「トランスジェンダーは正社員になれない」「ゲイの世界ではセックスはあいさつ代わり」はウソです。

「トランスジェンダーは正社員になれない」「ゲイの世界ではセックスはあいさつ代わりのようなもの」ネット上にまことしやかに流れるLGBTの噂があります。

『先生と親のためのLGBTガイド』(合同出版)の著者である遠藤まめたさんは、トランスジェンダー当事者としての自身の経験から、10代の子どもの支援に関わってきました。インタビュー前編では、「もし子どもにカミングアウトされたら」についてお話を伺いました。後編では、ネット上に流れる不確かな情報の弊害について、お話を伺います。

◎インターネットに流れるデマ

――『先生と親のためのLGBTガイド』で、ぜひ紹介したいと思ったのは、ネットの噂をはっきりと否定していた点です。

遠藤:今の学校では、多様な性についての肯定的情報はとても乏しいです。自分の性に違和感があっても、子どもがそのことを言葉にするのは難しいですし、知識がないので、自分が「悪い」とか、「ガマン不足」「病気」なんだと思ってしまいます。

学校や家庭で正しい知識を得られなかった子どもたちが、情報や仲間を求める先はインターネットです。しかし、ネット上には、不正確な情報やうそも紛れ込んでいます。

■インターネットに広がるLGBTについての不正確な情報やうそ
・LGBTは地方では生きていけない
・ホルモン療法をするトランスジェンダーは早死にする
・性適合手術を受けたいなら、早くしないと幸せになれない
・トランスジェンダーは正社員になれない
・ゲイの世界ではセックスはあいさつ代わりのようなもの
・男同士、女同士の性的な行為なら、セクハラやレイプにならない
・同性カップルは長続きしない

中には、「性同一性障害の人の平均寿命は45歳」なんて情報もあります。そんなことありません! もっとも、私は高校生のときに信じて、半べそを掻きましたけど(笑)。誤った情報にもかかわらず、LGBTの子どもたちや周囲の大人が必要以上にネガティブになるのは問題です。

◎「何をしているんだ大人!」問題

――たとえば、「ゲイの世界ではセックスはあいさつ代わりのようなもの」という噂は、よく聞きますよね。

遠藤:異性愛者でも、あいさつ代わりにセックスをする人はいるのかもしれませんが、みんなそうではないでしょう。ゲイだって同じです。普通に考えてみたらわかると思いますが、異性愛者の中でも、年上好き、ツンデレ好き、束縛するタイプ……など多様な恋愛が行われていますよね。同性愛者だって、恋愛観や好きなタイプ、セックスに対する考え方は一人ひとり違います。したくないセックスは、同性だろうが異性だろうが性暴力です。

このデマの深刻な問題は、年上のゲイ男性からそのようなことを強く言われると「そういうものかな」と望まない行為でも受け入れてしまう子どもがいることです。

中高生のLGBTの子たちは、自分と同じような仲間と会う機会が少ないので、専用の出会い系サイトで自分のつらいことを相談したりするんです。そこで、大人と仲良くなり、その大人が「そうだね」なんて優しく相談に乗ってくれたりする。必ずしもみんなが優しい大人であるわけではありません。単に身体目的の可能性もあります。

たとえば、実際に会おうと待ち合わせていても、その子が「イケてなかった」ら顔をみて向こうが帰ってしまうことがあります。生まれてはじめて親切に話を聞いてくれた人だと思っていたのが、突然連絡がつかなくなれば、そんな悲しいことはありません。

あるいは、待ち合わせ場所に行ったら複数人の大人がいたり、車に乗せられて性行為を強要されたという話もあります。コンドームをつけてもらえなかったなんてことも。最初にしたセックスが悲惨だった場合、セイファー・セックスをするモチベーションは下がりやすいと言われています。「男同士だから妊娠しないし、コンドーム使わないでしょ」と言われると、情報がなければそんなものなのかと思ってしまいます。こんな風に、「何をしているんだ大人!」みたいな情けないエピソードはけっこう聞きますね。

