公益社団法人全国保育サービス協会事務局次長・長崎真由美氏インタビュー

富士見市の事件はベビーシッターではない 子どもを安全に預けるために知っておくべきこと

2016/08/18 15:00
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全国保育サービス協会が制作したテキストやDVD

 2014年に起きた埼玉県富士見市のベビーシッター事件。幼い子どもの命を奪った残虐な犯行に世間から非難の声が上がったと同時に、ベビーシッターの安全性が疑問視された。しかし、ベビーシッターは、子育てと仕事の両立を助ける、働く女性の強い味方になることも確かだ。安全にベビーシッターを利用するためには、利用者がどういった意識と知識を持つことが大切なのだろうか。

 ベビーシッター資格認定試験や研修会を実施する在宅保育サービスの専門である公益社団法人全国保育サービス協会事務局次長の長崎真由美氏に話を聞いた。

■富士見市の事件の被告はベビーシッターではない

――富士見市の事件が起こった際に、ベビーシッター制度が法的にきちんと整備されていないなどの報道がありましたが、現状ではどうなっているのでしょうか?

長崎真由美氏(以下、長崎) 最初にはっきりと言っておきたいのは、富士見市で起きた事件の被告はベビーシッターではないということです。私どもの協会で定めているベビーシッターの定義は、あくまで「訪問型の保育をする人」のことです。出会いがベビーシッター仲介サイトという名のもとで行われてしまったため、いまだにベビーシッターによる殺人事件と言われていますが、それは明らかに違うということを言っておきたいと思います。
 
 ただ、この事件を受けて厚生労働省でも子どもの預かりサービスに関する専門委員会をすぐに立ち上げました。その結果、マッチングサイトのガイドラインができ、さらに訪問型保育事業(自宅等に保育士等が訪問して児童の保育を行う事業)を行う場合、今年の4月から、自治体への届け出が必要になりました。

――ほかにも、ベビーシッター事業について、国の動きとしてはどういったものがあるのでしょうか?

長崎 公的な保育の1つで、訪問型保育として「居宅訪問型保育」が平成27年度からスタートしています。これは集団保育ではなく、個別の保育が必要なお子さんが対象になっていて、慢性疾患、障害、夜間の保育が必要なお子さん、あとは離島や僻地で1人の子どものために保育園を運営することができない場合などに、自宅に出向いて保育をする制度です。働くママが仕事に復帰するために、まずは認可保育園に希望を出すと思いますが、お子さんが上記の理由で通常の集団保育が難しい場合に家庭での保育を望まれ、自治体に認められると訪問型の保育が受けられる制度です。

 ほかにも、今年度から新たに「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」が導入され、残業や夜勤等の仕事のためにベビーシッターを利用した場合、1日2,200円の割引を受けられる制度がスタートしました。料金が高いというイメージが色濃いベビーシッターですが、こういった割引制度を使えば、働く女性にとっては心強い味方になることを、ぜひ皆さんに知ってほしいと思います。

■夕方2時間の利用が一番多い

――ベビーシッターの利用者数の現状を教えてください。

長崎 ベビーシッターの定義が法律などで明確化されていないので、数がはっきりとわかるわけではないのですが、私どもの協会に加盟しているベビーシッター会社が約100社あり、その昨年の会員数をみると、約3万3,500世帯です。これが1つの目安になると思います。この数字は、前年と比べても急激に数が伸びている、あるいは減少しているということもなく横ばいの状態です。

――どのように利用されている家庭が多いのでしょうか?

長崎 週に3~4回程度、夕方からの2~3時間利用している家庭が一番多いです。時間帯は17~19時が多く、日中は保育園に預かってもらっているお子さんを、ベビーシッターが迎えに行き、保護者の方がお帰りになるまでの2~3時間を自宅で保育することが最も多いパターンです。

 ベビーシッターを利用する理由としては、残業やお仕事のためという理由が多いです。定期的に利用される方はベビーシッター会社と契約して、事前に毎週何曜日の何時から何時までと予約して利用される方もいます。その場合、担当のベビーシッターも固定する可能性が高く、通常は2~3人のベビーシッターで担当する場合が多いようです。

――ベビーシッターを利用する利点とはなんでしょうか?

長崎 ベビーシッターは、大事なお子さんの命と家の鍵を預かる仕事と言われます。本当に信頼関係なんですね。働くお母さんが増えてきて、特に幼いお子さんがいる状態で働くのであれば、助けてくれる人、サポートしてくれる場を確保する必要があります。その選択肢の1つとしてベビーシッターがあるということを広く知っていただき、有効に活用してほしいと思います。先述したように割引制度も整ってきているので、こういうものを知っているだけで、ベビーシッターを利用するハードルが1つ下がりますよね。

 ベビーシッターはご家庭の事情に沿ってお世話をさせていただきますから、ベビーシッター会社もベビーシッターも、その家庭のニーズに答えるべく対応します。結果として、利用者の満足度が非常に高く、ほぼ100%に近い評価が出ています。どんなご事情、理由であっても利用できますし、ご家庭の育児方針をそのままベビーシッターが引き継ぐので、お子さん1人ひとりにあったお世話が可能です。

 1対1、しかも家庭での保育なので、保育園での保育とは違います。そのため、我々の協会でも、各ベビーシッター会社でも研修を行っていて、ベビーシッターが保育園とは違った専門性を持ってお子さんのお世話ができるように働きかけています。

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