句)、親の観念や社会の常識から抜け出すこと。そのためにセックスのパワーを使いこなしましょうとのことです。

 ところで、〈自由で幸せな結婚をするには、親からの精神的自立が必須。それに必要な性を謳歌するには、タブー感を超えるべし〉というアドバイスが出てくるのですが、自由自由と謳いながら〈結婚〉にこだわるのはなぜでしょう。パートナーシップを手に入れて幸せに生きるには、結婚以外の形があってもよさそうなものですが、〈結婚したくないと思うのも、母親から受けた影響〉なんだとか。

 これこそが〈女の幸せは愛し愛される結婚にある〉という、みっち氏のクラシカルな価値観だよな~。同書のプロローグは小説のような文体で、さまざまな女性のエピソードが紹介されていきますが、これが80年代トレンディドラマを思わせるテイストで、思わず「なんとなく懐かしい!?」と笑ってしまいました。ひと昔前の感覚が、しみついているのが、そんなところにも表れていると思います。

 自分軸で生きるのが幸せであるという点や、性欲は生きる力であるという主張は特に目新しいものでもありませんが、「女は損!」という思い込みを〈下女マインド〉と命名し、夢も希望もない結婚(これを下女婚というそうです)をしていると起こるとされる現象が意味不明。子宮が見せた妄想なのか? という謎理論です。下女マインドを抱えたまま結婚生活をしていると、パートナーに父親役を求めたり女を捨てたおっさん化したり、さらには下女マインド女性が男児を育てると、大きくなってから現実の女性が怖いと引きこもったり、アニメなどの二次元が恋愛対象になるんだというのですから。

 確かに子どもが受ける母親の影響は小さいものではないだろうけど、こじつけ感たっぷり~。キャッチーなネタを引き合いに出して読者をひきつけたかっただけかもしれませんが、子どもの問題で悩んでいる世の母親たちへ「あなたが幸せな結婚をする努力をしなかったから、子どもがおかしくなるんですよ」と追い詰めるような物言いはどうなんでしょう。しかも〈性愛セラピスト〉なら、もっと性の多様性を認めてくださいよ。二次元に欲情したっていいじゃない。それとも二次元には子宮がないから、性のパワーが享受できないのかな!

 みっち氏の言うところの〈精神的自立〉に役立つのは、セックスです。大好きな相手とできればもちろんいいけど、〈経験〉としてその他の人とヤっても、自分軸を作る材料となるのでありなんだとか。もちろん病気や妊娠のリスクもあるけど、だからこそ相手とのコミュニケーションや精神的な成熟が必須になってくる、と力説されています。病気や妊娠のリスク回避のために成熟するのって、なんだか悲しいんですけど。

◎人生好転のためにオナニー

 要は精神的にまだ成熟していない女性たちに、自立のため、ひいては幸せのために、好きな相手じゃなくてもバンバンセックスしましょうという主張です。

 基本的にはどんな相手とセックスするかは自由ですけど、〈姫婚〉で幸せになるプロセスとしてせっせとセックスに励みその結果成熟した女性って〈すれた雰囲気のプロ臭(いわゆるプロ彼女とは別モノ)漂う特殊仕様〉になりそうな気がするのは私だけですか? しかも余計なトラブルが発生しまくりそう。

 私は新興宗教方面に明るくないのですが、火だねを投下して信者の社会生活を危うくさせ、親身になってよりそうことで、その教義に依存(そしてお布施回収)させるというありがちな手口を想像してしまいます。同書の帯には「下女からプリンセスになれる魔法をかけます」とありますが、子宮系プリンセス=世間様から見たら単なる〈お近づきになりたくないヤバいやつ〉になりそうです。

 セックス以外では、〈子宮を神聖なものとしてお祈りをすると人生が好転〉というものもありました。「性交を否定することは、自分の命を否定すること」と壮大に語りながら、「ワーク」と称して行うことは「@@ちゃん可愛いね」と自分に語りかけながら、膣に指を入れる。性器を鏡に映して観察する。そけい部をしめつけないふんどしパンツや股を冷やさない布ナプキン推奨。平凡っす。

 ちなみにみっち氏が理事を務める協会では、「女性だけが試みることを許された禁断の全脳活性法と人生開発の秘儀的レッスン」という〈アマナレッスン〉なるプログラムがあります。HPの説明によると〈女性器に対する知識や官能体質になるためのマインドセット、実践技術によってオーガズムによる自己調整や自己開発の手段を得て、女性が自分自身とつながり、自己肯定感を上げていくレッスンプログラムです〉とありますが、簡単に言うとマスターベーションの技術を磨き感じやすい体になりましょうということでしょう。

◎性愛ビジネスはおいしい?

 こちらは協会への加盟金に25万円、講師になるための研修費に 75万円。〈性愛エネルギーをあますことなく享受するには、まずは自分を知ること〉というのはいいとして、100万円のお布施で、適当なウンチクとマスターベーションの方法を教えていただくって凄い発想。同書で性のパワーで幸せをつかみたい!と感銘を受け、この講座に転ぶ人っているんでしょうか。

 性にアイデンティティを求めることはアリでしょうけど、個人個人の性も人生も千差万別ですから、性を開発すれば幸せになる! という単純なものでもないでしょう。それを自己啓発商売に仕立てるのはどうやっても無理があり、冷えさえとれば、毒素さえ排出すればあらゆる不調は解決! と謳うトンデモ健康法とやってることは変わらないような。

 さて次回は、現在第2子を妊娠中という子宮系女子のトップである子宮委員長はる氏の新刊『美人は子宮でつくられる』(大和書房)とその他の子宮物件をご紹介予定。子宮から「もう結構です」という声が聞こえてくる方もいらっしゃるかもしれませんが、それはきっと気のせいですので、お暇でしたら引き続きどうぞお付き合いくださいませ。

(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)

最終更新:2016/11/08 22:49
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