映画『花芯』監督インタビュー

「『わからない』という男は女が怖いのかも」瀬戸内寂聴『花芯』、園子という女性像

2016/08/05 19:00
kasin-0201.jpg
安藤監督

■男と社会風潮にコントロールされない女性像

――この映画を見た男性の中には「園子のことがわからない」という方が多かったと聞きました。男女では見方が違うのでしょうか?

安藤 まあ、そうですね、男から見たら、園子は男があこがれる女性じゃない。園子と付き合っても、すぐ捨てられるんだろうなと思うし(笑)。彼女のことが「わからない」という男は、おそらく園子のことが怖いのかもしれません。でも、女性を男側に引き寄せて理想化しない男にとっては、明確な意思を持った園子は魅力的でしょう。

――「わからない」という人が多いということは、世の中の多くの男性が、女性を引き寄せて理想化しているということですね。

安藤 男は、自分のコントロールができるところに女性を置いておきたいという願望があるんでしょう。でも女性側にも「女子力」とか言って、男に従ったり、屈したり、尽くしたりする方が魅力的だという風潮がありますよね。でも、これはメディアが作り上げた女性像であって、僕はそれが好きではありません。女性の保守化を促していると思うし、それが女性の社会的な立場が改善されないことにつながっているような気がします。

 今の女性は、そういう風潮に巻き込まれないでほしい。幸せな結婚をして子どもを産むことが一番の幸せだと、それが勝ち組だと女性が信じることで、婚活ビジネスが生まれ、結婚雑誌は売れるけれど、そういう一連の流れに無自覚で乗っていっちゃうのは危険ですよ。僕は、そういう社会風潮に対するアンチというかカウンターのような女性像を作りたんいです。

――今の女性は、園子をどう見ると思いますか?

安藤 園子の生き方をかっこいいと思うのか、「あんなに愛してくれるイケメンのダンナさんなのになんでダメなの?」と園子の決断を疑問に思うか。何しろ、園子の夫・雨宮は林遣都が演じてますからね(笑)。園子がリスクを背負ってまで、なぜそんな恋愛をするのかわからないという声が、女性からも上がるのかなと思ったりします。

――園子のような女は、そうした女性には反面教師に映るかもしれません。

安藤 僕は結婚や子どもを持つことがいけないと言っているわけじゃないんです。多様性を持った価値観を女性が追求できない社会がいけないんだけど、流れに逆らわずに生きればいいんだと思わないで、疑問を持ってほしいです。自分なりの生き方を追求してほしい。園子の生き方は極端かもしれませんが、園子は自由を獲得するために、リスクも背負っているということも忘れないでほしいですね。

■男は感情より理屈が先
――それにしても、園子の夫・雨宮は極端な人で、彼の中でリアルな園子とはかけ離れた園子像がありませんか?

安藤 男にありがちですね。ロマンチストというか、女性を理想化してしまうという。感情よりも理屈が先なんですね。女性は感情が先で、自分のエモーショナルな部分を大切にしますが、男は、理屈で感情を捻じ曲げてしまうんですよ。そこが男女の違い。僕は女性を撮るとき、女性の「自分の感情を信じる」という潔さ、ブレない想いを描くように意識しています。

――この映画は、見る人によって180度感想が異なる映画ではないかと思います。その人の恋愛観が出るかもしれません。

安藤 見る人によって違う映画というのは、僕としては理想です。こう見てほしいとは思っていないので、自由に見ていただき、その結果、いろんな見え方をしていたらうれしいですね。
(斎藤香)

安藤尋(あんどう・ひろし)
早稲田大学在学中より、映画制作の現場に参加し、助監督を経て、1993年に成人映画でデビュー。03年『blue』で主演の市川実日子を、モスクワ国際映画祭最優秀女優賞へと導く。嵐の松本潤と榮倉奈々主演作『僕は妹に恋をする』(07)、市川由衣と池松壮亮主演作『海を感じる時』(14)ほか、映画、テレビドラマで監督作多数。

『花芯』
園子(村川絵梨)は親の決めた許婚の雨宮(林遣都)と結婚するものの、彼のことを愛せないまま夫婦生活を継続する。夫の転勤で京都へ移り住んだ園子は越智(安藤政信)という男性にときめきを覚えるのだが……。(16年8月6日~テアトル新宿他全国公開)
原作:『花芯』瀬戸内寂聴著(講談社文庫刊)  
監督:安藤尋 脚本:黒沢久子 
出演:村川絵梨、林遣都、安藤政信/毬谷友子
公式サイト

最終更新:2016/08/05 19:00
『花芯 (講談社文庫)』
女を「怖い」という男には用はなくってよ
アクセスランキング