地獄と女性の深い関係 鎌倉時代の絵巻物から伺える女性蔑視

地獄という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか。鬼や悪魔の姿であったり、燃え盛る炎や煮えたぎる水、あるいは具体的な現実の光景を想起する人もいるだろう。歴史を遡ると、地獄は、人びとが生きる上で感じていく後ろめたさや罪悪感、現実の風景に上書きされながら、アップデートを繰り返してきた。実はこの地獄と女性には深い関係がある。

◎「女は生理があるので地獄に落ちる」

元来、日本の仏教には女性は成仏できないものとする見方がある。いわく、女性は「五障」の身であり生まれつき穢れや罪業を伴っているというのだ。この「五障」という単語は、サンスクリット語の原典では「女性が就くことのできない五つの地位」を示すものだ。この時点で既に女性蔑視を感じるが、ここには穢れにまつわる意味は含まれていなかった。しかし「障」つまり「さわり」という字に罪や煩悩を指す意味合いがあったために、古くから日本にあった女性の身を不浄とする価値観につながってしまったらしい。

女性の身体が不浄とされる要素として、経血と出産時に出る血がある。「月経のあいだは寺社には入らない」「妊婦とその夫は物忌をする」など、当時の寺社の取り決めを見るだけでも女性に対する強い抑圧が見て取れる。そして、この経血や出血時に出る血を不浄とする価値観が、女性と地獄の関係を密にしているのだ。

「血盆経」という、仏教発祥の地であるインドの原典にはない、中国で作られたとされる「偽経」がある。この経典は、日本では室町時代に当たる15世紀以降から受容されるようになった。

「血盆経」は「女性は出産時に血を流すので、血の池地獄に落ちる」という、女性を穢れたものとして扱った上で、それを救済するという経典だ。「血盆経」には複数の派生パターンがあり、中国で作られたものは現在確認出来る限り出産時の血のみを穢れとしているが、日本で編集されたものでは、生理の際の経血までもが女性の罪業とされていた。

女性の血が罪業とされる理由として、以下のような説明が行われる。

女性の身体から出る血が山野に流れて地や水を汚し、その血が混じった水で善人がお茶を沸かし、その茶で供養を行うことで聖なるものが穢れてしまう。だから、女性はもれなく血の池地獄へ落ちる……。

そこから救われるには、「血盆経」に帰依しなくてはならない、ということだ。

中世後期から近世にかけ、この「血盆経」は大流行した。「地獄絵」を持った僧や尼が、その解説をする「絵解き」行為で血盆経は民衆に広く伝わり、女性不浄観も伝播していったのだ。

◎ネガティブキャンペーンに使われた女性たち

前近代仏教の女性観ってずっとこんな感じだったの? と呆れる方もいるかもしれないが、そんなことはない。

例えば鎌倉新仏教では、女性も成仏ができると主張をした流派が複数あった。そのうちの一つが一遍による「時宗」である。時宗が画期的だったのは、踊りながら念仏を唱える「踊り念仏」や念仏の書かれた「念仏札」を民衆に配るなど、非常に手軽なものを用いて往生を目指すことができるとした点であった。

しかし、一遍などが打ち出した「女人も救済される」といった新たな思想は当時の旧仏教勢力からかなりひんしゅくを買ったようで、「天狗草紙」という時宗などいくつかの流派を貶める内容の絵巻が作られているほどだ。ちなみに鎌倉時代、激しく弾圧された日蓮宗の日蓮も、女人成仏論を唱えている。

「天狗草紙」には、ご利益を求めているのか、何に使うのかはわからないのに一遍の尿を採集する尼僧や人目をはばからず排泄する尼僧など、常軌を逸した女性の行動がたびたび登場する。これらの表現は、時衆徒のネガティブキャンペーンのために描かれたものだ。

また、レズビアン女性が描かれているという説もある。中世の女性同性愛に関しては全く史料がないのだが、天狗草紙内には二人の尼僧が肩を組んで歩いている様子が表されており、これが時宗の性的放縦を非難つもりで描かれたレズビアンカップルではないかと言われているのだ。肩を組むというしぐさは中世絵画史料上ほとんど見られないため、恋愛及び性的な関係だと判断する材料がないのだが、これが非常に特殊な関係を示すものであることは確かだろう。当時の社会で、ある集団を蔑む時に「タブー」を犯す女性が示されるのは、仏教と女性の関わりにおいて大変興味深いことである。

◎現代に残された「地獄」?

以上、中世を中心に、女性の地獄にまつわる雑多な話を紹介してきた。

前近代を現代の倫理で計ることに、私は意味を感じない。中世には中世の価値観があり、何かを考察する時に大事なのは中世社会の中でそれがどのように認識されていたかという問題である。

中世という強固な男性社会を基盤にして生きていた女性たちの生き方は、現代を生きる我々からすると信じられないものなのかもしれない。時代によって人間の区別のつけ方は異なり、今も価値観は現在進行形で変わっていくのだ。

当時、「もれなく地獄に落ちる」とされた女性たちにとって、現世はどのように感じられたのだろうか。そして、現代の女性たちにとって、この社会は極楽か、それとも地獄なのだろうか。現代とは異なる合理性と暴力性を持つ中世社会を覗いてみると、現代に残された「地獄」が垣間見れるかもしれない。
(正しい倫理子)

【参考文献】
黒田日出男『姿としぐさの中世史』平凡社、1986年
松下みどり『<女性の穢れ>の成立と仏教』2006年
穂坂悠子『日蓮上人の女性観 女人成仏論を中心に』2008年
田村正彦『描かれる地獄 語られる地獄』三弥井社、2015年

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