映画レビュー[親子でもなく姉妹でもなく]

年上女が小娘に負けるのは「若さ」ではない――『ベスト・フレンズ・ウェディング』に見る解

2016/06/30 22:00

 つまりキムはテンションの高い言動や派手な外見に反して、謙虚な女性なのだ。「ジュリアンに比べたら自分には何もない。負けていないのはマイケルへの愛だけ」という思いがあるから、それだけを懸命に表現しようとする。ここまで何の衒いもなく、純粋な愛情を全身で訴えてくる女性を、いとおしいと感じない男性はいないのではないかと思えてくる。

 そんなキムを嫌いになることはできず、だがマイケルを諦めることもできずヒステリーを起こすジュリアンに、ゲイの友人・ジェームズ(ルパート・エヴェレット)は「本心は彼への愛より彼女に勝つこと?」と問い、「すべて告白して決着をつけろ」とアドバイスする。

 そう問われてジュリアンは初めて、マイケルをずっと愛していたことに気づく。なぜもっと早くそれに気づき、態度で表さなかったのだろうか。かつて恋仲になりやがて自分から別れを切り出し、その後は親友となった男。自分はいつまでも彼に愛され、求められる存在だとどこかで思っていた。今更自分から告白するなんて、こっぱずかしいしカッコ悪いし無理。向こうから来てくれるんじゃなきゃ嫌。ここでもプライドが邪魔をした。

◎本心を語ることはいつもみっともないもの
 「僕の一生で一番大切な女性」「女神」とまで称賛されながらジュリアンが妻に選ばれなかったのは、「愛している」と言うべき時にはっきり言わなかったからだ。「愛している」と伝えるということは、「あなたに愛されたい。愛してほしい」とお願いすることと同義である。心の奥底では愛を求めながら、ジュリアンにはそれができなかった。

 従ってこの作品で年上の女が負けたのは、年上だからではない。自分の心に素直でなかったことによる。愛に対する怠惰さと慢心が、彼女の脚を掬ったのだ。

 マイケルが仕事で窮地に立たされるようなメールを、キムの父親のパソコンでジュリアンが作成したのは、自分の気持ちを慰めるためのちょっとした悪戯のつもりだった。しかしそれが、式直前のマイケルとキムの関係を最大の危機に陥れたことで、彼女は最後の悪あがきに走る。

 だが、ジュリアンとマイケルの仲を誤解したキムが泣きながら走り出し、その後をマイケルが追いかけ、マイケルをジュリアンが追いかけるという滑稽な図に、この物語の3人の関係性は明確に現れていた。そして、あまりに間の悪い「愛の告白」と「悪事の告白」。

 ついに恥も外聞もなくなり、気取った猫の皮をかなぐり捨てたジュリアンの、見ている方の笑いも引きつりそうな告白は、たしかにカッコ悪いし、遅すぎた。だが隠していた本心を吐露する時というのは大抵の場合カッコ悪く、そしてタイミングを外しているものだ。それでも、本当の気持ちを今ここで言葉にせねば先には進めない。

 つまり、ジュリアンの2つの告白は、ジェームズのアドバイス通り、すべてを正直に話し、自分のみっともない行いを見つめ、懺悔することによって、恋の未練に決着をつけるためのものなのだ。

 結婚式のスピーチで、涙を浮かべながらマイケルとキムに心からのプレゼントを贈ったジュリアン。新婚の2人を見送った後、物思いに耽る彼女をダンスに誘うジェームズの優しさが、胸に沁みる。恋は失ったが、自分を見守り続けたゲイのベストフレンドと、ブライズメイドのドレスで踊るジュリアンの輝く笑顔が、清々しくも美しい。

大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、京都造形芸術大学非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。近著は『あなたたちはあちら、わたしはこちら』(大洋図書)。
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最終更新:2019/05/21 16:49
『ベスト・フレンズ・ウェディング (字幕版)』
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