バーター花盛り

テレビ番組は長いCM? 関係者が明かす、今どきのキャスティング事情

2016/10/19 15:00
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Photo by mxmstryo from Flickr

 テレビ番組を見ていてCMに変わったとき、番組に出演していたタレントのCMが流れて「あれ?」と思ったことはないだろうか? その理由には最近のキャスティング事情が深く関係しているという。

「テレビ局のスポンサーのCMが流れるわけですが、長らく続く不況で企業も広告費を削減しているし、若者のテレビ離れでテレビの影響力は低くなっていますからね。テレビの黄金期と比べたら、宣伝という意味ではテレビはあまりおいしくないんです。でも、自分たちの会社のイメージモデルを務めるタレントが出演していれば、スポンサーについてくれることが多いですから」(制作会社社員)

 ゴールデンタイムの総世帯視聴率(HUT)は1998年下半期が71.2%だったが、2014年下半期は63.3%。さらに15年下半期には61.8%と下降している。見たい番組があってもリアルタイムで見ずに、ハードディスクなどに録画して時間があるときに見る人が多いのもその一因だ。

 スポンサーがつかなければ製作費が下がり、ギャラが高い人気タレントをキャスティングすることも難しくなる。しかし、テレビをつければ、必ずといってよいほどベテランから若手まで人気のお笑い芸人や俳優、そして“人気急上昇中”の新人が出演している。某芸能事務所代表のW氏は、それが近年のテレビ事情を顕著に表していると話す。

「大手芸能事務所がスポンサーについているんです。大阪の超大手お笑い事務所が大口スポンサーになって、番組に売り出し中の若手を出演させるのは有名な話ですが、俳優系の事務所でも同じことをやっています。たとえば、ゴールデン枠のドラマに数字をとれる人気俳優・女優を出演させるとしますよね? さらにスポンサーになり、代わりにそのドラマに新人を脇役で出演させたり、バラエティ番組にキャスティングさせたりするんです。『人気急上昇中の新人!』というテロップ付きでね(笑)。いわゆるバーターというやつで、最近では同じ事務所の藤原紀香や、系列事務所の稲森いずみのバーターで篠田麻里子がドラマに出演したのでは、なんて話題になりましたが、あれがいい例ですよ」(W氏)

 それでも、篠田のように、出演したところで、役どころや演技力についてはなんの話題にもならず、かえって評価を落とすケースもある。それに、新人のバーター出演の場合は、ギャラは通常の出演者よりも低くなることが多い。それでも、各芸能事務所が売り出し中の新人を番組に出演させることは、スポンサー料を払うだけの大きなメリットがあるという。

「テレビの影響力は昔に比べて低くなったといいますが、視聴率だけで判断するのは早計です。タレントにとって大切なのは、視聴率は別として視聴者にその存在を認知されることです。仮にリアルタイムで番組を見なかったとしても、録画をしておいて後で番組を見る人はたくさんいるし、もし録画していなかったとしても、ネット配信で後から見ることもできますからね。そうした番組がきっかけでタレントがブレイクすれば、スポンサー料なんてすぐ回収できます」(同)

 W氏によれば、その番組が視聴率をとることももちろんだが、番組に出ていたという事実が大切なのだという。

「何度もテレビで見るようになれば、見た側は『この人、最近テレビによく出ているな』と思いますよね。まずはそれが第一歩です。中にはりゅうちぇるみたいに一度のチャンスをものにして大ブレイクなんて化け物もいますが……あの子は別格ですね(笑)。たとえ事務所のゴリ押しでの出演だとしても、何度も番組に出演すれば空気を読む力も身につくし、度胸もつきます。それに、どんな形にせよキャラがつけば、ほかの番組にもキャスティングされやすくなりますからね。それに、爆笑をとったり、共演者との絡みがうまくいったりすれば、ネットニュースで拡散されて、さらに認知度が上がり、いつの間にかブレークしている……なんてことになるんです。いわば、大手芸能事務所がスポンサーの番組は長いCMのようなもので、テレビ関係者の中には『番組の私物化だ』なんて怒っている人もいるようですが、この世界、売れたら勝ちですからね」(同)

 そうして意図的に生まれた“人気急上昇中の新人”は意外と多い。しかし、この方法には大きなリスクがある。急造された人気タレントは、人気に対して実力がついていかないケースが多く、いずれ飽きられて消えていく。少し前までは毎日のように見ていたタレントが、あるときを境に番組から消えていく……。ここ数年はそれが顕著だったように思える。

「芸能事務所もバカじゃないから、ゴリ押ししているタレントが期待に応えなければ、簡単に見放しますからね。中には有吉とかオリエンタルラジオみたいに、一度落ちても、実力をつけてどん底からはい上がってくる本物もいるし、ゴリ押しされて世に出て、そのまま人気をキープする実力者もいますから。本当に出演させたい俳優やタレントをキャスティングできないと悩むテレビマンもいますが、このやり方が一定の成功を収めている以上、しばらくの間はこの状況が変わることはないと思います」(同)

 こうした事情は視聴者には何の関係もないことだ。しかし、多くの番組に出演して歓声を浴びている人気タレントたちの陰に、チャンスをつかめずに消えていった“ブレークタレント候補”たちがいたことには、一抹の寂しさを感じる。

最終更新:2016/10/19 15:00
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