両親が離婚して「本当に好きな人」と再婚…大人の恋愛を描いた『ママレード・ボーイ』

90年代「りぼん」の名作を改めて読み返すこの企画(初回『こどものおもちゃ』)。第2回目は、吉住渉の『ママレード・ボーイ』を取り上げる。集英社『りぼん』1992年5月号から1995年10月号に掲載されていた『ママレ』は、1994年にはアニメの放送も開始(1994年3月13日から1995年9月3日まで全76話)。オープニング曲の「だけど気になる~♪」というフレーズは、今も私の耳にこびりついているが、同じように印象に残っている方は多いのではないだろうか。遊と同居してからの光希の心の中を表現した、かわいい歌詞だった。

 当時多くのりぼん読者を惹きつけたのは、ヒロインの光希が『気になる男の子といっしょに暮らす』設定だろう。本来学校でしか会えず、学校での様子しか知ることができないはずの彼とひとつ屋根の下で暮らし、同じ時間を共有するなんて、ドキドキワクワクする。しかも遊は、見た目は正統派のイケメンで背が高くてクールっぽいのに笑顔がかわいくて、勉強もスポーツも優秀、人あたりはよく話しかければニコニコ応じるけど、その一方でミステリアスな雰囲気を併せ持つ……。そんな魅力的な男子とフツーの女子がいっしょに暮らすという設定がりぼん読者にウケないはずはなく、『ママレ』以降、『ベイビィ★LOVE』や『グッドモーニングコール』『あいしてるぜベイべ★★』など、類似設定が盛り込まれた作品も次々ヒットしていく。『ママレ』はその先駆けだった。

 まして『ママレ』の光希と遊は、単なるルームシェアとはワケが違う。新しい夫婦関係と、これまで通りの親子関係を維持するため、6人まとめて<家族>になった格好だ。光希と遊はやがて惹かれ合うようになり両想いとなるのだが、高校生の段階で<家族>であり<恋人同士>とは、ドキドキワクワクはもちろん、ふたりの親密性の高さ、結びつきの強さを感じずにはいられなかった。

◎トレンディな暮らしぶり

 物語は、主人公である女子高生・小石川光希の両親、仁&留美がにっこり笑って離婚宣言するところからはじまる。後述していくが、ちょっとトレンディドラマ仕立ての少女漫画だ。

 仁&留美は、光希を置いて出かけたハワイ旅行で知り合った松浦要士&千弥子夫妻と意気投合、どころかお互い相手のパートナーと恋に落ちたという。つまり仁&千弥子、要士&留美で恋をしたわけである。片方だけだったら浮気だの不倫だのドロドロの事態になるところだが、夫婦同時に恋する相手が見つかったのだから問題ナシ、いっそパートナーを交換して再婚しよう、と合意したというのだ。これに娘の光希は大反対。昔から少々変わったところのある両親だったけど、今回ばかりは許せない、交換結婚なんていう社会常識からはずれたマネをするのを見過ごせない、と怒りを露わにする。

 光希のキャラクターは、明るく元気、単純な性格、部活は中学から続けているテニスと、ごく普通の女の子。通っているのは中学から大学までエスカレーター式の私立桐稜大学附属高等学校。親友の秋月茗子や男友達の須王銀太に囲まれて、高校生活を楽しんでいる様子。気取らず裏表がない素直な光希は、りぼん読者が親しみを持ち、応援したくなるタイプだったといえる。

 小石川家と松浦家(両親ズ)で初会食をする日、光希は彼らの交換結婚を断固阻止してやると決意してレストランに向かう。そこに、松浦夫妻の息子である松浦遊が遅れてやってくる。光希と同じく高1、かっこよくて笑顔がかわいい遊に光希はどきっとするものの、両親ズの交換結婚に「本人たちが納得してんならいいんじゃねぇの」と異論のない様子の彼に唖然とする。「非常識な両親だけどあたしのパパとママなんだからどっちかと別れなきゃなんないなんてやだ」と訴える光希に、両親ズは「心配することない」という。なぜなら、広い家を借りて6人で一緒に住もうと思っているから。つまり、離婚&再婚で夫婦関係は変化するけど親子関係は変わらずに同居。今まで通りの組み合わせを両親と思えばよく、光希と遊は戸籍上父親側に引き取られたことにすれば苗字も変わらず面倒じゃない、いいプランでしょ? と。両親ズは本当に離婚、半年は再婚できないため、引っ越した家には二組の元夫婦とその子どもたちが住むという、珍しい構成の6人生活がはじまる(光希の語りでは「異常」と表現されている)。さらに遊は、光希の高校に転入、クラスも同じ。同じ家に住み、同じ学校に通うことになった光希と遊に、恋の気配を感じて読者はドキドキしたものだ。