――これは、ゲイに限った話でもなく、異性愛の出会い系サイトでも同じようなことが起きて問題になっていますよね。異性愛の出会い系に対して、注意を促すようなことは聞きますが、同性愛についてまではカバーできていないし、周囲の大人もそこまで知らないのだと思います。

遠藤:だからといって、子どもに「ネットを使っちゃいけない」とお説教をしても届きません。必要だからネットで出会いを求めているわけです。禁止しないけれど、せめてマシなネットの利用方法を考えたいですよね。あとは、LGBTについての情報提供や仲間づくりの場が、他に確保されていないといけない。

私は、男子生徒にもちゃんと性教育をする必要を感じているんです。たとえば、女の子だったら「はじめて会った人の車に乗っちゃダメ」と言われますが、男の子は言われないで過ごしてしまうことが多い。もちろん、性暴力は100%加害者が悪いに決まっていますが、自分の身をどうやったら守れるのか、基本的な方法を教えるのも必要なのかもしれません。

特にゲイの子の場合、裸の自撮り率が高い。セクスティング(Sexting)というのですが、自分の身体やエッチな写真を相手に送るカルチャーがあります。ゲイの出会い系アプリは脱いで当たり前です。もちろん、成人していて、本人が納得しているなら問題はないでしょうが、子どもが「それが当たり前」だと思い、搾取されていくのはどうなのか。別れたあとにその写真で脅されるなど、トラブルも発生しています。

セクシュアリティに限らず、自分の裸の写真を相手に撮らせたり、ネットに上げたりしない。すごく当たり前なことから知ることが必要なのかもしれません。

◎LGBTでも夢は叶えられる

――「トランスジェンダーの人は正社員になれない」というデマもありますよね。

遠藤: LGBTだからと言って、就きたい仕事が完全に制限されることはありません。とはいえ、就職活動は、男女で服装も違ってきます。私自身も慣れないパンプスを履いたこともありました。結局「こんな格好じゃ無理!」と、電車に乗れずに帰ったのですが……(苦笑)。

特にトランスジェンダーの場合、「性別適合手術をして、戸籍や法律上の性別を変えないと就活で受からない」と危機感を煽るような情報がネットであふれています。

「背が小さいと女にモテない」「脱毛しないとダメだ」のように、コンプレックスを煽るような形で、手術することで儲かる人たちが情報を流してしまうんです。一方で「そのままの身体でいいよ」という情報は探してもヒットしません。その結果、「早く手術しないと」と20代の大学生が焦ってしまいます。

しかし、トランスジェンダーの人がみんな性別適合手術をするわけではありません。実際は、戸籍や身体を変えなくても、自分の心の性で働いている人はたくさんいます。

――心の性で生きるために、必ずしも手術が必要ないということですね。

遠藤:そうなんです。性別適合手術について、多くの方が勘違いしています。私の母親も、カミングアウトした直後はケンカをすると、「手術でもなんでも勝手にしたらいいじゃない!」と捨てゼリフのように言っていました。私は手術の予定がないので、「お母さんは何に怒っているんだろう……」と毎回不思議でした(笑)。

手術をするには、経済的・身体的な負担が大きいため、選ばない当事者も多いんです。というのも、保険が使えないので、手術の代金はかなり高額で、何十万、何百万の費用が掛かります。さらに、手術をするわけですから、身体的な負担もかなり大きいものです。

たとえば、FtMの場合、性別適合手術で子宮と卵巣を取ります。それにより、更年期障害が起こるなどのリスクがありますが、子宮と卵巣って、そもそも見えない部分です。純粋に自分の身体が嫌いで、違和感があって手術をするのではなく、今の「性同一性障害特例法」が求める法的な性別変更の要件をクリアするためだけに、手術する人は多いです。

