[連載]悪女の履歴書

“ニセ殿下”の虚言癖、“出たがり女”の虚栄心――「有栖川宮詐欺事件」の浅はかな見栄

2016/11/21 21:00

 一貫して地道な生活を嫌い、強烈な上昇志向と華やかな生活を求めた坂上。一方で身の丈に合わない生活で借金もあった。そんな坂上に転機が訪れたのは、2002年のことだった。銀座のクラブで働いていた坂上は、当時、北沢と一緒に“皇室”詐欺を行っていた広告制作会社社長と知り合い、その社長と愛人契約をする。その関係から02年10月頃、北沢の存在を知り、より効果的に金儲けをしようと計画されたのが、“有栖川宮家の結婚式”だった。坂上は北沢を“殿下”と呼び、周囲にその関係を印象付けていった。

 坂上は“有栖川”を名乗る北沢の存在を巧妙に利用し、自らの結婚をプロデュース、一儲けを目論んだ。もちろん宮家につらなる人物との結婚は、それがニセとはいえ、坂上の虚栄心を満たすのにも十分だったのだろう。

◎出所後も続く“皇室”パフォーマンス
 しかし、そんな坂上の浅はかな見栄と虚像が破滅への一歩だった。

 マスコミによる大報道、そして坂上の積極的な露出は不必要なほど2人を目立たせ、世間の関心を買う。しかも、ことは皇室関連の詐欺だ。時間を追うごとに、事態は収集するどころか、ヒートアップ。ついに警察も重い腰を上げ、摘発に向けて動き出したのだ。

 03年10月21日、2人はご祝儀をだまし取ったとして詐欺罪で逮捕された。マスコミもこれを大きく取り上げたが、しかし2人は最後まで詐欺容疑と同時に“ニセモノ華族”であることを認めず、06年9月、ともに懲役2年2月の実刑判決が下されている。

 出所直後も2人はマスコミの取材に応じ、坂上が“殿下”にキスするパフォーマンスなどもしていたが、当時も2人は未入籍であることを明かしている。

 坂上の目立ちたがり屋、虚栄心が墓穴を掘った“バブルの残香”がそこはかとなく漂う事件。そのため必要以上に、マスコミや世間に必要以上の関心を持たれ注目されてしまった。地味に働くことよりも、一発逆転を狙おうとしたが、しかしスケールはあまりに小さい事件といえる。何しろここまでさまざまな仕掛けを作り、マスコミも大騒ぎした割には、その被害額は1350万円ほどで、例えば晩餐会の出席者で割ると1人4万円ほどの計算だ。

 上昇志向が強く口の立つ女と、無口で従順な詐欺師の出会いから巻き起こった陳腐な詐欺事件。しかし人々の記憶には残る“メディア先行”の演技型、劇場型犯罪だった。
(取材・文/神林広恵)

最終更新:2019/05/21 18:45
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