 はじめは交換結婚や6人で暮らすことを渋っていた光希だが、変な家族だけどひとりひとりはいい人たちで何だかんだいいながらも新しい家族の生活に馴染んでいく。本作のメイン舞台のひとつ「小石川&松浦家」では、リビングやダイニングに6人が集まってワイワイ、という光景が度々描かれる。みんな(とりわけ両親ズは)やたらと楽しそうで、その光景は当時流行のトレンディドラマに通じるものがあるように思う。テーブルのお菓子は、両親ズのいずれかの出張みやげなのかもしれない。仁は銀行員、要士は商社マン、留美は化粧品メーカー(宣伝部)、千弥子は洋酒メーカー勤務と、彼らはそれぞれ仕事を持ち、帰ってきたら気の合う配偶者、友人夫婦(元配偶者でもある)、年頃に成長した子どもがいる。光希も遊も問題児タイプではなく親の手を煩わせることは少なそうだし、子どもを学費の高そうな私立一貫校に通わせ、自分たちはハワイ旅行に行くくらいだから、収入もそれなりにあるだろう。両親ズ、羨ましい。

◎成熟した大人たちは自由だ

 光希の男友達・銀太と、遊の元カノ・鈴木亜梨美の横やりを受けながら、両思いの恋人同士になった光希と遊。両親ズには内緒だが、両親ズの不在時には家でイチャつくのを楽しんでいる。この幸せがずっと続くとふたりは思っていた。が、高3のクリスマスを目前にして、ふたりの幸せは崩壊する。

 クリスマスツリーを出そうと物置を探っていた遊は、若い頃の両親ズが4人で映っている写真を見つける。彼らはハワイ旅行で初めて知り合ったのではなかったのか? さらに写真の中の4人は、カップル×2。元夫婦ではなく、仁&千弥子、要士&留美という、現在のカップルと同じ組み合わせであることが一目瞭然であった。交換結婚より前の時点で、自分は要士の息子ではなく、千弥子と前の恋人との間にできた子どもだということを「知って」いた遊は、親戚を通じて耳に入っていた、千弥子に学生時代から付き合っていた恋人がいたこと、結婚前に恋愛問題でゴタゴタがあったことなどの情報を総合し、悟る。自分の本当の父親は、光希の父親の仁ではないかと。つまり自分と光希とは、血のつながった兄妹なのだと、遊は思い込む。

 思えば交換結婚も、初対面の夫婦同士でありながらそれぞれ相手のパートナーと恋に落ちるなんて都合がよすぎるが、それぞれが昔の恋人同士だったのなら腑に落ちる。合点がいった遊は、光希に気持ちが冷めたと一方的に別れを告げる。両親ズを責めたり光希にこのことを伝えて家族がバラバラになるよりも、自分ひとりの胸にしまっておくことを遊は選んだ。読者はやきもきする。遊、ひとりで抱え込みすぎ。しかしポーカーフェイスのママレード・ボーイである遊は京都の大学に進学し、家を出る。光希はエスカレーターで附属大に進み新しい生活を始めるが、遊を忘れられるはずもなく、それは遊も同じであった。夏休み、帰省した遊に「あたしが好きなのは今でも遊だ。遊の気持ちが冷めても、自分が遊を好きだという気持ちを大事にしたい」と告げる光希。ここへきて堪えきれなくなったのか、遊は光希に、別れを選んだ理由、自分たちが兄妹であることを告げる。当然、光希はショックを受け、どうしてこんな大事なことを黙っていたのかと両親ズに確かめようとするが、遊は止める。あきらめるしかないのは変わりないのに、暴き立てたって家族がめちゃくちゃになるだけだ、と。どこまで物分りのいい息子なんだ。だが、最後の想い出にとふたりで出かけた旅行が終わりかけた時、遊はついに覚悟を決めた。「結婚しよう」と光希に告げる。血のつながりなんてかまわない、常識だってモラルだって破ったっていい、光希と生きていくためなら何だってやる、と。何もかも自分で抱え込もうとして、胸に秘めてしまう男・遊が成長した瞬間である。要士が自分の父親ではないとしても両親に感謝しているという遊だったが、両親への恩を大事にするあまり家庭崩壊を極端に恐れているようにも見えた。そんな彼が、両親よりも自分がどうしたいのかという気持ちをストレートに表し、決断を下したのだから、『ママレ』の物語で成長を遂げたのは光希よりも遊であったように思う。

 駆け落ち覚悟で光希と遊は、両親ズに自分たちの関係を打ち明ける。すると両親ズの口から、意外な真実が……。結果的に、光希と遊は、きょうだいではなかったのである。それどころか、ずっと「本当の父親ではない」と遊が思い込んでいた要士は、正真正銘・血縁の父親だった。すべては遊の勘違いだった……という、トレンディなだけに少々ずっこけなオチ。ただ、両親ズの独白は、連載当時に小学生読者だった筆者にはよく意味がわからないものだったが、大人になった今は「なんてすごい決断をしたんだ」と感心させられる。