MtF(男性から女性へのトランスジェンダー)の場合、低い声がコンプレックスの人が多いので、声帯の手術をする方がいます。そうすると、声が出なくなってしまう可能性もあります。最近だと芸能人のKABA.ちゃんが声帯手術をしたことが話題になっていましたね。他にも手が大きいことや、背が高いことに悩んでいる人もいる。手が大きい女性もいると思うのですが、これは手術では治せないし、気になりだしたらきりがありません。どこかで折り合いをつけなくてはいけないし、一方で「性同一性障害特例法」が当事者の「あるべき身体」を決めてしまっている部分もある。

私自身も「自分の身体がどうなったらうれしいんだろう」と考えます。答えの出ない難しい問題です。

――先日「「KABA.ちゃん、性別適合手術で女性になれてよかったね」という報道に社会的意義はあるのか」という記事がmessyに掲載されました。そこでは、身体に強い負担をかける手術について、無邪気に「よかったね」と言うことに対する違和感が書かれていました。手術に「よかったね」と言うことで、まるで「理解」しているふりをして、私たちの偏見や制度の歪さを、個人の身体の問題に無理やり押し込めているんだなぁとすごく考えさせられました。

遠藤:現在の法律では、戸籍変更のために性別適合手術を受ける必要があるのも大きな問題です。本来は必要ないと思っていながらも、戸籍変更のために、手術を受ける人がいるのも事実です。戸籍の性別が女同士、男同士だと、仮に「男女」として愛し合っていたとしても、パートナーと結婚することができません。

つまり、コンプレックスを煽る人々がいる上に、法律もその後押しをしている状況です。子どもたちには自分の身体が「間違っている」わけではなく、社会の側に問題があることを分かってほしいですし、周囲の大人も「身体を変えなきゃだめだ」と思い込まないでほしいと思います。

◎「水商売」じゃないとダメ?

遠藤:そのほかにも、LGBTの子たちは、自分の将来像を描きにくいことも問題です。

以前、九州の田舎に住んでいる、MtFの高校生とメールでやり取りをしていたことがあります。その子の夢は「上京して水商売で働くこと」と「手術をして男性から女性になること」でした。「お店で働いたら遠藤のことも招待するね!」と言ってくれる、健気な子です。

でも、彼女はMtFの仕事は「水商売じゃないと」と思い込んでいました。好きでやるならいいのですが、MtFだからといって水商売一択というわけではありません。しかし、身近にロールモデルがいないから、自分の将来像を描くことが難しいのです。

LGBTで活躍している人は沢山います。マツコ・デラックスさんやはるな愛さんのような「オネエ系」と呼ばれる人が思いつくかもしれませんね。でも本当はそれだけではなく、歌手やスポーツ選手、政治家、文学者、宇宙飛行士、社長など、あげるときりがありません。

本来ならば、LGBTだって、希望している仕事に挑戦することができるのです。これは、私たち当事者の側から、大きな声を出して言わないといけませんね。

「ゲイとはこういうものだ」「田舎は生きづらい」「手術をしたら人生が変わる」、そうした言葉が本当かどうか、LGBTの子どもがその言葉を鵜呑みにして人生を狭める選択をしていないか。また、周りの大人もそれに同調していないだろうかと考えてみてください。

私が自分の性について悩み行き詰っていた10代のころ、性同一性障害という概念さえ周りの人は知りませんでした。だから、インターネットを駆使して、自分が何者なのか、自力で調べあげるしかありませんでした。その中には、不確かで差別的な情報が沢山ありました。いまは、そのころよりも、LGBTについて取り上げられることが多くなりました。それでも、ネガティブな情報がネット上や、社会の間で飛び交っています。

LGBTであることで、自分の人生を諦めざるを得ないなんてことはありません。信頼できる情報を載せたリーフレットなど、子どもたちに確かな情報に触れてもらう方法は沢山あるのです。『先生と親のためのLGBTガイド』も、その一助になってほしいと思います。

(聞き手・構成/山本ぽてと)

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