「教科書にLGBTを!~学習指導要領を変えよう5・17シンポジウム~」レポート

教科書にLGBTが必要な理由 多様な性の理解における学校教育の重要性

2016/06/06 15:00

■「好きな異性がいるのは自然なこと」

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埼玉大学基盤教育研究センターの渡辺大輔准教授

「いのちリスペクト。ホワイトリボンキャンペーン」が2013年に実施した「LGBTの学校生活に関する実態調査」によると、「小学生から高校生の間に自分がLGBTであることをリアル(SNS 等インターネット上でのやりとり以外のコミュニケーション、電話や手紙はリアルに含む)で話した相手の人数」について質問したところ、「だれにも言えなかった」と回答したのは生物学的男子 53%、生物学的女子31%に上った。話さなかった理由としては、「理解されるか不安だった」「話すといじめや差別を受けそうだった」という回答が上位に挙がっている。

 こうした現状について、ゲストの渡辺准教授の話によると、“指導の原点”から変える必要があることがうかがえる。

「例えば、小学校の学習指導要領の解説テキストがあるのですが、その保健分野のところに、『思春期には初経、精通、変声、発毛が起こり、また、異性への関心も芽生えることについて理解できるようにする。さらに、これらは、個人によって早い遅いはあるもののだれにでも起こる、大人の体に近づく現象であることを理解できるようにする』という言葉が入っているんですね。なので、学習指導要領の中に『性的指向や性自認の多様性に配慮すること』という一言が入ると、学校の先生としても非常に安心して学びの機会を作れると考えています」

 ほかにも、文部科学省が手掛ける『私たちの道徳』というサブテキストの中学校版では「好きな異性がいるのは自然なこと」と書いてあるため、LGBT当事者のみならず、こうした文言を読んだ子どもたちは、同性を好きになるのは不自然なのかという意識が当然ながら湧いてくると、渡辺准教授は懸念する。

■高校の家庭科や倫理の教科書に、性の多様性についての記載が増える

 そうした中、最近になって変化も見られている。03年に戸籍上の性別変更などを認めた「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が成立したことをきっかけに、LGBTの子どもたちに対する学校の支援体制も変わってきたという。さらに、来年度から高校の家庭科や倫理の教科書に、性の多様性についての記載が増えることも決まり、LGBTへの理解が学校教育の場で促進されることが期待されている。

「例えば、10年に文部科学省が教育委員会に向けて出した『児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について』という通知では、性同一性障害の子どもたちに配慮してください、という内容が記載されました。また、13年には同省が『学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査』を実施したのですが、全国の学校で606件の悩みや相談の対応をしたことがわかりました。同時に学校側の約4割が『特別な配慮をしていない』こともわかりました。それを受けるようなかたちで、15年には『性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について』という通知が出され、(性同一性障害のみならず)『性的マイノリティ』とされる児童生徒全般に共通するものとしたうえで、学校側の支援の事例を記載しています」(渡辺准教授)

 学校の支援事例の一部には、「自認する性別の制服・衣服や、体操着の着用を認める」「自認する性別として名簿上扱う」といった内容が含まれている。具体的な配慮が記され、さらに配慮の対象を性同一性障害だけではなく、性的マイノリティ全般にも広げたことは画期的だといえるだろう。

「個別対応だけではなくて、学級・ホームルームにおいて、いかなる理由でも、いじめや差別を許さない適切な生徒指導・人権教育等を推進すること、日頃から環境を整えることが記載されています。また、今年4月には教員向けの周知資料が出ましたが、同性愛や両性愛に加えて、性的指向と性自認の略語としてLGBTに代わり国際的に広まりをみせている『SOGI(エスオージーアイあるいはソギ)』という言葉も入っていました。こうした通知が、学校の先生方ひとりひとりに伝わっていけばいいなと思っています」(渡辺准教授)

 とはいえ、国際的な水準に照らし合わせると、日本の教育はまだまだ遅れている部分もある。ユネスコが09年に出した「国際性教育実践ガイダンス」には、「多様性はセクシュアリティの基本である」と書かれており、年齢別の学習課題も設定されている。

「5~8歳くらいまでには、さまざまな種類の家族のメンバーから家族の概念を明確に理解するという課題が記載されていて、そこにはひとり親、核家族、非伝統的家族が入っています。9~12歳までのレベルには性的指向についての理解も入っています。15~18歳ではさまざまな性的指向、性自認の人を受け入れることを学びましょう、という内容も入っています。日本の学習指導要領にも、こうした記述が入るといいのではないかと思います」(同)

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