 大学~新入社員時代、今の組み合わせで男女交際していた両親ズ。しかしすれ違いが重なり、要士と千弥子が、仁と留美が心から愛し合うようになって結婚・妊娠・出産、家庭を築いた。遊が大きな誤解をしていた「要士は本当の父親ではない」という情報だが、千弥子は仁との子を妊娠していたが流産、その後、支えてくれた要士と結婚し身ごもった子どもが遊だったのだ。それぞれの子ども(遊と光希)が高校生になるほどの長い年月を経て、夫婦の愛情が友情に近いものに戻っていった頃、4人は偶然、ハワイ旅行で再会。誤解は解け、昔のときめきがよみがえり、かつての恋人ともう一度恋に落ちた。話し合った結果、パートナーを交換してやり直そうということになった。恋も友情も4人で改めて育もうと思った、と、両親ズは経緯を説明する。幼稚な誤解と嫉妬による別離、さらに勢いでくっついて結婚したため、子どもたちに経緯を言いにくかった、とのこと。これにより、光希と遊が晴れて親公認の恋人同士となったところで『ママレ』の連載は終了した。なかなかお騒がせな家族だったが、無事ハッピーエンドとなり、当時わたしは胸を撫で下ろした。とはいえ、千弥子が自分との子を流産していたと知った時の仁と、千弥子の苦しみを知らなかった留美はきっと罪悪感に苛まれただろう。

 2016年現在、再読してもっとも印象深かったのは、高校生のときめき恋愛模様ではなく、両親ズの生き方である。『ママレ』の最終巻で作者も述べているが、もし光希と遊が本当に兄妹だったら、両親ズはただのひどい人たちだったということで終わっていただろう。子の心情を無視した交換結婚は、作品内で、も光希をはじめとする登場人物に「ひどすぎる」「常識がない」と非難されていた。連載終了から21年後の現在も、たとえば「発言小町」あたりで光希or遊の立場からトピを立てた場合、メタクソに叩かれるだろう。いやいや、両親ズの誰かが「交換結婚をする予定なのですが、子どもの同意が得られません」なんて相談トピを立てたとしても、ボロクソ言われるだろうな。では、家族とは、<戸籍上のつながり>がなければ成立しないのか? おりしも自民党改憲草案における憲法24条の改正について、日本における家族観が問われている現在、『ママレ』は「家族とは何か」というテーマを持ったマンガのひとつと言えるだろう。

 もちろん両親ズは非常に特異なケースであり、現実には「交換結婚」、つまり4名の総意で結婚相手を入れ替え、しかも全員で同居することはレアであろう。まず彼らは元恋人同士だし、偶然にハワイで再会して全員に同様の心の動き(=学生時代の恋人とヨリを戻したい)が起こったこと、など複数の前提条件があってこその「交換結婚」だ。『ママレ』はマンガだからご都合主義なんだといわれてしまえばそれまでだが、交換結婚をした両親ズが新夫婦ごとに住居を構えていたら、光希と遊は、自分の父と母どちらかと別れて暮らさなければならず、また義理の父もしくは母との関係も築かなければいけない。親子関係を変えずに済むという点を重視すれば、6人いっしょに暮らすことによって子どもへの影響や負担は最小限にとどまっているように思える。両親や血縁以外の大人と生活することは、多様な価値観に触れる可能性が高まり、子どもにとってもマイナスではないだろう。多感な時期の子どもは、自分の父や母と話したくないこともある。血縁ある親子だからといって相性の良さが保障されているわけでもない。自分の父、母以外に相談できる大人がいることで救われることもあるかもしれないのだ。まあこれも、家族内にイヤな大人がいないからだが……。

 ただ、トレンディかつリベラルな両親ズは、大人であっても親であっても、友人関係を深めていい、自分の人生を楽しんでいい、恋に落ちていい……と教えてくれる。何より彼らは両組とも対等な夫婦関係だったし、4人が4人とも経済的・精神的に自立していたため、このような決断を下せたのかもしれない。自分自身の人生を受け入れ自尊感情を確立させていなければ、このような家族関係は成り立たないし、継続しないだろう。一見すると“不道徳”となじられそうな両親ズの行動だが、実はそれぞれが成熟しているからこその関係性であることを忘れてはならない。

 2013年より集英社の大人向け少女漫画雑誌『Cocohana』(元コーラス)では、両親ズがアラフォーにして同時期に妊娠・出産した、光希と遊の弟・妹にあたる立夏(要士と留美の娘)と朔(仁と千弥子の息子)の物語『ママレード・ボーイ little』が展開中である。『ママレ』の登場人物たちともう一度会えるのもうれしいところ。彼らの「その後」が気になっていた元りぼん読者の方にはぜひ読んでいただきたい。

(中崎亜衣)

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