ストーカー加害者の根底にある、強い「被害者意識」…三鷹ストーカー殺人事件犯人の言葉から読み解く

 5月21日土曜日の17時過ぎ、東京都小金井市のライブハウスが入る建物の敷地内で、大学生、冨田真由さん(20)が男に刃物で首や胸など20カ所以上を刺されて病院に搬送された。警視庁小金井署は傷害の疑いで京都市右京区の会社員、岩埼(いわざき)友宏容疑者(27)を現行犯逮捕。のち23日には、殺人未遂と銃刀法違反に容疑を切り替えて送検した。

 事件発生当時の第一報では各新聞社が冨田さんについて『アイドル活動をしていた女子大生』と報じている。そのため、地下アイドルに過剰な愛情を抱いたファンが起こした事件であるかのように騒がれたが、実際には冨田さんは当時、シンガーソングライターとして活動しており、アイドルではなかった。

 また冨田さんは事件前、警視庁に、岩埼容疑者からブログやSNSで執拗に書き込みをされていることを相談していた。実際に岩埼容疑者のものと思われるツイッターアカウントやブログでは、日々、冨田さんへの恨み言が書き連ねられている。明らかにこれは、ストーカーが起こした刺傷事件だ。「アイドルとファンの間のトラブル」という話ではない。むしろ第一報には、受け手が「アイドルとファンの間のトラブル」だと認識してほしいような警察の意図も感じるが、この話はまた別の機会に譲りたい。

◎三鷹ストーカー殺人事件の被告はどうか

 人がストーカー化する経緯にはいろいろあり、元々交際していた相手に振られてストーカーになったパターンや、そもそも友達ですらないのに、相手が勝手に勘違いを重ねて最終的にストーカーになったパターンなどがある。ストーカー規制法は、1999年に発生した桶川ストーカー殺人事件がきっかけとなり制定され、当時第2条で定義されている「つきまとい等」については、<待ち伏せ、見張り、家への押し掛け、電話、ファクス>……などが該当するとされていた。しかし2012年11月に発生した逗子ストーカー殺人事件を受け、電子メールもその定義に加えるよう、初の法改正がなされた。今回冨田さんが悩んでいた岩埼容疑者によるSNSやブログでの書き込みは、現在の同法では「つきまとい等」に定義されていないが、これでは時代遅れの使えない法律である。ツールの変化に応じて随時、法もアップデートする必要があるといえるだろう。また本件について警視庁は「切迫性はないと判断していた」と発表しており、これについても問題はあるだろう。

 さて、ストーカーがその対象に寄せる強い愛憎は、当人以外にはなかなか理解しがたいものがある。しかし何かをきっかけにして、愛情に憎しみが加わり、その憎しみが増幅していく。本件が発生した東京・多摩地域では2013年10月にもストーカーによる殺人事件が発生している。今回はその「三鷹ストーカー殺人事件」公判での加害者の言い分を紹介したい。

 この事件の加害者である池永チャールストーマス被告(23)は、2013年10月に東京・三鷹市において元交際相手である私立高校3年の女子生徒(18=当時)を刺殺したとして、殺人や銃刀法違反、児童ポルノ禁止法違反などの罪に問われている。池永被告は被害者宅のクローゼットで待ち伏せして帰宅した被害者を刺殺した後に、被害者の裸体画像をインターネット上に拡散させた。リベンジポルノという言葉が浸透するきっかけにもなった事件だ。

 当初は「娘の名誉をこれ以上傷つけたくない」という遺族の意向で児童ポルノ禁止法違反での起訴はされておらず、2014年に東京地裁立川支部にて開かれた旧一審では懲役22年(求刑無期懲役)の判決が下されていたのだが、東京高裁が「起訴されていないリベンジポルノ行為まで処罰し刑を重くしたおそれがある」と審理を東京地裁立川支部に差し戻した。こうして児童ポルノ禁止法違反で追起訴した差し戻し審が開かれ、今年3月15日、また懲役22年(求刑懲役25年)の判決が言い渡されたのだ。被告は控訴している。

 2人はFacebookで知り合って一時は交際をしていたが、当時、池永被告はFacebookのプロフィール欄に『立命館大学の法学部』であるとウソをついていた。これが重荷になってきたことと「彼女への依存が深い段階まであり、別れたいという気持ちもあり」2012年9月に単身渡米。自然消滅を狙ったが、被告から被害女性への気持ちが醒めることはなく、数カ月後に帰国している。その後、蜜月時代に撮影し池永被告が保存していた裸体画像をインターネット上に拡散すると脅し、被害者にセックスを強要してもいた。

