[官能小説レビュー]

桜木紫乃『十六夜』に描かれる、“不倫関係”を羨ましく感じてしまうワケ

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『ワン・モア』(角川文庫)

 男と女は、似た性格を持つ者同士が、自然とつながり合うようにできているのかもしれない。社交的な男には社交的な女が、セックス好きな男にはセックス好きな女が、それぞれ寄り添う傾向にある。

 中でも、一番男と女を引き合わせるのは「寂しさ」という感情ではないだろうか。底知れぬ寂しさや悲しさを持つ者、同じような異性を呼び寄せる……実際に経験のある人も少なくないのではないだろうか。

 今回ご紹介する『十六夜』(角川文庫『ワン・モア』収録)に登場する美和と昴もそんな関係だ。医師である美和は、安楽死事件を起こしたことにより離島の診療所に飛ばされてきた。大病院とは異なり、離島には診るべき患者も少ない。暇を持て余している中で知り合ったのが、既婚者である昴だ。彼はオリンピックに出場するほどの水泳選手であったが、ドーピング検査に引っかかり、選手生命を絶たれてしまった。

 2人の逢瀬の場所は、現在漁師である昴の船の中。美和が島に来てから1年半、2人は約束もせずにそこで落ち合う日々を送っていた。小さな島ゆえに、ウワサが広まるのは非常に早く、2人が不倫関係にあることは島の誰もが知っていた。

 その日も美和はほろ酔いのまま昴の船へ行き、彼に抱かれた後で島を出て行くことを告げた。学生時代からの友人である開業医の鈴音が病気になり、自分の病院で働いてほしいと頼まれたからだ。

 そんな折、美和の診療所に昴の妻である茜が現れ、昴が、島を出たいと言っていると、睨みつけてきた。泳ぐことだけしか考えていなかったスイマー時代のように、今は美和のことだけしか考えられなくなっている、というのだ。その様子を見て、美和は昴と別れる決心をする。そしてその1週間後、茜が流産したという連絡が入るのだが……。

 人生には前進もできず、かといって後退もせず、ただ立ち止まることしかできない時がある。美和と昴にとっては、島の船の中でくらげのようにゆらゆらと抱き合う時間が、それだったのではないだろうか。昴の妻や島民全員に後ろ指を指される2人の関係は、一見、希薄なものにしか感じられない。けれど、“立ち止まることしかできない”瞬間を知っている人にとっては、互いの存在は、2人これから生きて行く上で、代えがたいほどの大切なものであるはずだと、想像させるのだ。

 寂しさの質が似た者同士の肌の温もりは、当人同士しか理解しあえない良薬となる。胸が詰まるような美和と昴の官能を、羨ましくも感じてしまった。
(いしいのりえ)

ベッキー、読むといいよ

しぃちゃん

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