イケメンドラマ特捜部【ジャニーズ&イケメン俳優】

『ゆとりですがなにか』、ヤンキーで暴力的な男に終わらない柳楽優弥の魅力

2016/07/03 19:00

◎柳楽の暴力性が光るわけ
 柳楽が俳優として注目されたのは、2004年に公開された是枝裕和監督の映画『誰も知らない』だ。母親に育児放棄をされた子どもたちが生き残っていく姿を描いた本作で、柳楽は家族を守ろうとする長男を演じた。切れ長の目と華奢な体からにじみ出る繊細な少年性が高く評価され、カンヌ映画祭の最優秀主演男優賞を14歳で受賞。しかし、その後の道のりは順風満帆ではなかった。精神安定剤を大量に摂取して病院に運ばれたことが報道されたこともあり、俳優業から遠ざかっていた時期もあった。

 そんな柳楽の転機となったのが、福田雄一が監督・脚本を務めた『アオイホノオ』(テレビ東京系)だろう。ここで柳楽は漫画家を目指す大学生・焔モユルを演じた。自分に才能があると思っていて、ほかのクリエイターと自分を比較しては思い悩む青臭い男だが、シリアスな演技で滑稽な振る舞いをする姿が笑いを誘い、コメディもできることを証明して役の幅を広げた。

 一方、最新作の映画『ディストラクション・ベイビーズ』では、手あたり次第にケンカをふっかける暴力的な男を演じ、高い評価を獲得した。柳楽が見せる暴力的な振る舞いは、本作でも大きな見どころとなっているが、『ゆとりですがなにか』では更に一歩踏み込んで、暴力性と裏表の関係にある、まりぶの幼さにも肉薄している。

 物語終盤。坂間たちと仲良くなったまりぶは、夜の仕事を辞め植木屋に就職し、カタギになろうとする。しかし、まりぶが騙した男が同僚にいたため因縁をふっかけられ、暴力事件を起こしたことから元の仕事に戻ることになるが、警察が店を内偵していたため、まりぶは逮捕されてしまう。

 その後、釈放されると、行方不明になった妻と子どもを捜すために入国管理局に向かう。管理官に怒りをぶつけるまりぶを、離婚した父親の麻生は「お前も悪いんだから」と叱ろうとするが、息子から逃げた自分に叱る資格はないと言い淀む。しかし、まりぶは「じゃあ、誰が俺に言うんだよ」と、親なんだからちゃんと自分のことを叱れ、と詰め寄り、ここで初めて麻生はまりぶを叱り、お互いに抱き合う様子を見せる。が、まりぶが「てめぇに言われたくねーんだよ馬鹿野郎」と言い、2人で殴り合ってしまう。

 彼の暴力的な振る舞いは、反抗期に子どもがいきがっている姿の延長でしかなかったのだ。家族も持ち、迷いなく堂々と生きているように見えたが、東大受験にとらわれて、人生がうまくいかない原因は全て親のせいだと思っていた。だが、そうなってしまったのは、彼の反抗心を受け止める親が今までいなかったからだ。

 思えば、『誰も知らない』の主人公は育児放棄をされた少年だった。あの少年が、親子喧嘩をすることで、やっと大人への一歩を踏み出せたのだと思うと感慨深いものである。
(成馬零一)

最終更新:2016/07/03 19:00
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ぱるるが思ったより演技うまかったです
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