何がトイアンナを恋愛アドバイザーせしめるのか? 『恋愛障害』刊行インタビュー

恋愛やキャリアについてのコラムニストとして、今や多数のメディアから引っ張りだこのトイアンナさん。外資系企業でのマーケティング経験を活かした冷静な現状分析や、切れ味鋭い批評に定評があります。この6月には、初の単著である『恋愛障害 どうして「普通」に愛されないのか?』(光文社新書)を上梓しました。本書は、恋愛において対等なパートナーシップを作れず、長期的に苦しむ傾向や状態のことを「恋愛障害」と名付け、その障害を乗り越えるための具体的な手段、考え方を明快に提示しています。

 「いつも問題のある男性を好きになってしまう」「浮気をやめようと思ってもやめられない」「恋愛がしたいとは思うのに、他人に恋愛感情を持てない」……「普通に愛し愛されない」ことに関するSOSが溢れかえるインターネット。そこでトイアンナさんがメッセージを発し続ける理由は? どうして「恋愛障害」という言葉が今必要なのか? トイアンナさんの哲学に迫ります。

◎「読んでいて辛くなった」という声も届いた

──トイアンナさんは現在、「AM」「ハウコレ」その他10以上の媒体でコラムの連載、執筆をされていますが、『恋愛障害』はそれらとは別に書き下ろした内容ですね。初の単著を執筆するにあたって、やはりネットでの情報発信とは違うコンセプトを立てられたのでしょうか?

トイアンナ はい。SNSやブログ、WEBコラムでの執筆とは方向性を大きく変えて作りました。WEBでの情報発信は、「恋愛ってこうしたらいいと思うよ」「結婚についてはこう考えてみたら?」というライトなアドバイスが中心です。今回の『恋愛障害』では、そこから一歩踏み込んで、読んだ方が実際に自分を変えるための活動を始める……「心のエクササイズ」を開始できるところまで寄り添いたいと考えました。

──なぜ恋愛がうまくいかないのか、という分析・批評だけにはとどまらない内容になっていますよね。後半は特に、自尊心が低くなってしまっていることを自覚し高めていこう、もっと自分を労ろう、という促しがメインとなっています。

トイアンナ この数年、恋愛やキャリアに関する相談を受け続けていて、多くの問題の根源には、自尊心の低下や欠如があると感じました。そういう方はまず、自分を大切にする感覚がわからないんです。だから、自分を大切にしてくれない人から自分をうまく守れない、あるいは愛情を向けられてもうまく受け止められない、ということが起きてしまうんです。こうした傾向で人が長期にわたり苦しむのなら、その苦痛は一種の“障害”と呼べるのではないか。だとしたら、それを乗り越える術を知れば楽になるはずだと思い、この本を書きました。自分に自信のない人が自己肯定を得るためにはどうしたらいいか、なるべく具体的に、ツールとして使ってもらえるよう書いたつもりです。

──本の発売から一カ月ほど経ちました。反響はいかがですか?

トイアンナ 想定よりも大きな反響をいただいてびっくりしました。発売されてすぐに買って読んで、丁寧な長文の感想メールを送ってくださるような方も多かったです。こうした本を必要としている人の手元に一冊でも多く行きわたれば、という気持ちでいたので、ちゃんと届いたんだと感じられる反響があると嬉しいですね。

──Amazonのカテゴリランキングでもしばらく1位を取り続けていましたね。ネットを見ていると、やはり4章以降の“心のエクササイズ”のパートの評判がいいように感じます。

トイアンナ そうかもしれません。ただ、実はそのパートが不安の種でもありました。実際に、読者さんからは「役に立ちました」という声と同時に、「読んでいて辛くなりました」という声も届いています。

──どういうことですか?

トイアンナ 4章の「あなたは過去と向き合えるようになる」では、主に「自分の心の傷を見つめ直す」ことがメインのワークになります。これは心の傷を癒すのに必要な過程ですが、同時にとても怖いことですよね。人によっては、過去を振り返るだけで苦しくなることもある。だから、この本の内容を真剣に受け取りすぎて、逆に病む方がいらっしゃったらどうしよう、ということを懸念していたんです。こういうワークって、あまりに真面目に取り組みすぎるとストレスの元にもなるので。

私もそうでしたが、自分に自信のない人は、他者から言われたことを過剰に気にしやすいんです。これは、マーケッターとして働いていた頃から、消費者行動の傾向として認識していたことでした。

──それに対して何か具体的な予防策をとられたのでしょうか?

