AV女優に会うため100km走る青年を追うドキュメント。その面白さと気持ち悪さ

 大人気AV女優・上原亜衣さんが引退を発表。彼女を愛してやまない青年が、「100キロを走破すれば、引退作で彼女とセックスができる」という条件を与えられ、東京・新宿から山梨・山中湖近くのスタジオまでひた走る様子を追ったドキュメント映画『青春100キロ』が、4月初旬に公開され、好評につき今月再上映されました(今後、関西方面で順次上映されるとのこと)。

 走る青年の姿は、まるで深草少将でした。絶世の美女、小野小町に恋し、「100日通い続ければ会ってもよい」と彼女からいわれて一途に通いつづけた伝説の人物です。ひと目会いたい、というと大変ピュアなようですが、当時は「男と女が会う」=「セックスする」です。『性のタブーのない日本』(橋本治著、集英社)には、平安貴族の男性たちが顔も人柄も知らない女性に対して「情報(その女性のバックグラウンドや、風の便りに聞く美貌や教養)」のみで恋をし、その女性といかにして対面するか、顔を見せてもらえるかに腐心する様が解説されています。

「初めて、相手の顔を見る」と「セックスする」が同時に行われるのは現代人の感覚からすればスゴイことです。そのうえ、そのために100日連続で通うとなると、いくら相手が後世に世界三大美女と謳われる女性であっても狂気の沙汰です。通う、というと簡単に聞こえますが、当時の夜道は街灯もなく、舗装もされておらず、野犬がいたり盗賊がいたりで危険がいっぱい。天候が荒れると、さらにハードモードになります(結局少将は100日目、雪道をクリアできずに死んでしまったそうですから)。

 そんななかを連日通って誠意を示してくれたら、「会ってもいいよ、セックスしてもいいよ」と言えるなんて、さすが小野小町。受け取り方によってはこれは体のいいお断りの文句なのに、それを真に受けて通いつづけた深草少将を、当時の人たちはちょっとバカにして、物笑いのタネにしていたのではないでしょうか。

◎青年に感情移入をするロードムービー

 AV女優という「偶像」に会いたいという理由で、100km走る青年にも同じ狂気を感じます。彼は走るのが趣味で、マラソンもたびたび完走しているようですが、50km☓2日間はさすがに未経験。途中にはアップダウンの激しい山道もあります。そもそも企画自体が尋常ではないのに、それにノッてくるなんて……。彼を追う撮影スタッフも、当初はなかば冷笑気味です。「走っているだけじゃツマラナイから、途中で上原亜衣を思って勃起させよう」とか、「彼がリタイアできなかったら、俺らギャラ出るの?」とか、そんな程度のテンションです。観客にしてもそれは同じで、映画の前半、私の両隣に座っていた男性たちは退屈なのか、それぞれスマホを取り出してはチラチラ画面をチェックしていました(マナー違反・怒!!!)。

 しかし、途中トラブルに巻き込まれても、外気温が0℃を下回っても、脚がパンパンになって引きずるようにして前に進むのが精いっぱいになっても、決してあきらめない彼に、スタッフたちも次第に感情移入していきます。観る側もそれは同じで、劇場の空気は明らかに変わりました。平安時代、深草少将のチャレンジを笑って見ていた人たちも、最後には応援したくなっていたのかも。

 100kmのゴール地点に上原さんが待っていて、顔と顔を合わせさえすれば、その時点でセックスが成立という平安ロマンさながらの瞬間を目指して彼が走っている間、当の上原さんは引退作の収録をしています。そこには100人の男性ファンがいて、「上原亜衣孕ませ隊」と「上原亜衣守り隊」に分かれて壮大な鬼ごっこを繰り広げます。「孕ませ隊」が彼女を捕まえれば無条件で「ナマ中出し」のガチンコセックスができるというもので、その斬新な企画は大いに話題となりました。

 が、私は気持ちが悪くなりました。ここでいう「ナマ中出し」は、ただ「避妊をしない&性感染症の予防をしないセックス」を意味するものでないのはわかります(病院での検査結果を持ってくるなど、その対策はしているはずですし)。この作品における文脈でいうと、「ナマ中出し」とは、上原さんのことをずっと応援していた彼らにとっては最大の愛情表現であり、そして、それを受け止めるのは、上原さんのホスピタリティの表れです。「できるだけ多くの人と、中出ししたい」と涙を浮かべる上原さんの表情はとても真摯で、これだけの思いがある人だから厳しい世界でトップに登りつめることができたし、多くの人に愛されたのだろうと理解できるものでした。

◎中出し=愛情&ホスピタリティではない

 それとは裏腹に、私のなかで「不特定多数の男性とのナマ中出し」が女性のホスピタリティとなっているAVの文化自体に、脊髄反射的な嫌悪感が起きたのです。女性を征服したいという願望が「ナマ中出ししたい」と変換されるのと同様に、彼女のことが大好きだという気持ちも「ナマ中出ししたい」「孕ませたい」と変換される世界。ほんとうに妊娠させたいと思っているわけではないのでしょう。そして、それを受け止める女性こそが評価される世界。本作では、「ぶっかけ」も男性の愛情表現&女性のホスピタリティによって成立していました。そのシーンでは劇場のあちこちから笑いが起きましたが、私は吐き気を堪えていました。

 AVのすべてがそうではないのは私も知っています。現に、私自身が好んで観るのはこの手の歪んだ価値観のない作品です。もちろん、私のなかにもいろんな嗜好があるのでアブノーマルな内容なものも含まれますが、少なくともそこには「中出しこそが愛情であり、ホスピタリティである」という歪んだファンタジーはありません。女性と女性の身体を、そこまで男性の都合よく変換するものは私のなかでは正視に耐えません。

「AV女優とセックスしたくて100キロ走る青年」という発想のユニークさ、それをAVのおまけにするのではなく映画として公開してしまおうという大胆な試みに惹かれて鑑賞した映画でした。そのロードムービー的な面白さは、満足のいくものでした(彼も「上原亜衣を孕ませたい」というTシャツを誇らしげに来ているので、やっぱり気持ち悪いのですが)。でも、そもそもの大前提として、「中出しこそが愛情であり、ホスピタリティである」という文化に生理的嫌悪感を抱く人は本作を観るべきではなかったのですね。そうとは知らずに、すみません。それを共有できる人だけが、愉しめる映画。R18指定のある映画ですが、「AV界のナマ中出し至上主義に耐え切れない人は観ないほうがいいですよ指定」も設けてほしかったな。

■桃子/オトナのオモチャ約200種を所有し、それらを試しては、使用感をブログにつづるとともに、グッズを使ったラブコミュニケーションの楽しさを発信中。著書『今夜、コレを試します(OL桃子のオモチャ日記)』ブックマン社。

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