GID学会レポート1

性同一性障害は精神病だから、保険に入れない? LGBTがはじかれた法律の問題と社会の変化

2016/05/21 18:00
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LGBT-JAPANライフ部門リーダーの阿井束裟氏

 LGBTという言葉の認知も広がり、保守的といわれる日本においても多様な性への理解が進んでいる。なかでも、T(トランスジェンダー)に含まれる「性同一性障害」(Gender Identity Disorder=GID)は、出生時の体の性別と心の性別が一致しない状態を意味する医学用語として1998年から使われている。

 性同一性障害の人たちは、恋愛や性愛の対象がいずれに向いているかを意味する「性的指向」とは関係なく、自分の体に対する違和感を持っているため、例えば性ホルモンによる治療や性別適合手術で生殖器を切除することなどにより、体の性別を変える場合もある。そのため、医療やメンタルヘルスの面からも専門的なケアが不可欠だと考えられているが、ほかにも生命保険へ加入ができない不利益など、それぞれのライフステージで待ち受ける困難は少なくない。

 そうしたなか、性同一性障害について活発な研究と知識の交流を推進している「GID学会」では、99年3月の設立以降、定期的に研究大会を実施。今年開催された第18回研究大会でも、医療従事者以外にもさまざまな方面の有識者により、発表やワークショップが行われた。その内容の一部を紹介したい。

■GIDは精神病と扱われて、保険に加入できないケースも

 「LGBT-JAPAN」はメンタル部門、ライフ部門、飲食部門、アパレル部門、イベント部門の5つの部門を擁しており、LGBTがライフサイクルで感じる不便さについて問題提起をはじめ、さまざまな角度から解決策を提示しようと活動している団体だ。今回の学会発表では、LGBT-JAPANを支援する生命保険アドバイザーとLGBTアライ弁護士が登壇し、GIDをはじめLGBTの人たちが置かれている現状について語られた。

 まず、ライフ部門のリーダーを務める阿井束裟氏(MTF=身体的には男性で性自認が女性)から、GID当事者が生命保険に加入することの難しさについて語られた。

「手術や治療を必要とするGID当事者は、ホルモン治療に月5,000円、性転換手術になれば200万円ほど掛かります。また、手術をしたからといって通院は終わらないので、出費がかさんで経済的にも厳しいケースがほとんどだと考えられます。また、手術をした後に子どもを持つことは難しいので、パートナーがいなければ、老後の生活は自助努力だけでやっていかなくてはいけません。そこで、生命保険を検討したところ、6社くらいに断られてしまいました。なかには、ホルモン治療について告知をしたことで、副作用があり、健康の保証ができないということで断る会社もありました」

 こうした現状について、生命保険アドバイザーは、問題点を次のように指摘する。

「保険会社も『生命保険に入れない』と言っているわけではないのですが、これまで男女二元論をもとに保険商品を作ってきたため、対策がなされてこなかったという現状があります。では諦めるしかないのかといえばそうではなく、当事者以外の方も含めて声を上げることで、加入しやすい保険というのができるはずです。最近は保険会社も動こうとしており、渋谷区と世田谷区のパートナー証明書があれば、GID当事者が保険金の受取人になれるケースも出てきました」

 しかし、一方で加入はまだまだ難しく、GIDだと精神病と扱われて加入できない保険会社もあるのだという。では、そもそもなぜ男女二元論が当たり前のものとして根付いてきたのだろうか? LGBTアライ弁護士は「少数者の声が届きにくいこと」も一因にあるとの見解を示す。

「日本の法律では、必ずしも男女について明記されているわけではないのですが、男女二元論という考え方をベースに、制度や法律が形作られています。つまり、男女二元論は『法律の根底にある考え方』と捉えるべきなのです。そのため、そこにダイレクトに当てはまらないGID当事者の方たちの存在を、制度のどこに位置づけるか、提起されてこなかったというのが現実です。個人的な考えではありますが、性的少数者の声は広がりにくく、問題点として目立ちにくいという背景があるのではないでしょうか。さらに、日本は保守的なところが多々あると思いますので、これまでクローズアップされることがなかったのかなと思います」(同弁護士)

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