「教科書にLGBTを!~学習指導要領を変えよう5・17シンポジウム~」レポート

教科書にLGBTが必要な理由 多様な性の理解における学校教育の重要性

2016/06/06 15:00
lgbt_edu1_mini.jpg
遠藤まめたさん

 今年5月6日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下、HRW)が、日本政府にLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の子どもを学校でのいじめから保護するよう求める報告書を公表した。「『出る杭は打たれる』日本の学校におけるLGBT生徒へのいじめと排除」と題された全84ページの報告書には、児童・生徒および学生へのインタビューやアンケート調査の結果が詳細に記されている。

 その中で、「今年度(もしくは一番最近の学年度)、学校の先生や生徒がLGBTの人たちに対する暴言、否定的な言葉、もしくは冗談を言うのを聞いたことはありますか」という問いに対し、25歳未満の回答者458名のうち「先生が言っているのを聞いた」と答えたのは29%、「先生もしくは生徒が言っているのを聞いた」では86%の多数に上る。なかには、「ホモ」という言葉を使用し、侮蔑的な表現をしていた教員を目にした生徒や学生も少なくないことがわかった。

 こうした現状に対し、HRWは「いじめ対策や教員研修が不十分」「教員がLGBT差別の言葉を放置したり、そこに加わったりすることで、問題の一端となることもある」「権利よりも、風紀と和の維持を優先する風潮がある」と指摘している。

 では、学校においてLGBTの子どもたちの人権を守るためには、どのような変革が必要なのだろうか? 5月17日の「同性愛嫌悪とトランス嫌悪に反対する国際デー」(International Day Against Homophobia and Transphobia)に合わせて、「教科書にLGBTを!ネットワーク」の主催によりLGBTと教育についてのシンポジウムが開催された。

■LGBTという分類が大事なのではない

 埼玉大学基盤教育研究センターで、教育学やジェンダーの研究を担当する渡辺大輔准教授をゲストに迎え、トランスジェンダー当事者でLGBTの若者支援を行う遠藤まめたさんと、NGO団体に勤める傍ら、オンライン署名サービスChange.orgにて「セクシュアル・マイノリティの子どもたちを傷つける教科書の訂正」を求める活動をしている室井舞花さんが司会として登壇した。

 シンポジウムの初めに遠藤さんから、性的指向(セクシュアル・オリエンテーション)と性自認(ジェンダー・アイデンティティー)にまつわる話が語られた。

「性的指向というのは『誰を好きか』を表すものですが、いま日本で結婚できるのは、生物学的な性が男女のペアだけになります。でも、世の中にはゲイ、レズビアン、バイセクシュアルといった同性を好きになる人もいて、その割合は人口の3%から5%くらいといわれています。これは、左利きの人と同じくらいの割合なんです。ほかにも他人に恋愛感情を抱かない無性愛者(アセクシュアル)など、さまざまな性的指向を持つ人がいます。これは自分の意思で変えられないことで、その人らしさと深く関わる大切なことです」

 一方、遠藤さんのように「女性として生まれ、性自認は男性」というように、体と性自認が一致しない人はトランスジェンダーと呼ばれている。

「私は女性が好きですが、同じように女性に生まれて、男性の性自認を持つトランスジェンダーが男性を好きになることもあります。LGBTという言葉は狭義ではセクシュアル・マイノリティという意味で使われますが、誰がどこに分類されるかが大事なのではなく、それよりも人はひとりひとり違うこと、その人の話がその人の真実であるということを知ってほしいです」(遠藤さん)

■教職員の理解と協力が欠かせない

 自分の性的指向や性自認に気がつくのは、幼少期から思春期にかけてのこと。その時期に差し掛かると、LGBTの子どもたちの場合、マジョリティに当たるヘテロセクシュアル(異性愛者)やシスジェンダー(体の性と性自認が一致する人)との違いを自覚するようになる。そうした中、教育の現場などで性的指向や性自認にまつわる正しい情報を得られる機会が少ないことについて、遠藤さんはこう指摘する。

「そもそも多様な性について、教員が教育課程の基準にする『学習指導要領』に載っていないことが問題です。現状の学習指導要領の解説には『誰しもが思春期になると、遅かれ早かれ異性に惹かれる』という趣旨のことが当たり前のように記載されています。そうした現状がある中で、LGBTの子どもたちは自分の性的指向や性自認に気がつき始め、『自分はおかしいんじゃないか』『本当の自分がバレたら、学校にいられなくなるんじゃないか』と悩むようになります。一番身近な親に相談すればいいんじゃないか、という人もいますが、家庭で拒否されたら、完全に居場所がなくなってしまうわけです。そうした心理状態においては、自分の尊厳すら大事にすることができません。LGBTは自殺リスクという意味でもシビアな状況にあり、政府が推進すべき自殺対策の指針である『自殺総合対策大綱』においてもハイリスク層に位置づけられています。このような現状を変えていくには、まず教職員の理解と協力が欠かせないと思います」

 遠藤さんが自身の性自認について気がついたのは、高校生のとき。女優の上戸彩さんが性同一性障害の生徒を演じたドラマ『3年B組金八先生』(TBS系)を見て、自分も同じなんじゃないかと思い始めたことが、きっかけだったとか。「学校教育の中でもっと早く知る機会があれば、いろいろなことが違っていたかもしれない」と振り返る。

先生と親のためのLGBTガイド: もしあなたがカミングアウトされたなら
もっと早く知っておけばよかったってことあるよね
アクセスランキング