[官能小説レビュー]

セックスで感じない女が変わる瞬間――密室の性愛劇『永遠に、私を閉じこめて』のヒリつく純愛

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『永遠に、私を閉じこめて』(講談社)

 愛と憎悪の感情は、常に表裏一体である。例えば恋人の仕事が忙しくてなかなか会えないと、愛ゆえに寂しさが募るが、いつしかその感情は憎しみに変わり、彼を困らせてやろうと好きでもない男と浮気をしたりする。

 またその逆もある。浮気などによって傷つけられ、最低な男だと痛感しつつも、なぜか強烈に惹かれてしまう――自分でも制御できない強烈な感情が渦巻いてしまう恋愛を、誰しも一度は経験したことがないだろうか?

 今回ご紹介する『永遠に、私を閉じこめて』(講談社)は、冒頭からラストまで、ほぼ「2人きりの男女しか登場しない」濃密な物語である。

 主人公の沙織は、フィアンセの雄一とともに地元である大阪を訪れていた。女性用下着メーカーの取締役である雄一と知り合ったのは3年前。彼の会社のイメージモデルになったことがきっかけで、交際がスタートした。

 沙織の実家を訪れ、ホテルに戻った2人はいつものようにセックスをする。しかし沙織は雄一にある秘密を持っていた。それは、セックスをしても感じない、ということ。

 その原因は17年前、沙織が11歳の頃へと遡る。密かにあこがれていた6歳年上の男・恭司に処女を奪われた。行為の最中で沙織の両親に見つけられ、2人は即座に引き剥がされてしまう。

 被害者となった沙織と、加害者にされた恭司。幼い2人の禁じられた関係は、双方の両親の話し合いにより無理矢理終息させられた。しかし沙織は、大好きな恭司との初めてのセックスを「汚らわしいもの」として捉える大人たちに嫌悪感を抱いていた。そして、まったく連絡をくれない恭司に対して、次第に憎しみを感じるようになる――以来沙織は、セックスで感じたことはない。

 対する恭司は、大阪・ミナミの外れで小さな酒屋を営んでいた。沙織との一件以来ひっそりと身を隠すように暮らしていたが、思わぬ沙織との再会により、かつての想いが蘇る。そして、雄一の腹を殴り、沙織を拉致してしまうのだ。

 自宅である酒屋の2階に沙織を監禁した雄一。2人の奇妙な監禁生活は淡々と進む。手足を拘束され、丁寧に愛撫されながら一方的なセックスを受ける沙織は、恭司に対して憎しみを感じつつも、今までにないほどの絶頂を得てしまう。何度も逃走を試みようとする沙織だが、恭司は一切暴力を振るわず、体を重ねることで沙織へ愛情を注ぎ続けるのだ。
 
 奇妙な監禁生活は、数日で破綻し始める。沙織が拉致されたことは当然事件となり、刑事たちが恭司の自宅をうろつくようになったのだ。恭司が追い詰められると同時に、沙織の彼への想いは次第に憎悪から愛情へと変化していく。そして、2人は思わぬ結末を迎えることになるのだが――。

 沙織と恭司は、いわゆる「ストックホルム症候群」にも似た関係とも感じられるが、2人は10代の頃から親密だった。17年という長い月日、1人で抱えて込み、歪みきってしまった恋心が、彼との再会で再び躍動しだし、さまざまな感情が一気に昇華される様子は圧巻だ。そして、少年時代から蓄積された沙織に対しての恭司の想いが、そんな沙織の心に正面からぶつかっていく描写には、ヒリヒリするほど痛みを感じる。

 狭い部屋で2人きりの描写で織り成すこの物語は、沙織と恭司の幼い純愛を成熟させるために与えられた設定にも感じられる。人を愛するという感情は、一筋縄ではいかない、誰にも説明できない感情だからこそ、当人同士だけで密かに共有し合わなくてはならない。そんな悦びにあふれた作品である。
(いしいのりえ)

推理小説の密室よりスリリングです

しぃちゃん

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