子どもの虹情報研修センター・川﨑二三彦センター長インタビュー

年間30人以上の子どもが親に殺されている 親子心中事件は、なぜ起こるのか?

2016/08/02 15:00
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子どもの虹情報研修センター・川﨑二三彦センター長

 今年に入り、子どもを道連れにした心中事件が数多く報道されています。7月に千葉県・鴨川海岸、東京都・西東京市と、親子の無理心中とみられる事件が相次いで起きました。報道によると、周囲からは幸せな家庭とみられていたり、直前までいつも通りに元気な様子であったり、死に至る原因が推測できない事件ばかりです。親子心中事件は、なぜ頻発しているのでしょうか? その防止策はあるのでしょうか? 子どもの虐待を調査している、子どもの虹情報研修センター(日本虐待・思春期問題情報研修センター)の川﨑二三彦センター長に話を伺いました。

■親子心中は年間30~40件起きている

――今年に入って、毎月と言っていいほど親子心中事件が報道されています。近年は、増加傾向にあるのでしょうか?

川﨑二三彦さん(以下、川﨑) 貧困による親子心中が頻発した戦前・戦後と比較すれば減少しているといえるのですが、近年は若干の増減はあるものの、増加とも減少ともいえません。私たちは、2000年代の10年間について、18歳未満の子どもを道連れにした心中事例の詳細を調査しました。新聞報道を基に統計を取ったのですが、10年間の合計で395件を数えました。ただ、心中を厳密に定義づけるのは難しい上、例えば親子がともに死亡している場合など、事故か心中か断定できないこともあります。数字だけでお話しするのは難しいのですが、10年間の被害児童は552人に上っており、深刻な問題であることは間違いないと思います。

――虐待調査の一環で心中について調査されたとのことですが、親子心中は虐待に当たるのでしょうか?

川﨑 身体的虐待の定義は「身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行」です。心中を遂行するために首を絞めたり、高層ビルから抱きかかえて飛び降りたりするわけですから、子どもに対する明らかな暴力行為であり、児童虐待の最たるものと言っていいのではないでしょうか。

■母親の精神疾患、父親の借金問題

――親子心中事件の事例を見ると、小・中学生など、ある程度成長した子どもを道連れにするケースもありますね。

川﨑 心中以外の虐待での死亡は0歳児が多く、約44%を占めるのですが、親子心中事件の場合は被害者の年齢がばらついており、小・中学生も被害に遭っています。子どもの立場からしたら、親が自分を殺すなんて考えもしていないわけですから、全く無防備な状態です。これは、年齢が高くても防ぎようがないわけですね。一番信頼している人から命を狙われるわけですから、本当に悲しく重大な事件だと言わざるを得ません。

――近年、女性の貧困問題も注目されていますが、経済的な困窮も関係しているのでしょうか?

川﨑 父子心中の場合は親の借金苦や離婚などの夫婦問題が引き金になることが多く、母子心中の場合は母親が精神疾患を抱えていたケースが目立ちます。その背景には、過去に性的被害を受けている、異性関係が不安定、DV被害で追い詰められたなど、さまざまな事情が隠されていますが、中には貧困や虐待などの過酷な成育歴がある方もいます。精神状態は突然不安定になるのではなく、長い間苦しんできた蓄積があるわけです。

児童虐待―現場からの提言 (岩波新書)
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