生理中の女性は万引きし、放火する…。昔からあった婦人科系トンデモの世界

「月経(生理)はネガティブな感情も洗い流してくれる、月に一度のデトックス」「子宮の声(訳:魂の欲求)は月経という形で目に見える」「布ナプキン生活を送ると経血を慈しむ気持ちが芽生え、真剣に体と向き合うことができるようになる」「月の満ち欠けと月経は連動していることから、女性は神秘で自然と密接な存在であるetc.

 スピリチュアル界、自然派女子、そして経血コントロールや子宮教などのおまた界周辺では月経を神聖視して、自己肯定感を高める手法が定番です。

 確かに月経はさまざまな時代や文化の中で、神秘、畏怖の対象として特別視された歴史があったのは事実です。しかしそれらはいい話ばかりでなく、〈不浄〉扱いされてきたネガティブな歴史があるのも、皆さまご存じのとおり。いずれにしてもその背景は、科学がまだ発展していなかった(月経のしくみが解明されていなかった)のをいいことに、権力や利益の都合によって最もらしい物語で広められたものであるのが大多数のようです。そもそも生殖機能以外の何物でもない月経に必要以上の役割を盛り込むのって、〈女は大いなる自然とともにある母であれ〉という価値観を押し付けられているようで、どうも賛同しにくい!

 そんなわけで改めてぜひ皆様とご一緒にウオッチングしたいのが、根拠のないお説で月経を語ることがいかにアホらしいかを知ることのできる、かつてのトンデモ月経論の数々。〈月経が犯罪の原因である!〉と謳われた歴史、その時代背景を検証する『月経と犯罪 女性犯罪論の真偽を問う』(田中ひかる著・批評社)から、オモシロ月経話をご紹介しましょう。

◎生理がある女性は愚かで、弱い

 政府の御用雑誌であったという『婦人衛生雑誌』で紹介されたり、明治の女子教育論で用いられたりした月経にまつわるお説が、こちら。多くは西洋の学者たちの主張が、輸入されたもののようです。

・娘にはあらかじめ月経の知識を与えておかないと、突然の出血に驚いて痙攣を起こし、それが契機となり精神疾患を発症する。(何でもかんでも「犯人は月経だ!」にできたのなら、医者もさぞかし楽だったことでしょう)

・月経時は精神が刺激されやすく悲しんだり怒ったりしやすいから、刺激をあたえないようにとされ、芝居、寄席、小説、競争勝負、複雑な事はすべてNG。(娯楽は刺激という発想が、逆に新鮮っす)

・初経期以降の女子が教育を受けることは身体にも精神にも有害。女が脳を使い過ぎると生殖能力に悪影響を及ぼす(子宮系女子界でも、似たような主張があったなあ)

・月経中は妄想、嫉妬に襲われやすい(当時の女性に、聞き取り調査したのかな? 調査法が知りたいわ)。

・生理中は女の注意を引きやすい宝石や装飾品の誘惑に抵抗できず、無意識のうちに万引きしてしまう。ついでに放火も女特有の犯罪なので(もちろん根拠なし)、恋人に会いたい一心で放火をした有名事件〈八百屋お七〉も月経中だったのではというお説(多くの女性犯罪者が月経中だった可能性があるのは当たり前過ぎ)

要は〈心理、知的、道徳的に月経の支配下にあり、毎月異常な状態となる女は弱い存在なので男の庇護下にあるべき〉と主張したいがためのお説であったと、同書で解説されています。権力は男が独占し、当時の重要案件である〈富国強兵〉を支えるため、女は徹底して家庭に入り産んで子を増やして育てあげてねという生き方を強いるのが目的という。

 さらにひたすら笑うしかない経血研究の話も紹介されています。それは〈月経期の血液・唾液・尿・汗・母乳・涙・吐息に含まれる毒素が植物を枯らす〉というもの。布ナプキンを洗ったあとの経血入りの水を植物に与えるなんて話がありますが、当時だったらテロ行為ですね。いやいや、現代でも公衆衛生的に十分テロか。古代ローマの「博物誌」では、経血に触れると植物は枯れ、金属は錆び、犬は発狂、その犬にかまれると不治の毒に侵されるといいます。経血が、ラピュタの「バルス」並みの破壊力を発揮!

 昭和初期に発行された『犯罪科学』では、経血の有効利用方です。経血を塗ると、痛風、甲状腺、腫瘍、唾液腺炎症、丹毒(皮膚病の一種)、せっそう(切り傷)、産褥熱、狂犬病、癇癪、頭痛、不妊に効果があるといいます。塗るだけでなく〈パンに包んで食べると催淫剤になる〉なんてものも。わあ、オールマイティな経血の神秘~。

◎月経を過剰演出する人たち

 しかしこれを紹介した医師が当時の世相について「迷信を排除して科学に頼りつつ、化学的な言葉には一にも二にも麻痺して過信する」と語っていたとのことで、広めた本人が、これらの月経話は婦人科系ニセ科学であることを認めていた気配が濃厚です。とっくに鬼籍となっているであろう当時の医師も、21世紀の現代で〈紙ナプキンの化学物質が性器の粘膜から吸収され、子宮に毒がたまって生理痛がひどくなる〉なんて月経ニセ科学が未だ存在することを知ったら、さぞかし驚くことでしょう。

 そもそも日本においては月経を不浄視する文化はありませんでしたが、仏教の輸入とともに穢れ設定になったそう。室町時代には〈女は経血で地神や水神を汚すので血の池地獄へ落ちるが、血盆経(けつぼんきょう)を信仰すれば救われる〉という宗教もお目見え。悪事を働いたのならともかく、自分ではどうしようもない、しかも生理現象にケチつけられてもなあ(笑)。とにかく月経にケチをつけまくることで女性を蔑視し、男が権力を独占していた事例が同書にはぎっしりです。

 冒頭の月経神秘派は、これらの月経がタブー視されていた時代もちゃっかり引き合いに出し、〈月経をポジティブにとらえることが、温故知新なこれからの時代の女!〉と持ち上げたりもします。しかし利益宣伝のために月経に過剰なイメージを植え付けることは、このような残念すぎる歴史とやっていることの根っこは同じ。いのちは全て、神秘で尊くてあたりまえ。月経は生殖と健康のため、上手に付き合いましょうね程度でいいんじゃないでしょうか。踊る阿呆に見る阿呆……は阿波踊りだけにして、過剰な演出の月経話には乗らないほうが無難というものです。

(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)

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