NPO法人「女性・人権支援センター ステップ」栗原加代美理事長インタビュー

「DV加害者は自分が被害者という意識」愛しているはずの人に暴力を振るってしまう心理とは?

2016/06/10 15:00

■悪い思い込みをすることが習慣化している

――DV加害者になりやすいのはどのような男性ですか?

栗原 いくつかあるのですが、1つ目は、自分が正しいと思ったら妻の意見を聞かずに押し通す「正しい病」の人です。それが支配につながります。

 2つ目は他人のことや妻のことを一切考えない自己中心的な人。先日、小金井で女子大生刺傷事件が起きましたが、あの容疑者も相手がこんなことをされると嫌がるとか、相手の気持ちを全く考えない、自己中心的な人でしたよね。

 そしてもう1つは、悪い思い込みをしがちな人。例えば、妻に電話をしたのに出なかったとします。普通の人なら、忙しくて電話に出られなかったのだと思うところ、悪い思い込みをしがちな人は「無視された」と思うんです。そうするとどんどん怒りが湧いてきて、大量メールを送るなどの嫌がらせをしてしまう。

 うちに相談に来たケースだと、夫が炊き込みご飯を作ろうと炊飯器に水を入れていたのを見た妻が「あなた、炊き込みご飯にその量だと、ちょっと水が多いんじゃない?」と、水の量を指摘しただけだったのに、夫は「水加減もできないバカな男」と解釈したという例がありました。それで、激怒して妻を叩いたという。

 また、もう1件のケースですと、夫婦でパスタを作ろうと、妻が具材をカットし、夫がパスタを茹でるためにお湯を沸かしていたそうです。お湯が沸いたので夫がパスタを入れようとした際、妻が「パスタを入れる前に塩を入れてね」と言ったところ、夫は妻に支配されたと感じてしまい、パスタを全部床にぶちまけたんですよ。妻は塩を入れてとお願いしただけなのに。

――そこまで悪い思い込みがあると、何か精神的な病気ではないかと疑ってしまうのですが……。

栗原 病気ではありません。否定的な考え方をする習慣が子どもの頃からついているんです。そして、理想の妻像とか夫婦像が歪んでいるわけです。その価値観を健全に変えれば悪い思い込みをやめられます。

 うちに相談に来る方は、大学教授やお医者さん、教師や警察官など、リーダーシップのとれる、職場では尊敬されている方が多いんです。社会では決して暴力は振るわず、紳士的で外面は良い。妻にだけ暴力を振るうんです。芸能人のDV報道が続いているというのも、華やかな世界で周りが持ち上げてくれる職なので、妻も同じようにちやほやしてくれないと気が済まないのではないかと思います。妻を所有物と思っているんでしょうね。俺の言うことを聞いて当たり前と。

――DVは身体的暴力だけでなく、生活費を渡さないといった経済的暴力や言葉の暴力も含まれますよね。

栗原 身体的暴力よりも、経済的暴力や言葉の暴力の方が多いですね。「誰に食べさせてもらっていると思っているんだ、お前が言うことを聞かないからお金を渡さない」とか、「お前はブスで価値のない女だ、死んじまえ」とか。言葉の暴力をDVと捉えていない男性は多いと思います。ほとんどが少しばかり身体的暴力も振るっているのですが、それは1年に1回程度。しかし、毎日言葉による暴力を振るっているので、妻の方はそれでも怖いし傷ついているんです。

■加害者はDVで離婚をしても「性格の不一致」と捉える

――DVが原因で離婚をしたのに、再婚相手にもDVをしてしまうケースも聞きます。学ばないのでしょうか? それとも常習性があるのでしょうか?

栗原 うちのようなところで歪んだ価値観の矯正をしたり、悪い思い込みを取り除いていったりしない限り、思考は変わらないんです。彼らは自分がやっていることがDVだとは思っていません。妻への教育、しつけだと思っており、自分が被害者という意識です。悪いと思っていないので繰り返す。離婚の原因がDVだとは気付かず、性格の不一致だと思っています。

――ステップでは、DV加害者にどのような更生プログラムを行っているのですか?

栗原 うちでは、アメリカの精神科医、グラッサー博士が編み出した「選択理論」を取り入れています。全ての行動は自分の選択の結果であるということを教えるんです。妻があなたを怒らせることはできないと教えると、みなさん腑に落ちるんです。

 この理論はアメリカでは刑務所で囚人が学んでいます。選択理論を学ばないと再犯率が56%もあるのですが、学ぶと2.9%まで減るんです。多くの犯罪者は自分ではなく周りが悪いと考えますが、「あなたが悪いんだよ」と教えると、人を復讐することはなくなるわけです。また、この理論は鬱の患者への治療法としても使われています。マイナスの思考がマイナスの感情を生むので、前向きな思考に変えると鬱が良くなるんです。

 脳の働きを車の車輪に例えて考えると、思考と行為は前輪。これは変えられるものです。後輪は生理反応と感情。こちらは変えられませんが、思考・行為を変えると、感情と生理現象も後からついてくるんです。DV加害者たちは「この妻はふさわしい妻ではない」というマイナスな思考をすることで、怒りの感情が湧いてきます。そして、暴力を振るい、妻は恐怖の生理反応として涙が出たり震えたりしてしまう。しかし、「この妻はすばらしい」と思うと、穏やかな気持ちになり、妻が震えることもありません。しかし、DV加害者は思考パターンが習慣化しているので、悪い思い込みを取り払うには時間がかかります。ですので、うちでは1年かけて教えていきます。

加害者は変われるか?: DVと虐待をみつめながら (ちくま文庫)
加害者にはDVの意識がないってところが怖い
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