恋愛では男性にリードしてほしい? 男に頼りがいを求めることが「当たり前」でいいのか/男性学・田中俊之さん

 武蔵大学で男性学・キャリア教育論を専門に教鞭をとる田中俊之先生の新刊『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)は、主に20代の若者男性に向けて、「働きすぎる必要はない、君の人生なんだ」とエールを送る内容です。

 前編では日本人の多くが「働きすぎ」であること、男性は特に「働く」ことから逃れられない構造になっていること、女性もそれを期待していることなどがあげられ、人生の大半を仕事に奪われないよう考え方をシフトする重要性について話してきました。

 後編では仕事の面のみならず、男性が性役割として期待されている「女性をリードすること」にも焦点を当てます。ナンパと逆ナンパ、草食男子と肉食女子というワードがあるように、恋愛の局面になると、<男性=誘うもの、女性=ジャッジするもの>という性役割が固定化しています。テレビのお見合い番組でも、告白タイムは男性から女性へオンリー。プロポーズも同様で、女性が男性にすると「逆プロポーズ」として珍しがられます。なぜ男性が女性をリードしなければならないのでしょうか?

――私自身の身の回りでも、「自分から告白したくない、相手に言わせたい」という女性の声をすごく多く聞くので、いつも変だなと思ってきました。“男にリードされたい”ってベッドのプレイとしてなら別にいいと思いますが、恋愛の基本的な常識がそうなっているというのはおかしいと考えています。肉食女子、草食男子という言葉の使われ方をみても、ジェンダーロールと逆の傾向を示していることを揶揄されているのは明らかですよね。

田中「男性が女性に告白するのが正当な様式とされていると、男性側も困りますよね」

――田中先生はご結婚されていますが、様式はどうだったのですか。

田中「ええ、……妻もどちらかといえば『男性側から告白するように仕向ける』タイプで待ちの姿勢を示していたので、僕からお付き合いしましょうと伝えましたね。相手が待ちなら、もう自分から行かないとどこにも進まないですからね。でも男性だって、告白するのは勇気がいるものですし、『男らしく自分から告白するべき』なんて強制されても困ります。男らしさと女らしさって、セットにされているじゃないですか。女性が“女性らしく”男性を立てると物事がうまく進むことが多い、みんなそう思っていて、男性から女性へ告白させるってそれとセットです」

――男から告白されないと女として恥ずかしいと思っちゃう人もいるようです。

田中「そうなんですね。この問題は僕もどうすればいいのか継続的に考えていて……。専門書ですが『「男らしさ」の人類学』(デイヴィッド ギルモア/1994/春秋社)という本があります。どこの社会に行っても男には通過儀礼があるということが書かれているのですが、たとえば南アフリカのサン人(かつてブッシュマンと呼ばれました)は温厚な民族とされていますがそこでも“ムチで打たれても我慢して声を上げない”といった、男になるための儀式があります。同書には文化人類学的に観察していくと、東洋西洋を問わず、男は「勇敢で力強く経済的に優れ禁欲的で働き者であることが期待されて、他人に奉仕して社会を防衛し維持することが期待されている」とあるんですね。他方、女性はもっとバリエーションが豊富なのだそうです」

――理不尽な経験をさせて、「大人の男にする」と。

田中「はい、男というのは『なる』ものだと。放っておいたら男になれないから、厳しい訓練をして男に『なる』と考えられている文化が多いというんですね」

――それを言うなら女も「なる」じゃないですか? 女装ですよね。生まれた瞬間はどちらでもないんだと思います。

田中「もちろんそうだと思います。まさにジェンダーですよね。ここから降りる方法が見つかれば世界的に素晴らしい、意義のあることだと僕は思っています」

◎<やりたい>は本質的か

――ひとつ確認したいのですが、男性が出来るだけ魅力的な多くの女性とセックスしたいのは当然のことだと思われています……よね?

田中「思われてますよね、はい。そう思われている、ということは僕もわかりますよ、大丈夫です」

――<男は基本的に、隙あらばやりたいと思ってる>と。そういう前提で、女は「オオカミから身を守れ」と教育されます。特に女性が性犯罪の被害に遭ったとき、自衛意識を問われますよね。そのうえで女性は、最適な男性に最適なタイミングで体を提供して、結婚して、夫婦になったならば他の女に奪われないようにできる限り努力して防衛しましょうね……と。あーめんどくさいなって感じなんですけど。乙武さん不倫での奥さんのコメントにそれなりの賛同があるのって、そういうことなのかなと思うんですね。

田中「男がセックスしたいんだってことがさも本質的な自然現象ってことにされていますよね。僕は男ですが、<隙あらばやりたい>とは思わないですね……あまり自分のこういう話を開示するのが恥ずかしいのですが。僕が<隙あらばしたい>をあり得ないと思うのは、僕にとっては性ってかなり面倒くさいんですよ。不倫報道なんてのを見てもわかるように、トラブルの種でしかないじゃないですか。それから根本的に僕はお祭りとか非日常的なイベントが嫌いなのですが、セックスってやや非日常的なところがあるじゃないですか、だからうまいことなくせれば……いや、でも難しいですよね。

