川崎みな子医師インタビュー

コンドームだけでは不十分! エイズ発症を防ぐ「唯一の方法」とは?

2016/05/28 15:00
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Photo by Taki Steve from Flickr

 4月に急逝したプリンスがエイズを発症していたとの報道は記憶に新しいが、日本でもエイズはひとごとではなくなってきている。

 性感染症に詳しい医師の川崎みな子さん(仮名)は、「2014年と15年の2年は、エイズの感染と発症は減少傾向にあると発表されています。しかし、これは単に検査をしている人が減っているだけだと私は見ています。一方で、女性の新たな感染者は13年(46人)、14年(50人)、15年(58人)と増加しています。放置していれば、もっと増えることは間違いありません」と話す。

 厚生労働省のエイズ動向委員会の5月25日の発表によると、15年に報告されたHIVの新規感染者は1,006人、エイズの発症者は428人と、いずれも2年連続で前年を下回っている。

 「実際には若い女性の感染が増えているのですから、メディアはもっと問題視すべきです。これまで大きな問題になってこなかったのは、かつては感染者のほとんどがゲイだったからです。行政としては、触れたくないというのが実態ですね」

■クラミジアの潜在感染者は100万人?

 なぜ女性のHIV感染者が増えているのだろうか。

「検査したから判明しているだけですよ。検査をせず、自身の感染を知らないケースのほうがよっぽど多いのが現状です。『潜在的感染者』は男女ともにもっと多いでしょうね。感染に気づかないまま放置して、突然、肺炎や悪性腫瘍などを発症してしまう『いきなりエイズ』も目立ちます」

 エイズ(後天性免疫不全症候群)は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)というウイルスの感染で発症する。その名の通り「免疫力」が極端に低下することで、空気中のちょっとした雑菌でも肺炎や腫瘍を引き起こし、命に危険が及ぶ。

「HIVの感染確率は、実はそれほど高くはありません。コンドームを使わない性交での感染の確率は、0.1〜1%(100回に1回)くらいと考えられています。でも、これは確率でしかありませんから、1回だけのセックスで感染することも十分ありえます」

 HIVに感染すると、「感染初期(急性期)」を経て、「無症候期」「エイズ発症期」の経過をたどることになる。

「感染初期に、HIVは体内で急激に増殖します。このため発熱などの症状が出ることもありますが、これは数週間で消えてしまいます。その後の『無症候期』は個人差があり、すぐに発症するケースから10年以上発症しないケースまで、さまざまです」

 さらに、梅毒やクラミジアの急増も懸念材料だ。

「梅毒はエイズよりも急激に増えていますし、クラミジアの潜在感染者は100万人ともいわれています。いずれも女性には初期の自覚症状がほとんどないのですが、クラミジアは不妊の原因にもなりますし、放置していると取り返しのつかないことになります」

 そして、これらの性感染症に感染していると、粘膜が炎症を起こし、そこからHIVが侵入してくる。他の感染症のせいで、飛躍的に感染率が高くなってしまうのだ。

■コンドームでは防げない!

 もう1つの「エイズの怖いところ」は、関心を持たない女性が多いことだ。

「一般的には、性病検査を義務づけていない安い性風俗店で働いている風俗嬢から一般男性、そしてその恋人や妻に……という感染ルートが考えられています。あなたのカレに、そんなお店で遊んでこないという保証はあります?」

 エイズ動向委員会などは、性交時のコンドームの使用を呼びかけているが、川崎医師は「それだけでは不十分」と指摘する。

「ウイルスは、あらゆる粘膜から侵入してきます。オーラルセックスでコンドームを使う人は、あまりいませんよね?」

 では、どうすればいいのか?

「方法はただ1つ、定期的な検査です。仮に感染していても、早期に発見できれば対応できます。これらの性感染症は、昔のような『死に至る病』ではなくなりました。早期発見と早期治療で、日常生活を支障なく送ることができます」

 ただし、性交の翌日に検査してもダメだという。

「HIVの抗体が体内にできて検出されるまでに、4週間から8週間くらいかかります。確実なのは、3カ月を経過した頃ですね」

 心当たりのある人は、男女を問わず、ぜひ定期的な検査を。
(春日部優)

最終更新:2016/05/28 15:00
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