『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』で開ける、パンドラの匣

 当連載は「独り寝のお作法」というタイトルではじめたものの、早々に何でもアリ状態になり、セックスについてセックスカルチャーについてアレコレ書いてきました(何度かお休みしましたが)。勢いでわーっと書き、掲載されてから「あわわわ、炎上したらどうしよう」と焦ったケースもちょいちょいあります。はい、小心者なんです。私はバイブレーターについては人より多少の知識はあるにしても、セックスを語る資格はないように思えてくるのです。でも、セックスについて語る資格がある人って、そもそもどういう人なんでしょう?

 身体の面から語るだけでは不十分だし、経験人数が多いからといってそれはあくまでも個人の体験でしかなく、AVの世界は一般の人のセックスと相関性がないとはいいませんが、必ずしもそれを映す鏡ではありません。人の性行動は社会と深く関わっているうえに、一刻もとどまることなく変わりつづけていますから、長きにわたって俯瞰して総合的に語れるとなると、ごくごく限られた人しかいません。

 こう書くと、どんどん自分の首が締められていきますね。その域に達した人以外はセックスを語るなと言いたいわけではないのです。個人的な見解に社会が凝縮されていることも多々ありますし。というエクスキューズを自分で用意して、私は今後も惑いつつ考えつつ、トライ&エラー上等!という気持ちで書きつづけるつもりですが、ときおり人生の先輩が俯瞰してくれたセックス論を読み、足元を踏み固めていく必要があります。発売直後から話題沸騰の『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子、二村ヒトシ著、幻冬舎)は私にとってそんな1冊になりそうです。

 読んでいると、自分が書いた記事が思い起こされ、「あのとき私はこういうことをいいたかったのか」「あの問題にはこういうアプローチがあったのか」と気づかされることが多く、目からウロコがバシバシ落ちました。それは、セックスで悩みがある人、恋愛でつまづきがちな人にとっても同様でしょう。自分の“うまくいかなさ”の原因に気づき、QOS(クオリティ・オブ・セックス)を上げるヒントに満ちています。

◎女性のオナニータブーはどうなった?

 今回は、本書の内容で私が膝を打った部分、印象に残った部分を、過去の拙記事を掘り返しながらお伝えいたします。私個人の備忘録のような内容になってしまったら、ごめんなさい。

●男たちからのONN勘違い質問に、この場を借りてハッキリお答えします!
●バイブフォビアを公言する男って、自分の無知と偏見が恥ずかしくないの?

 本書では「セックスは愛する男の人の手によって欲望を教えてもらうもの、から、女にも性欲があって当たり前という認識に変わっているので、自分で処理して何が悪い? というマスターベイション・タブーがなくなって、これまたBLなどの二次元に、リビドーを多く取られてしまっている」と書かれる一方、で「女性のマスターベイション・タブーは男性の思惑が大きい」とも論じられています。

 女性自身のマスターベイション・タブーはなくなったかのように見えて、フローリングの隙間に入り込んだ埃のようにまだまだ根強く残っていて、完全に払拭されるのはむずかしいように見えます。隙間に埃を押し込んでいるのは、おっしゃるとおり「男性の思惑」です。「オナニーする女性はさみしいから」「バイブを使う女性は、ほんとは男根がほしいのにそれが叶えられない気の毒な女」というストーリーの押し付けには、もううんざり。最近の掃除機は高性能なブラシと吸引力とで隙間からも埃を掻きだしてくれるそうですが、そうやってパワフルにタブーを払拭する何かがあるとすれば、それは女性の意識の変化にほかなりません。オナニーする女性を貶めながら、女性のオナニーをおかずにする男性はダサいよね、という意思表示は間違っていないと再認識しました。

 ほんとうにタブーがなくなる日がきたら、女性たちはどうなるんでしょうね。女性同士でもっとオナニーについての情報交換が盛んに行われようになるのかな。大っぴらに&あけすけにオナニーについて話す、いう意味ではありません。オナニーはとても個人的かつ、性嗜好を反映するために、とてもデリケートな体験です。それをべらべらしゃべるというのはタブーというよりデリカシーの問題。SNSとか、顔が見えない相手との情報交換のほうがイメージしやすいですね。

●セックスのため女はここまでしなきゃいけないの!? もうひとつのセックス特集

 本書では「an・an」のセックス特集が例にあげられていましたが、女性が女性に「男性への奉仕的セックス」を指南するコンテンツって至るところにありますよね。ネット記事にもゴロゴロあります。「彼にセックスの自信をつけさせる神テク4選」とか、「男性をセックス中にゾクゾクさせる女性のアソコになる方法」とか。男性を立てて自信を持てるよう導き(しかも、それとわからぬよう、さりげなく)、デリケートゾーンの透明感アップ&色素を薄くして「ほかの誰にも染められていないアソコ」アピールをする……って、何それ。

◎イニシアチブはどっちにある?

「女性が今、性的に解放されたなんていうのは嘘で、受け身の快感を知ってしまった男に対して、女の自分は気持ちよくなくても奉仕する役目になってしまっている」「受け身のオラオラであって、あいかわらずイニシアチブは男」ーー本書によるとズバリ、これが現在の日本のセックスです。それってもう奉仕ですらないですよね? ただの搾取としか思えませんし、男性のマスターベーションに女性が利用されているだけです。これはもはや、セックスと呼べないものですよね。こうした行為を指南する雑誌や記事は、最初からセックス特集ではなく滅私奉公特集だと思って読めば、腹が立たないのかもしれません。

●セックスにスピリチュアルな意味はいらない。まして母性はもっといらない

 男性を気持よくさせるエネルギーが図抜けている女優さんを指し、「母性」という言葉が使われている会話がありました。二村さんは「娘を抑圧したり息子を甘やかして癒着する母性の闇サイドとは違う、相手の依存を条件無しで肯定していく母性」といい、湯山さんもそれを「揺るぎのない大きさね」と受けているのですが、それって母性なんですか? 女性特有のものなんですか? このやりとりは、「男も母性を持ったほうがいい」と続きますが、母性=女性にそなわっているもの、相手を包み込むスケールの大きな心理状態でいるのが母たる存在、というのが前提とされているように見え、強い違和感を覚えました。別の話題で、二村さんが風俗嬢の女性の職業的親切心、探究心をまたも「母性」といって、湯山さんにたしなめられるシーンがあります。母性……何かもっとほかに適切な言葉があるような気がするのは、私だけでしょうか。

*   *   *

 ……と、挙げていくと実はキリがないのです。おそらく私は人よりセックスやマスターベーションについて考える時間が長めだと思うのですが、それでも「私にとってセックスってなんだっけ」「マスターベーションは?」「私はそれを今後もしつづけたいのだろうか?」「しつづけるとしたら、そのために必要なことって一体なに?」と、自問させられます。日本人のセックスを説かれていますが、問われているのはひとりひとりにとっての「私のセックス」。人によってはパンドラの匣を開けることになる確率高しです。覚悟のうえでどうぞ。

■桃子/オトナのオモチャ約200種を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。

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