AV出演強制事件から、芸能界という「労働環境」を問う

AV女優が出演強制されたことで、大手のプロダクション会社であるマークスジャパンの社長らが逮捕された事件が大きなニュースになっています。私はこの業界について詳しいわけでも、この問題の専門家でもありません。しかし、複数のソースからそれぞれ異なる見解や証言がなされており、情報の交通整理が必要だと感じました。

今年3月、ヒューマンライツ・ナウが「日本:強要されるアダルトビデオ撮影 ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害」という報告書を公表しています。この報告書では、ポルノ・アダルトビデオ産業の「大手」として、CA、SOD、プレステージ(いずれもAV制作会社)が挙げられています。今回逮捕されたのは、この3大メーカーを含む、制作現場にAV女優として派遣される女性たちの所属事務所の中では大手である「マークスジャパン」の元社長、現社長、社員の男性三人です。

逮捕のきっかけは、AV業界では知名度のある女優が「強制出演させられた」と訴えたことでした。しかしこの「訴え」が事実ではないとして異議を唱えている女優もいます。たとえば、初美沙希さんという人気女優はTwitterで「今回の件、いろいろ知ってます…」として、訴えを起こした女優が虚偽の発言をしているのではないかと示唆するツイートをしています。他にも複数の女優が同様のツイートを行っていました。

私には、どちらが真実を述べているのかを知る由はありません。したがって、今回の「事件」や、強制出演の有無について論じるつもりはありません。それらは今後の取調べや裁判によって明らかになるでしょう。本記事では別の論点から今回の事件について述べたいと思います。

◎AVの撮影は売春ではない

「火のないところに煙は立たない」と考える人も多くいると思います。しかしながら「AV」という業界は、そもそも「潔癖」とは縁遠い印象が強くあるでしょうから、「火がない」状態を求めるというのも無理な話です。

そもそも「火がある」と思われているAV業界には「グレーゾーン」「ブラックゾーン」「ホワイトゾーン」があるのでしょうか?

ご存知の通りAVでは多くの場合、挿入を含むセックスが行われています。「セックス」を金銭でやりとりすることの合法性・違法性は、売春防止法、風営法、公然わいせつ罪、わいせつ物陳列罪などの複数の法律によって規定された状況から判断されます。このうち売春防止法では、「管理売春」が禁止されています。「管理売春」とは、売春を行う当事者を管理して商売にすることであり、売春・買春そのものを禁止しているものではありません。。そして売春防止法によって処罰されるのは斡旋している風俗業者であり、実際にセックスを売買している当事者ではありません。AVの場合、女優・男優が金銭を受け取るのはセックスの対価ではなく、作品への出演料ですからこの「管理売春」には該当しないでしょう。そして、本人たちが合意しており、また他の法律に抵触しない限り、AVの中でいかなるセックスをしていようとも、そのセックスは合法とされます。

今回問題になっているのは、この「合意」のあり方です。AVであっても、合意のないセックスは強姦や強制わいせつなど複数の罪に問われるほか、それがAVであれば、撮影者は共犯となります。つまり、もし出演女優が「○本のビデオに出演します」という契約をしていたとしても、直前で「やっぱり嫌です」という意思表示をしたのに無理やりの出演でセックスをさせられるようなケースがあれば、セックスをした男優は強姦罪に問われ、制作会社・撮影者はその共犯とみなされるのです。

◎芸能人は「労働者」なのだろうか?

今回「マークスジャパン」の元社長らが逮捕されたのは売春防止法でも風営法でもない、「労働者派遣法違反」容疑で立件されたのは、AV業者が売春防止法などの法律に本来的には該当しないためでした。

ではなぜ「労働者派遣法」によって立件されたのでしょうか? 実は「労働者派遣法」には「公衆道徳上有害な業務」を派遣労働者にさせないことを規定しています。つまり今回の逮捕は、マークスジャパンに所属する女優の「 AVメーカーに派遣されAVへの出演を強いられた」という主張によって、「マークスジャパン」が「公衆道徳女有害な業務」に抵触しているという疑いが持たれたことで起きたわけです。

それを知って私はふと考えました。はたしてタレントや俳優は「労働者」なのでしょうか? そこで労働者派遣法がどのように「芸能」「エンタメ」業界に適用されるのかについて調べてみました。