それについて日本で唯一深く考察したのは哲学者の森岡正博さんです。ちくま文庫から出された『感じない男』というタイトルの本で、ご自身の性について赤裸々に分析をされています。『気が付いちゃったんですけど、射精ってそんな気持ちよくない? 終わったあとムナしいしさぁ』『自分は女子高生がわりと好きな気がする。女子高生のはいている下着は白じゃないといけないような気がする。なぜ僕はそう思うのだろう』というようなことを、どんどん掘り下げる。これはもう素晴らしい本です。僕はできない。今こうやって取材されても自分の性や恋愛についてあまり話せないんです。プライベートで友人から、恋人の話とか聞かれてもしないんですよ、若い頃から。彼女とどうなの? とか話したくない」

――どうして恋人の話はしたくないんですか。

田中「社交辞令として振られてるだけじゃないかなと思って。本当は興味もないのにそんなこと聞かれても。あとやっぱり恥ずかしいのかもしれません。あと恥ずかしいのかもしれない。だから森岡さんはすごい。で、<隙あらばしたい>とか、<男はどうしても我慢できない>なんていうのは、絶対に嘘だと思いますね。性は自分でコントロールできると思います」

――コントロールできるって私も思います。仕事でいくらでも頭を働かせて計算したりスケジュール組んで納期を守ったりしてるじゃないですか。セックスだけは男の本能だから仕方ないって言われると困る。

田中「本能どうこうとは話が少しずれるかもしれませんが、出張で地方のビジネスホテルに宿泊することがよくありまして。出張先でデリヘルを呼ぶ男性って多いですよね。ホテルにも<宿泊者以外はお断りですよ>って内容の軽い警告の看板があったりしますが、まあ黙認していますよね。明らかにデリヘル嬢さんだなという女性とエレベーターで一緒になることがよくあります。わかるじゃないですか、ちょっとした大きさのバッグを持っていて明らかに宿泊者ではない。既婚者なら浮気ですよね。で、別に独身男性なら性風俗を利用することは悪いことでも何でもないですが、出張先でちょっと羽をのばすという時に、そういうのばし方を選択する男性は多いのだなと。

僕だったら行く先々で美味しいものを食べることのほうが優先度が高い。だってデリヘル嬢を呼んじゃったら時間が拘束されるじゃないですか、自分で呼んでおいて拘束されるもないですけど。それだったら美味いものを食べたほうが、お金的にも」

――60分コースで2万円くらいですかね、デリヘルの利用。

田中「2万円あったら美味しいもの食べてお土産も買えるじゃないですか。すごい美味しいお寿司食べられますよね、2万円。でもそこで、“せっかくだから”と、美味しいものよりも性風俗の利用にそのお金や時間を費やすほうが羽をのばせるという男性もいらっしゃる。まったく意味がわかりません」

――そこは優先順位の違いというか。

◎掘り下げづらい「男とセックス」

――社会の中で男性たちが共有している幻想として「女はご褒美なんだ」「セックスはすごくいいものなんだ」「成功者にはすごく良い女がついてくるものだ」ってありませんか?

田中「ええ、ご褒美なんですよね。先ほどの文化人類学の話でも、通過儀礼を経て男になった暁には、そのご褒美にありつけるようになっています。ムチで打たれて耐えたから、じゃあお前は男として認めてやる、この女と結婚してもいいぞって流れになります」

――結婚してもいいってすなわちセックスしてもいいぞって意味ですよね、その場合。

田中「そうです。男になれば与えられる。モノ扱いですよね女性は。個々のいろんな文化をバカにしちゃいけないですけど、2016年にもなった市民社会である日本でそういう発想があってはいけないですよね。今日は清原の話ばっかりして恐縮ですけど、清原ってそういう考えをあからさまに見せていました。プロ野球選手になったら美味いもん食っていい女抱いていい車乗って、そうしたいのは当たり前だろっていう」

――当たり前だと思わずに、「ちょっと待って、自分はそうしたいかな?」って考えてみるのが必要。

田中「自分がしたいと思わされてることがあるんじゃないかなって疑う気持ちを持ちたいですよね。僕はこの本(男が働かない、いいじゃないか)を通じて若い人にそれを考えて欲しいと思っています。でもこの本で書けなかったこともあって、それはまさに先ほどから話している『男とセックス』について。いずれこの論点を掘り下げなければいけないとは思っています。僕も、もともとはこのことに興味があったのですが、『そんなこと研究しててもメシを食えないよ』と周囲に諭されて断念してしまいました」

――どういう研究をしようとしていたんですか。

田中「修士課程で性風俗に通う男性について調査していたんです。それで修士論文を書きました。でもその研究を続けて、『私は研究者です』とは言えないんですよね、大学の先生って」

――どうしてですか?

田中「どこかの大学に就職する際、自分がそれまでに書いた論文を5本くらい送って審査されるんですが、風俗に通った男性の調査をした論文って……」

――たいした情報じゃないと思われてる?