 池永被告は被害者へ殺意を抱き始めた時期を、事件発生の5カ月前だと述べた。その理由として「彼女が出演していた映画を偶然観て、それで彼女への思いが再燃しました」と述べている。被害者も冨田さんと同じく芸能活動をしていた。だが私は、偶然観たという池永被告の言い分はウソだと見ている。執着があるからこそ動向を気にするのがストーカーだ。

 殺害時は“確実に殺害するため”刺す場所をあらかじめ決めていたとも告白。「首もとと、肝臓あたりを狙って刺しました。ここには大きな動脈が流れている。つまり急所です。7回くらいは刺しました。左手の方がリーチが長く、早く刺せると思い、右利きですが左手で刺しました」。被害者の遺体には肝臓と右頸動脈に刺し傷があり、右頸動脈の傷が致命傷になっている。冒頭陳述では「確実に殺害するためにジムで身体を鍛え、友人と組み手の練習をしていた」とも明かされており、殺意は強固なものだった。

 リベンジポルノという言葉が浸透するきっかけとなった、殺害後の裸体画像拡散動機については「やっぱり彼女と付き合ってきた過去を大衆に知らしめるためと、彼女の尊厳を傷つけたいという思いがありました」とふたつの理由を語っており、差し戻し審でも「自分の存在証明」だったと述べている。

 旧一審で、遺族や女子生徒への思いを問われ「想像はできるが共感はできない」と反省の色もなし。「やっぱり彼女は夢も希望もあって能動的に過ごしていた。そんな人の命を自分勝手な理由で絶つ。それは彼女にとって無念、苦痛でしょうね」と女子生徒の未来を奪ったことについて一応、思いを馳せているようだが、他人事のようにも聞こえる。被告は明確な殺意を、そして“輝かしい未来しかないように見える彼女の、夢や希望や尊厳のすべてを打ち砕きたい”という罪深い欲望を自覚していただろう。自覚したうえで計画的に犯行に及んだのだ。そのような被告に、反省を促しても無意味だ。差し戻し審では、池永被告が旧一審判決後に書いたという、「ご遺族への謝罪の手紙」(ご遺族は当然ながら受け取り拒否)の存在も明らかになったのだが、この手紙はご遺族のお名前を書き損じていたり宛名も日付も書かれていなかったりという大変失礼なもので、検察官から厳しく突っ込まれていた。反省の素振りを見せてはいるがそれはあくまで“素振り”だろう。

 また旧一審では、ストーカーの心理を理解する上で非常に重要な問答があった。

裁判官「あなたの大好きな被害者に、幸せになってほしい気持ちはなかったんですか?」
池永被告「…未熟だったのでそうした思いに至ることができませんでした…」
裁判官「“ワイセツ画像を流出させるぞ、それが嫌なら会いに来い”なんて言うと、そんな相手を嫌うのは当然ですよね。ある意味、彼女に嫌われるのはあなたが招いた結果とも言えるんじゃないでしょうか?」
池永被告「…判事さんのおっしゃる通りです。でも怒りよりも苦しい。苦しみを絶ちたいという思いがありました。当時の彼女の気持ちを想像しましたが、根っこにあるのはやはり彼女は加害者。自分は被害者感情を持っていて、彼女を加害者として見ていたというか…」

 小金井事件の岩埼容疑者は冨田さんから自分の送ったプレゼントを送り返されたことが犯行の動機であるように供述しているが、池永被告のように“自分は彼女に傷つけられた被害者”だという認識を持っていたのではないか。ストーカーの根底には“相手に傷つけられた”という被害者意識があり、それゆえに復讐をしたい、傷つけたい、不幸にしてやりたいと考えるようだ。そこにはまた自身のコンプレックスも絡んで来ているように見えた。やりたいことに向かって前進していく被害者たちへの姿が眩しすぎるからこその嫉妬もあるのだろう。男性がストーカー化すると、女性に勝てる唯一の手段とばかりに、暴力を選びがちである。そして女性がひとりになるタイミングを見計らうのだ。

 ストーカー情報の共有について警視庁は、この三鷹ストーカー殺人事件を教訓に、被害者の110番に迅速に対応するシステムを構築していた。しかし本件でこれは活かされなかった。武蔵野署で冨田さんが相談した内容が、警視庁本部内のストーカー捜査支援部門「人身安全関連事案総合対策本部」に連絡されていなかったのである。これまでストーカーによって女性が不条理に命を奪われるたびに、法整備や捜査支援の拡充がはかられてきた。だがそれが活かされず、また今回、このような事件が起きてしまったことには空しさしかない。
(高橋ユキ)

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