『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』著者インタビュー

「親に逆らえない」「やりがい搾取」「こだわり自滅」女子学生の就活問題と企業意識の現在

2016/07/09 16:00

■最近10年の女子学生の変化

――男子、女子学生を比較したときの女子が優れている点と、問題点について教えてください。

石渡 女子は男子に比べて動きが早く、就職へのモチベーションも高いです。結果として、早めに就職できる学生が多い。問題点は、エアライン(航空業界)、食品業界、人事部、企画部などこだわりをもったら、それを押し通そうとすることです。こだわりすぎて自滅、ということがよくあります。

――こだわりすぎて自滅する例は新卒に限らず、転職でもありそうですね。女子学生の意識はここ10年ほどでどう変わってきましたか?

石渡 営業嫌い、データ重視、親重視。この3点が、ここ10年間で感じている変化ですね。まず「営業嫌い」ですが、10年前は営業が嫌いな女子は一般職を選択していました。それが、一般職の衰退や総合職採用の増加などから、営業を敬遠する女子でも総合職を志望するようになりました。

 「データ重視」については、10年前も女性管理職比率、総合職採用比率、育休・産休などのデータを重視する女子学生はそれなりにいました。が、今ほど、女性採用・登用が進んでいないため、データがなかった、という事情がありますね。

 最後の「親重視」ですが、10年前に比べると親の影響力が増しています。特に総合職については、10年前は志望者がそれほど多くなかったこともあり、わが道を行くタイプの女子学生が大半でした。それが近年は、親に確認してから、というタイプが増えました。これも、営業嫌いと同じく、一般職志望のおとなしい学生が総合職に流入しているからということが考えられます。

――志望を高望みしがちな学生と、一方で低く見積もりすぎる学生もいると思いますが、それぞれどんな傾向ですか?

石渡 高望みをするのは専門職(デザイナー職、エアラインなど)志望の学生や、旧帝大から準難関大クラスの学生ですね。同級生への見栄から、簡単に軌道修正ができないようです。一方、低く見積もるのは中堅以下の大学や女子大の学生に見られますね。

 高望み、低く見積もりすぎ、両方に共通する傾向としては、企業研究をちゃんとしていないことです。狭い範囲でしか見ていなかったり、ネットのうわさを鵜呑みにしてしまうため、それぞれ志望企業が限定されてしまうのです。

――就職活動が上手な学生は、その後の仕事も順調でしょうか?

石渡 就活がうまくいった学生でも、人事、企画をやりたいなど専門志向の学生は入社後がきついです。「そこまで専門でやりたいなら」と期待して配置した分だけ、はずれた時の失望が企業側・当人側双方に高く、早期退職する可能性が高くなります。

――最近耳にすることの多い「やりがい搾取」ですが、どういった業界に多いですか?

石渡 多いのは、エアラインや美容理容、アパレルなどですね。人気の航空業界ですが、就職できたとしても、会社によっては低賃金で、1年しないうちに退職するケースも多くあります。

――就職して働き始めた後、女性にはマミートラック(産休・育休で仕事の期間が途切れてしまい、復帰後も昇給、昇格しづらい部署に回される)という問題があります。これをめぐる現況と今後の改善展望について教えてください。

石渡 これも、女性が前にいた部署によって大きく分かれるところです。営業や編集など忙しい部署に長く在籍し、総務・人事系を知らない女性社員からすれば、マミートラックを感じ、社会学の上野千鶴子教授のいう「ゲットー説」(※)を取ってしまいます。

 一方、総務・人事系部署に在籍もしくは、業務内容を知っている、あるいは知らなくても仕事の面白みを探そうとするタイプだと、マミートラックをそれほど意識しません。女性側の意識の問題、それと企業ないし社会が産休・育休後のキャリアプランを提示していくことが必要と考えます。
(石徹白未亜)

※ゲットー説……出産後女性に対する企業の配慮は「差別」と表裏一体であり、母親労働者というゲットーに囲い込む、「戦力外通知」だとする説。ゲットーの本来の意味は、ユダヤ人が強制的に居住させられた地区のこと。

最終更新:2016/07/09 16:00
『女子学生はなぜ就活で騙されるのか 志望企業全滅まっしぐらの罠 (朝日新書)』
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