[連載]海外ドラマの向こうガワ【特別篇】

恋愛リアリティ番組&シンプソン事件の裏側を描いた衝撃作! エミー賞の注目作をおさらい

2016/11/13 16:00

 近年、アメリカのテレビ界では、視聴率が悪い作品を躊躇なく打ち切るようになった。ABC、NBC、CBS、FOX、CWの5大ネットワークのほか、HBOやShowtimeといったケーブル局だけでなく、Netflix、hulu、Amazonらストリーミング配信サービス会社もオリジナルドラマ制作に参入。視聴者獲得争いがますます激しくなり、その結果、魅力的な作品が次々と誕生し、「ドラマ黄金期」とまで言われるようになった。

 9月18日に開催された米テレビ界最高の栄誉である『第68回 エミー賞 授賞式』にも、良作ばかりがノミネートされた。今回はそんな『第68回 エミー賞』のノミネート作/受賞作の中から、今後、日本でも人気に火がつきそうな作品を紹介しよう。

『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』(米FXで2016年2月に放送開始。日本ではスターチャンネルで9月より放送中)
第68回エミー賞 リミテッドシリーズ部門「作品賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「脚本賞」などを受賞

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 国民的アメフト選手で、引退後は俳優として大活躍していたO・J・シンプソンが、1994年に元妻とその男友達を殺害した罪に問われた、世紀の裁判を描いた衝撃作。ドリームチームと呼ばれた敏腕弁護団がプライドをかけ、なにがなんでも無罪を勝ち取ろうと奮闘する様子、弁護士同士の対立、被害者と遺族、正義のために歯を食いしばる検事たち、そして日系裁判官の苦悩など、「今だから語れる」暴露系ドラマとして人気を集めた。

 製作総指揮・監督は、『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』『glee/グリー』など、数多くの大ヒットドラマを手がけてきたライアン・マーフィー。キャストは、ジョン・トラボルタに、ドラマ『フレンズ』のロス役で知られるデヴィッド・シュウィマー、『ザ・エージェント』でアカデミー助演男優賞を獲得したキューバ・グッディング・ジュニア、『アメリカン・ホラー・ストーリー』のサラ・ポールソンら名優ぞろいで、みな事件関係者そっくりに演出されていると放送前から大きな話題となった。O・J役のキューバはイマイチ似ていないという声が多かったが、ジョンやデヴィッド、サラたちの役作りは素晴らしく、特にこれまで見たことがないジョンを見るために視聴した人もいたほどだった。

 成功の要因は、ドラマチックな展開だけではない。アメリカでは検察の主張に少しでも不合理な点があれば無罪を勝ち取れるため、そこを言葉巧みに攻め込む敏腕弁護士さえいればクロでも無罪になるという事実。陪審員制度が抱える問題。黒人を犯罪者だと決めつけるなど、デリケートな人種差別問題。この裁判で浮き彫りになった問題は今もアメリカが抱えている問題である。昔の話だけど、今見ても違和感なくリアルに感じられる。そんな点も視聴者を惹き付けた。

 エンターテインメント性に富んだ裁判の裏舞台で、弁護士同士がいがみ合ったりしていることも詳しく描かれており、この上なくおもしろい。無罪を勝ち取ったO・Jがなぜ二度と復活できなかったのかも、よく描かれている。なお、「O・J・シンプソン裁判」はシーズン1で完結しており、シーズン2では05年にハリケーン・カトリーナで壊滅的な被害を受けたニューオリンズで発生したさまざまな犯罪を描くことが決定している。

■『Veep』(米HBOで12年4月に放送開始。日本未放送)
第68回エミー賞 コメディシリーズ部門「作品賞」「主演女優賞」などを受賞

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 副大統領(Vice President)の略語「VP」がタイトルに入った『Veep』は、2012年4月から米ケーブル局HBOで放送されている人気コメディ。閑職状態の女性副大統領セリナ・メイヤーの政治家としての野望と、彼女の尻拭いに右往左往する側近たちの姿をコミカルかつシニカルに描いた作品である。シーズンを追うごとにセリナのポジションは変化し、激しいアップダウンを繰り返す彼女の私生活や、傲慢な政治家によって生まれる機能不全家族も見事に描かれている。

 有料チャンネルという立場を生かし、挑発的なヒット作を手がけてきたHBOのドラマは、放送禁止用語がバンバン飛び出すことで有名だ。この作品でも「フ●ック」「チンコ」「マンコ」など地上派では流せない汚い言葉が頻繁に出てくるが、過激なのはそれだけではない。登場人物の口からは、パンチの効いたブラックジョークが次から次へと飛び出し、よく毎回こんなおもしろい脚本が書き上げられるものだと感心してしまう。

 ドタバタコメディなのに妙にリアルに見えるのは出演者が一流ぞろいだから。日本ではそれほど知名度は高くないが、主演のジュリア・ルイス=ドレイファスは、『となりのサインフェルド』や『The New Adventures of Old Christine』といったコメディで高い人気を得ている喜劇女優。口汚く罵る嫌みな役でもチャーミングに演じることができる役者だ。『Dr.HOUSE』のハウス役で知られるヒュー・ローリーや、名脇役ケヴィン・ダン、ゲイリー・コールも、真面目な顔でコミカルな演技を披露している。主人公が民主党員なのか共和党員なのかは描かれていないところも、誰もが楽しめる理由だろう。

 今、この作品が大ヒットしている要因は、極めて異例な展開となってきた16年大統領選挙戦だろう。暴言を吐く過激路線のドナルド・トランプVS有権者に受けることばかり言って偽善者呼ばわりされているヒラリー・クリントンという「史上最悪の大統領選」を乗り切るのには、それより最悪な政治家たちが登場する『Veep』で笑うしかないと感じる視聴者が多いのだというのである。

 日本をオモシロおかしく描いている部分もあるが、日本人でも「アメリカらしい、おもしろい政治ドラマ」と感じられる『Veep』。近いうちに日本でも放送されることを期待したい。

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