月経血は「きれい」なのか? 透明化した生理と、女性の生きづらさの関係/『生理用品の社会史』田中ひかる氏インタビュー後篇

『生理用品の社会史:タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)は、1961年に誕生した国内初の使い捨てナプキンが、いかに女性を生理のわずらわしさから解放し、社会進出するのを後押ししたかをつぶさに追った痛快な1冊である。生理用品の歴史をひも解くと、社会が生理をどう捉えていたか=生理観が見えてくる。それはすなわち、女性観でもある。

 しかし近年、経血をナプキンに出さずに尿のようにトイレでまとめて排泄する「経血コントロール」を推奨する、あるいは市販の使い捨てナプキンを「身体に害がある」と批判し布ナプキンの使用にこだわる……そんな“子宮系女子”の存在が確認されている。まるで時代を逆行するかのような流れを、同書の著者、田中ひかるさんはどう見ているのか?

田中ひかるさん(以下、田中)「布ナプキンを過剰に推奨する人たちには経血を神秘化する傾向があり、布についた経血を見て、愛しみながら洗いましょうと勧められています。トイレにある使用済み生理用品入れを“汚物入れ”と呼ぶことにも強い嫌悪感を示します。が、そもそも経血は“きれいなもの”なのでしょうか?」

 田中さんは著書で、男性社会が女性の生理に“意味づけ”をする以前に、原始の時代から生理に対する畏怖はあったと指摘している。それは、血液に対する本能的な恐れからのものだった。

田中「結論からいうと、私は経血=汚物と捉えています。なぜなら、血液だからです。原始の人たちは血液が感染症の媒介となることを知っていて、だから恐れていたんです。経血も排泄物にほかなりません。いま商業施設などのトイレは掃除が行き届いているし、自動でフタが開閉するボックスも増えているので、汚物入れの周りもきれいです。けれど、公園の公衆トイレあたりではいまだ使用済みナプキンが散らかっていますよね。子どもが知らずにそれに手を伸ばして、経血に触れるのは非常に危険なので、はっきり“汚物入れ”とアナウンスしたほうがいいと思います。布ナプキンのユーザーは外出先で使用済みナプキンを密封袋に入れて持ち歩きますが、よほど慎重に扱わないと公衆衛生的にアウトです」

◎メーカーは安全性を発信すべき

 ただし、布ナプキンそのものに問題があるわけではない。

田中「市販の使い捨てナプキンでは皮膚がかぶれるからとか、肌触りが好きで休日だけ使っていますとか、上手につき合っている方もいますし、販売する側にも良心的な方がいらっしゃることも知っています。そういう方たちは、『女性の身体に悪い影響を及ぼしている』という理由で使い捨てナプキンを攻撃し、布ナプキンを販売する業者は迷惑な存在だとおっしゃっています」

 たとえば、一部の布ナプキン業者は「生理痛は、使い捨てナプキンのせい」とする。それがなかった時代は生理だからといって薬を飲むような女性たちはいなかった、という主張だ。

田中「100年ぐらい前は、有効な薬が市販されていませんでしたからね。また、布ナプキンには保温効果があるので、使い捨てよりは生理痛が軽減するということはあるかもしれません。でも、鎮痛薬に頼らざるをえないほどの重い生理痛もあります。そういう人たちに『身体の鍛え方が足りないせい』とし、経血コントロールをする力をつければナプキンもいらないし、PMSや生理痛も改善できるという考え方を押し付けるのは、酷というものです」

◎こうした業者は、使い捨てナプキンに対する不安を煽りに煽る。

田中「大手の生理用品メーカーが使い捨てナプキンの安全性を証明すればいいはずなのですが、メーカーからすれば、布ナプキン業者は規模が小さいところばかりでシェア脅かされるほどではない……つまり相手にしていないんです。でも、その安全性をメーカーが発信することは、決して無意味ではないはず。生理用品メーカーが加盟している日本衛生材料工業連合会のHPでは使い捨てナプキンの安全性が実証されていますが、さらに進めて、各メーカーがパッケージに安全性について明記すれば、なんとなく不安を感じている人たちも安心できるのではないでしょうか」

 経血コントロールに話を移そう。『生理用品の社会史』には、女性たちが長らく経血の処理に腐心してきた歴史がつづられている。アンネ社が使い捨てナプキンを発売するまで、装着も処理も手軽な生理用品は存在しなかった。ゆえに女性たちの社会進出がままならなかったのは、前篇でお話いただいたとおり。経血コントロールを推し進める人たちがいう「昔の女性はできていた」例はほとんど見当たらないと田中さんはいう。

田中「いまのような生理用品がなかった時代、女性たちが“粗相”を恐れ、経血が流れ出ないよう意識していたということは考えられます。実際、昔は食生活が違ったので、経血もサラサラしていました。でも現代人は動物性タンパク質を多く摂るようになったため、経血が濃くなっていますから、じっとしていられるときはなんとかなっても、動いているときも経血を溜めつづけるのは、むずかしいと思います」

◎トンデモ言説がはびこる背景

「布ナプキンで子宮を健康に」「おまたぢからで、経血をコントール」など実態のないものに惹かれる女性がいるのは、いったいなぜなのだろう?

田中「昔に比べ、女性の人生の選択肢が増えたことで、かえって生きづらさを感じてしまう女性たちがいます。生きづらさを克服しよう、自分を磨こうと考えたとき、真面目で素直な女性ほど、『子宮を大事にすればいい』『古きよき習慣を身につけよう』という声に感化されてしまうのではないでしょうか。自分の身体に目を向けることは大事ですが、同時に客観的な判断力を持つことが必要です」

 女性たちは、生理を神秘的な現象としてではなく、みずからの身体に必然としてある生理現象として捉え直す必要があるのではないか。

田中「生理を不浄視するのも神秘化するのも、紙一重です。アンネナプキンが発売されたころは、バスや電車の床に経血がついた脱脂綿が落ちていたり、着物の後ろに血が染みだした女性がめずらしくなかったり、それは女性にとって快適な状態ではありませんが、生理が現実的な現象として誰の目にも見えていました。でも、いまはナプキンが高性能化したことによって、そんな“失敗”はほとんどなくなり、生理が透明化してしまったんです。目に見えないものは、“ない”ことになります。みんなが生理という生々しい現象を共有できなくなったからこそ、不確かな言説が広まりやすいのかもしれませんね」

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