トイアンナ 原稿の段階で、想定読者に近いタイプの友人に読んでもらい、忌憚のない意見をもらうようにはしました。あとは「辛くなったら休もう」「適当に取り組もう」という配慮のメッセージもなるべく入れたつもりです。ただ最終的に、「自分は愛し、愛されていいんだ」と思えるところまで辿り着くためには通過せざるを得ないところでもありますから、「飛ばしていいよ」とは書かない。そのあたりで、綱渡り的な感覚はありました。

◎「なぜ愛されないのか」を指摘するだけの時代は終わった

──アドバイザーとしての活動は、もともとはask.fmやtwitterといったSNSを中心に行われていましたよね。寄せられる相談の数は相当多いようですが、トイアンナさんはそれに答え続けていらっしゃいます。そういったモチベーションは、トイアンナさんのどこにあるのでしょうか。

トイアンナ 昔から、こういったことをするのが好きなんですよね。何か壮大なビジョンを掲げているとか、正義のためにやっているというわけではありません。日々の家事をこなすようなものというか。目の前に解決されるべき問題があるんだからその解決のために動こう、というシンプルな義務感が原動力なんです。自分では自分の行為のことを「おばさんのおせっかいの延長」のように思っています(笑)。

今回の本に関しても、「自尊心の低い人がこんなに多いのに、どうして自尊心を育てられるような本がないんだろう」という問題意識がまずあって、「ないならもういい、自分で書いてやる」という気持ちで作り始めました。

──自尊心を高めるような本は少ないんですか? 恋愛にまつわる本は日々大量に発刊されていますよね。その中には、自尊心の低さについて触れた本も多いように思いますが。

トイアンナ 自尊心の低さを指摘した本は多いと思います。「なぜあなたは愛されないのか」を解説するものですね。そういった本は、自尊心の低い人が「そうなのよ、そうなのよ」と共感しながら読めるので人気も高い。一方で、「じゃあどうすればいいのか」という具体的な解決策を記した本は、あまりないと感じていました。

──今のお話を聞いて、二村ヒトシさんの本を思い出しました。恋愛指南書としてかなりのヒットである『すべてはモテるためである』『恋とセックスで幸せになる秘密』(イースト・プレス)などは、「どうして自分はモテないのか(愛されないのか)」という読者の問いに答えていくタイプの本です。多くの共感を呼んだからこそのヒットだったと思いますが、そういった本とは違うものを提供したいという意図があったのでしょうか?

トイアンナ 二村さんの本は本当に名著だと思うんです。10年後、20年後も読まれてほしいし、読まれるでしょう。二村さんの一番の功績は、恋愛がうまくいかない状態における最大の問題は何なのかを、「キモさ」や「心の穴」といった言葉を使って明確にしたことだと思うんです。山しかないところに道を作ったところが素晴らしい。だったらやっぱり、私が似たような本を書いても意味がないんですよね。役割分担って大切じゃないですか。もう問題は指摘されている。なら次は、どうやってその問題を解決するかという仮説と実証を作るべきだと思っています。

◎「障害」という名付けが必要だった理由

──問題解決といえば、「恋愛障害」というタイトルを見たとき、これは少し難しい言葉だなと感じたんです。たとえば、「自分は恋愛障害を抱えている」と表明することはできても、恋愛で悩んでいる人に対して、「それって恋愛障害だよ」と軽々しく言うことはできないですよね。「障害」という言葉を用いることにはセンシティブな問題もつきものだと思うのですが。

トイアンナ それはタイトルをつける段階から考えていたことでした。私が思うのは、まず「ある種の事象には名前をつける必要がある」ということです。名前があり、メカニズムが明らかになっているものだと知ることで楽になったり、改善できるようになったりする問題って多いので。

たとえば、生きづらさを抱えていた人が、病院で発達障害を指摘されたことで「ああ、発達障害だから生きづらかったのか」と納得して楽になる例などがよくあります。そこを起点に、対策を講じられるようになるんですね。

──たしかに、とっかかりとなるものがまったくないと、「自分が駄目な人間だからだ」というような、自尊心を低くする方向でしか状況の解釈ができないかもしれませんね。

トイアンナ 私自身、病院で「自己愛性パーソナリティ人格障害」という診断を出され、1、2年しっかりと治療を受けた経験を持っています。パーソナリティ障害というのは、精神病とは違って、社会の一般通念とあまりにずれている考え方や気質、振る舞いなど性質全般のことです。私も、自分の性格を「クズだな〜」と思うんですよ。人間として終わっているとすら(苦笑)。

この気質自体は多分、これからも変わらないんです。じゃあ治療を受けて何が変わったのかといえば、「クズだけど、でもいいじゃん」と思えるようになったということ。治療を受ける前は、テストの点が悪かったとか、人に何か少し批判されたとか、それだけですぐに「自分は駄目な人間だ、死ぬしかない」と思いつめていたんです。

