サイジョの本棚,ブックレビュー

「駄目なところ」が人生を切り開く力になり得ることを教えてくれた『不機嫌な姫とブルックナー団』

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!

■『ピカソになりきった男』(ギィ・リブ著、鳥取絹子訳、キノブックス)

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『ピカソになりきった男』は、稀代の贋作画家としてフランスを騒がせた男が、自身の半生を振り返り語ったノンフィクションです。贋作といっても、単に有名な絵の複製をつくるのではなく、「作風をコピーして、その画家が描きそうな新作を生み出す」スタイルで、ピカソ、ルノワール、シャガール、藤田嗣治ら人気巨匠の贋作を約30年も生み続けた“天才”ギィ・リブ。彼の人生は、そのまま映画化されそうなほどドラマチックで、波乱に満ちています。

 娼館を取り仕切る夫婦のもとに生まれ、青年期には路上生活を経験。犯罪者たちとつるみつつ、商業水彩画家として生計を立てていたギィは、当初は力試しのつもりで「巨匠が描きそうな新作」に取り組むことに。そしてその才能を見込んだ画商のもとで腕を上げ、鑑定家のみならず、時に作者本人も本物と認めてしまうほど“完璧な贋作”をつくりだすようになります。

 アンダーグラウンドから富裕層まで、フランスのあらゆる階層に生きたギィが語る、それぞれの環境下で出会った愛すべき変わり者たち。一筋縄ではいかない面々との交流が生き生きと活写されていて、本著は群像劇としての魅力も備えています。

 そして、完璧な贋作を作るために“巨匠になりきった”彼を虜にした、「想像の魔術の中で偉大な画家たちと競い合う感覚」。それは芸術的な体験なのか、彼のハッタリなのか、本著だけでは判断できません。ただ、数々の裁判記録が、ギィの卓越した才能を証明し、芸術の神様に愛された一人であることを示しています。画家と作品の魅力を研究し尽くし、“完璧な贋作”を生み出せる彼にとって、絵画の芸術性より作家名に振り回され、大金を落としていくアート界の仕組みは、出来の悪い喜劇のように見えていたことでしょう。

 長年の相棒を失ったギィは現在、逮捕・服役を経て、画家として、そして映画美術などのアドバイザーとして生きているそうです。本作では、著者に関わった人々・ギャラリーの多くが実名で書かれたため、業界にとっては暴露本でもあったようですが、美術ファンでなくても十分楽しめる一冊。才能を武器に、飄々とアンダーグラウンドを駆け抜けた天才の視線を通して、フランスアート界の片鱗を味わってみてはいかがでしょうか。

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