精神科医・片田珠美氏インタビュー

自己愛が暴走すると“危険人物”に!? 精神科医に聞く、欲望をコントロールする方法

2016/06/21 15:00

■想像力を働かせることが、とても大事

――欲望が肥大していないか、自分を客観的に見つめる視点を保ち続けるためには、どのようなことを意識する必要があるでしょうか?

片田 やはり自分を過大評価していないかとか、常に疑いの目を持って自分自身を振り返るように心がける必要があります。SNSなどである種の距離感が失われてしまい、隣の人の生活が見られるというのも、羨望がかき立てられ、欲望が肥大する一因なので、自分の身を守るために、ある程度そういうものから距離を置くことも大切です。

 また、自己肯定感の強い人は周りに左右されないし、自尊心が強いのですが、今の日本の社会は、この「自尊心」を持つのが難しい社会でもあります。フロイトは、「自尊心」には3つの起源があると言っています。

 まず、「自分で努力し、実績を作って、社会に認められてもらうこと」です。非正規労働者が増えていますし、いくら頑張っても製品が売れない、給料が上がらない、そのうえ失敗が許されないという社会になってしまっていますから、難しいですよね。

 2つ目は、「対象愛が満たされることで、自尊心が得られる」ということです。誰かを愛し愛されることで自分はこんなに必要とされているのだという満足感を得ることですが、今の若い男女は恋愛に消極的らしいので、対象愛が満たされにくいのではないでしょうか。

 そして、3つ目は「幼児的な自己愛、ナルシシズム的な自己愛」です。1つ目も2つ目もかなわなかったら、結局、幼児的な自己愛しか残らないということになります。そのため、ナルシシズム的な状態に陥ってしまい、少しでも「自己愛」が傷つくとキレてしまうのです。

――そう考えると、誰にでも「自己愛モンスター」になる可能性はあるということですよね。とくに「こんな傾向を持っていると危険」という点があるとすれば教えてください。

片田 自分の言動が相手をどれだけ傷つけているかを想像できない人は、危険ですね。対人関係の中で、「こういうことをすると、この人は怒る、傷つくんだな」と考えて歯止めをかけるフィードバック機能が働かない人は、なんでも許されると思いやすく、暴走してしまいます。自分の言動が相手にどんな影響を与えるのか、自分の言動が他人からどんなまなざしで見られているのか、想像力を働かせることが、とても大事なのです。
(末吉陽子)

片田珠美(かただ・たまみ)
1961年広島県生まれ。精神科医。京都大学非常勤講師。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8 大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。同大学博士課程中退。精神科医として臨床に携わり、臨床経験に基づいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を、精神分析的視点から研究。著書に『無差別殺人の精神分析』(新潮選書)、『一億総うつ社会』(ちくま新書)、『他人を攻撃せずにはいられない人』『自分を責めずにはいられない人』(いずれもPHP新書)、『他人の意見を聞かない人』(角川新書)、『孤独病』(集英社新書)、『オレ様化する人たち―あなたの隣の傲慢症候群』(朝日新聞出版)など多数。

最終更新:2016/06/22 14:47
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