──それは相当大きな変化ですよね。

トイアンナ そうなんです。パーソナリティ障害の寛解についてはいろんな考え方や定義があるのですが、治療を受けた側の感覚として、「まあいいか」と思えるようになるのはすごく大きなことだし、苦痛からのある種の「卒業」でもあるんですね。

この本でも「卒業」という言葉を多用しているのは、恋愛障害は「卒業」できるものだと思ってほしいからです。思考や行動の癖というのは「生き方」になってしまっていることが多いので、かなり意識的に取り組まないと変えるのは難しい。でも寛解の道は閉ざされていないし、そのためのメソッドは精神医療などの分野から持ってくることができる。そういったことを、この本では示唆しているつもりです。

◎カウンセリングのプロではなく、悩める人の案内人でありたい

──トイアンナさんはこの本でもコラムでも、精神科医療や専門機関の支援をもっと活用するようよく呼びかけていますよね。

トイアンナ 生きづらさを抱えている方と、専門機関の接続をもっと良くしたいというのは、私の長期的な目標のひとつです。日本ってそもそも、精神科医療を受けるまでのハードルが高すぎるんですよ。欧米ではもっと気軽に、占いを受けるくらいの感覚で活用されているのですが、日本ではそうではない。精神系の治療を受けるとか、特定の診断を出されたとなると、何か「烙印」を押されるような感覚になってしまうんですね。でも、プロでなければ対応できない領域というのはあると思うんです。

──本を読むと、そのあたりの線引きはかなり厳密に行っていらっしゃる印象です。

トイアンナ たとえば、両親から身体的暴力を受けているのに加えて経済的にも搾取されている、というような状態であれば、頼るべきは私の本ではなくて法テラスですよね。「親への怒りを伝える」なんてワークをやっている場合ではないわけですから。相談を受けていて「これは私が責任を取れないレベルの話だな」と感じたらガンガン専門機関を勧めます。私は相談は受け慣れているけど、決して何かの専門家というわけではないので。

──特定のジャンルの専門家ではないけれど、彼らと悩める人との間のハブになれる、ということがむしろトイアンナさんの強みなのでしょうか。

トイアンナ そうですね。そこにとどまっていないと、プロの方からお叱りを受けてしまうと思います。あと、もし私が医者であればもっといいことを言えたかというとそうでもないかなと思っていて。案内人だからこそ、いろんな悩みに対して「その問題についてはこっち、その問題についてはあそこに行ってね」という柔軟な対応ができる。私が何かの専門家だったら、来た人を自分の専門領域のやり方で助けることはできても、他の領域とのつなぎ役はできなかったかもしれない。何より、「トイアンナというツールがここにありますよ」という情報発信が下手くそだったんじゃないかと思うんです。

◎退路だけは確保しておいた方がいい

──『恋愛障害』で取り上げられているような苦しい恋愛話は、コンテンツとして消費されやすいという一面もありますよね。2chや発言小町のまとめ、あるいは著名人のゴシップなどで見られる、「他人の不幸な恋愛話をみんなで面白がる」というような風潮に対してどう思いますか?

トイアンナ 私も発信側なので表現が難しいですが、需要と供給が噛み合うこと自体は仕方がないと思っているんです。たとえば、パートナーの不倫に傷ついている人が「不倫をする奴なんて人間失格だ」というような読み物を求めるのは普通のことですよね。ただ、それで不倫をしている人が「私は人間失格だ、死のう」ってなるのであれば「ちょっと落ち着いて」と語りかけるコンテンツもあったほうがいい。コンテンツについては、いろんな需要に応えるものがあるべきかなと思います。

そして私は、いろんな苦しい立場にいる人たちに対して、なるべく共感を寄せられる立場でいたいんですよ。恋愛障害に陥る人たちの傾向として、他者から共感された経験が極端に少ない、というものがあるので。同情ではなく共感が大切なんです。だからどんな条件の恋愛についても、否定からは入らないようにしています。

──『恋愛障害』でも取り上げられていますが、やはり不倫は消耗しやすいパターンのひとつですよね。トイアンナさんは不倫に対して否定も肯定もしない、という考え方なのでしょうか?