まず、俳優が労働者かどうかは、俳優自身が独立した個人事業主なのか被雇用者なのかによって決まります。たとえばハリウッド俳優は基本的には自分自身が個人事業主であり、それぞれがエージェントを雇う立場なので、いわゆる労働者ではありません。一方、芸能プロダクションと雇用契約を結んでいる場合、その俳優・タレントは労働者となります。

労働者と雇用契約を結び、雇用者に労働をさせ、雇用者はその対価として賃金を得ていれば、芸能プロダクションであろうとも当然ながら労働基準法・職安法・派遣法などの労働に関する法律の規制の範疇になります。

一方で、プロダクションに所属していても、事業者性が高いケースというのもあり、この場合は労働者には該当しません。

たとえば、プロダクションとマネジメント業務委託契約を結んでいる個人事業主という扱いである場合、俳優・タレントは派遣法の対象ではなく、あくまでも個人事業主という扱いになり、すべてが「自己管理」に帰されることになります。

今回の事件が労働者派遣法違反容疑によるものだということは、マークスジャパンというプロダクションが、訴えを起こした女優を雇用していたとみなされたのだと推測されますが、もし彼女が個人事業主であった場合にはまた違う法律が適用され、出演強要について彼女を救済するような措置が取られた可能性があるように思います。

◎セックスは「公衆道徳上有害」なのか?

ここまで調べて、そもそもセックスは、労働者派遣法が規制している「公衆道徳上有害な業務」にあたるのだろうか? という疑問がわいてきました。

たとえば、アイドルがきわどい水着を着て写っている写真や、映画やドラマで濃厚なキスシーンやベッドシーンをしている映像は「公衆道徳上有害な業務」ではないのでしょうか? その線引きはどこにあるのでしょうか? 「挿入」しているかいないかでしょうか?

派遣法にしても、いわゆる直接雇用者に適用される職業安定法にしても、「挿入はアウト」「セックスはダメ」とは一切書かれていません。何が「公衆道徳上有害な業務」なのかは、時代や弁護士・検事・警察などの事件担当者の考え方によっても解釈が別れるものなのではないでしょうか。

先にAVはそもそも「潔癖」とは縁遠いと思われている業界だ、と述べました。「潔癖」かそうでないか、「道徳的」かどうかは、ある程度は当事者が決めることである一方、時代や状況によって社会が決めるものでもあります。もちろんセックスを強制することはいかなる状況であれレイプですが、「セックスしている」ことがそのまま公衆道徳上有害な業務=違法というのは非常に抑圧的な解釈であるように感じます。

◎闇の中にある「芸能界という労働環境」

最後に、今回の事件を見ていて最も疑問に思ったのは、そもそもAV女優のプロダクションは、こういった訴えを起こされることを予見せずに女優を雇用してきたのだろうか? という点です。なぜ個人事業主とのマネジメント業務委託契約という形式ではなく、わざわざ火の粉が飛ぶような雇用契約を結ぶのでしょうか? 所属女優が雇用契約ではなくマネジメント業務委託契約、つまり女優を個人事業主として扱った場合、一体どのような不利益がプロダクション会社に起こるのでしょう? 個人事業主であれば、強制出演は免れるのでしょうか? また、女優にとって個人事業主であるのと、被雇用者であるのはどちらが良い労働条件を引き出せるのでしょう?

私は芸能界については全くの門外漢ですが、単にAV業界だから、ということではなく、芸能界という一般人にとってわかりにくい業界で「働く」ということ全般について、もっと情報がオープンになれば良いのに、と思います。たとえば、ちょっと前に話題になったSMAPや能年玲奈さんなどの件なども、「芸能界の労働環境・契約」問題という側面から考えれば、今回の問題と共通点があります。今回の強制出演が事実であるならば、将来芸能界に入るであろう少年・少女やその家族、一般の人たちに「芸能界という労働環境」に関する様々な情報を共有することで、出演強要のような事件を未然に防いでいく努力を芸能界側がしていく必要があると思います。

参考
http://www.sankei.com/affairs/news/160612/afr1606120006-n1.html

【最新】マークスジャパン・ファイブプロ・バルドの評判や求人情報


https://twitter.com/saki_hatsumi/status/741870905505120260
http://matome.naver.jp/odai/2146577962270630801
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160403-00004489-bengocom-soci
https://www.bengo4.com/c_5/c_1629/c_1310/b_286446/
https://www.bengo4.com/c_1009/c_1198/b_238854/
http://www.jil.go.jp/rodoqa/07_jinji/07-Q01.html
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S60/S60HO088.html

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