トイアンナ 私の夫に手を出す女がいたら地の果てまで追い詰めますけど(笑)、それはそれとして、不倫が起きること自体を批判はしません。恋愛に「あるべき・ないべき」論は不毛なんです。不倫をしている人に「不倫はするべきでなかった」と説教したって、今しちゃっているんだからしょうがないじゃないですか。今その人がどうしているのか。つまり「だ・である」しかないと思うんです。それをどう変えていくか、というところにしか他人はアプローチできません。

不倫をしていることがその人にとって苦しいことで、どこかのタイミングでやめた方がいいと感じているなら、それはやっぱりやめたほうがいいよねと思うし、そう伝えます。一方で、不倫が楽しくてしょうがなくて、既婚者相手の恋愛は責任を負わなくていいから本当にハッピー! と感じている人がいるなら、その人にまでやめた方がいいとは言いません。法的措置を取られることだけは覚悟しておこうね、と注意しておしまいです。

でも当たり前ですけど、ほとんどの人は自尊心を失いながら不倫をするんです。恋愛に限らず、やっていて疲弊することに関しては、いつでも逃げられるはしごというか、退路だけは用意しておいた方がいいと思うんですよね。そこ以外行くところがない、という状況が一番危険なので。私がこの本で「卒業」という言葉を多用しているのもそう考えているからです。今の状況を続けるかどうかはともかく、ここからは自分の意思で離れられる、ということ前提で過ごせた方がいいです。

──ご自身についても、そういったことを常に考えていますか?

トイアンナ そうですね、もともと臆病な人間なんですよ。ライター業についても、いつかやめるとしたら自分は今何をしなければいけないのか、ということを常に考えています(笑)。

生きていれば、どうしようもない事情で生き方を変えざるを得ないことって色々ありますよね。子供ができて、思ったより手がかかるから仕事を辞めざるを得なくなったり、介護のために家族や仕事に割く時間をセーブしなくてはいけなったり。それをあらかじめ考えるのが私なりの「退路」なんです。

◎『恋愛障害』はただのツールである。

──恋愛問題などについて、トイアンナさんがどなたかに相談することはないのでしょうか?

トイアンナ この数年ずっとないですね。ほとんどの問題については、自分で解決できるし責任もとれると知っているので、特に人に相談する気にはならない感じです。たとえば、今夫に振られたら絶対にものすごく落ち込みますし、友達に「辛いから話を聞いて」と言うことくらいはあるかもしれません。でも「この先どうしたらいいの」という相談をすることはないと思います。それは自分で考えて決めるので。私が相談するとしたら、自分の意思決定のために、その分野の専門家の意見がほしいと思ったときくらいです。

──なるほど。じゃあ、たとえばトイアンナさんが今不倫をやめられなくて苦しんでいるとしたら、どういう風に自分の状況を立て直していきますか?

トイアンナ まずは不倫を今していない、という点を強調させていただきつつ(笑)。そうですね、今自分が不倫で得ているベネフィットを、どうしたら他から得られるだろうか、ということを考えると思います。私は不倫から何を得ようとしているのか。それが性欲なら、他で発散できないか検討してみる。承認欲求なら、承認を得るための他の手段を考える。そういう、システマティックな検証を積み上げていきますね。

──さすが、心のエクササイズを重ねてきただけありますね……。

トイアンナ いえ、これは恋愛障害を自分が乗り越えてきたからというよりも、外資系に勤めてしまったが故の病気だと思います(苦笑)。仕事柄、そういった分析をずっとしてきたので。

ただ実際、カウンセリングにも似たようなメソッドがあります。カウンセラーは、「どうしてあなたはそんな風になったんですか?」ではなく、「何があなたをそうせしめたのですか?」という聞き方をするんです。小さな違いですけど、こう表現すると、「自分のせいでこうなったんだ」と思うよりも、問題との間に距離感が発生しますよね。これなら、「パーツが壊れているから修理すればいいんだな」というような考え方が少し容易になるわけです。

──この本からも、そうした距離感をトイアンナさんが大切にされていることが伝わってきます。自分やこの本を「ツール」として使ってほしい、と強調されているのも、同じ考え方に基づいているのでしょうか?

トイアンナ そうですね。本には色々あって、人の心を揺さぶる芸術品のような小説なんかもたくさんありますけど、少なくとも私や、私の本のことは「ツール」だと思って“使って”ほしいんです。「このペンチ使いやすいね、これのおかげで壊れていた部分が直せたね」って言ってもらえたら著者冥利につきます(笑)。でもペンチは所詮ペンチだから、信仰や依存はしないでほしい。ペンチは包丁の代わりにはならないから、元々の使用目的に沿った使い方をしてほしいし、ツールとして使い終えたら卒業してほしいと思うんです。Amazonのカテゴリランキングで一位を取っていたのも、もちろん嬉しくはあったのですが、逆に「この本がこんなに必要とされているのは由々しき事態なんじゃないか」とも思いましたから。

──ある意味、こういう本が売れない社会の方が健全だということでしょうか。

トイアンナ いつの日か、「恋愛障害か、昔ってこういう流行病みたいなのがあったんだよね」って語られるような状況が訪れるのが理想かもしれませんね。私にとっても皆さんにとっても幸せな結末は、一回たくさん売れて、読んだ人たちがこの本を使って状況を前進させて、あとは見向きもされない、というものなんじゃないでしょうか(笑)。
(聞き手・構成/小池みき)

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