田中「たいした情報じゃないってのもあるし、性なんてアカデミックな場で語る必要がないと考えている高齢の先生方はまだたくさんいらっしゃいます。そういう面でも森岡さんは偉人です。他に類を見ないタイプの哲学者です。特に社会的な地位が一定程度ある場合、この分野に手を出す必要がない。性の話に手を出すとイロモノと見られますから。森岡さんは『もう大学教授なのになんであんな研究やってんだろうね』って知人の研究者が不思議がっていました」

――そういうものなんですね。

田中「男が縛られているものとして、仕事よりセックスのほうがさらに大きいかもしれない。生理現象だからで片付けられちゃいますしね。乙武さんの不倫騒動について、先ほど奥さんの謝罪コメントが~という話が出ましたよね。まず乙武さんは重度の障害者というマイノリティなので、論じにくい対象ですが、彼が『週刊新潮』の取材に応えた言葉は、マイノリティだということを抜きにして『妻が母になったから浮気してしまった』って理屈はクソですよ。多くの浮気男が言う、男の典型的な論理だけど、それは通らないと僕は思います。妻が母をしている間、我慢するって選択肢はないのか」

――夫婦仲を良くしましょうというテーマの女性に良妻の心得を説く本、いくつかありますけれども、基本的にそこには「旦那に我慢させちゃいけない」と書かれていますよ。女性カウンセラーが女性に向けてそれを書く。もちろん「旦那さんを立てましょう」と、散々書かれています。先ほど田中先生がおっしゃったように、男を立てることと男を頼ることは表裏一体です。旦那さんをホメて立てて育てましょう、とある。そりゃあ男女仲良くしていたいですが、上下の関係性で「良好です」って違うと思います。

田中「体感しにくいけどやっぱり日本の女性差別ってすごいですよ。今の話もそうだし、男性が育児休業とらないことも含めて、女性の我慢のうえに社会が成り立ってるんですよ本当に。女性がしたくないセックスを夫がしたいからって理由で我慢してやって、それで社会はうまく回っていきますって。乙武さんが浮気しました、妻が私にも悪いところがありますと謝罪して、それで丸くおさまると。奥さんが謝るのはおかしいって論調だけでいいはずなのに。女の人が我慢するのはよろしいことであるって認識が社会にありますよね。それじゃ女の人の人生ってなんなんだ」

――女性がそうやって我慢して、男性もたぶん仕事含めいろいろな面で我慢して、それで成り立っている社会って無理がありますよね。女の人が我慢するのはよろしいことであり、一方で男性がグイグイリードするのがよろしいことであるという共通認識、なくしたいです。既存の常識を維持するためだけに、みんな我慢しすぎじゃないでしょうか。

田中「まあそうは言っても、女性が男性に頼りがいを求める、頼りがいを求めるから私は立てるし我慢する、このセットで充足している人には届かないし、余計なお世話と言われてしまいます。これでうまく回ってるんだからいいじゃないかと」

――個別でうまく回っている事例があるにしても、全体を見たらうまく回っていないですからね。頼りがいなどの“男らしさ”が、モラハラやDVを招く側面も持っているんじゃないかという問題意識もあります。たとえば強引で引っ張ってくれる男性は、男らしさ・かっこよさ・決断力があって頼れる。しかし別の見方をすると、私の意志を尊重してくれない・思いやりのない・乱暴な人とも読めてしまう。逆に優しくていつも彼女を優先してくれる人は、男らしくないとか。仕事の稼ぎが少ないと家事育児の分担率が高くても甲斐性がないとか。

田中「強引という特性は、ある意味、相手の意思を無視するところに成り立ってるわけですから……この問題本当に難しいですよ、また別の機会にあらためて論じたい。たとえばある男性が強引に女性の腕を引っ張るシーン。それでキュンとくる女性がいるってことになっていますよね。少女マンガでそういうシチュエーションが描かれることも定番になっている」

――壁ドンとか。

田中「そうそう。僕は結構マンガ好きですけど、マンガってフィクションとして楽しめばいいけど現実に適用しはじめたら大きくおかしなことになるじゃないですか。マンガの登場人物がそういうことしているぶんにはいいけど、現実で強引に腕を引っ張られたら怖いじゃないですか。これはAVとかでもそうですけど。フィクションの登場人物でカッコイイとされる要素を、現実でそのまま適用することは出来ないと思います」

◎平凡な女性が働いていて何が悪いのか

――最後にもう一度、女性が経済力を持つことの重要性について。白河桃子さんの『専業主夫になりたい男たち』に収録されている小島慶子さんとの対談で、2つ気になる箇所がありました。「女性は自分の子供はいざ知らず、夫を養うマインドがない」なぜなら「日本ってまだまだ女性の経済的パワーが弱すぎる」からだと。

田中「ほとんどの男性が育児休業を取得せず時短勤務もしないのは、大抵、その家庭内では家計的にそのほうが都合が良いからですよね。育休とって出世コースをはずされるより、セーブしないで働いて昇給したほうが、家計全体を考えれば合理的だと。先ほども言いましたが、女性側からもそういう声はありますよね、夫は育児をやらなくていいからバリバリ働いて稼いでほしい、って」

――ありますよね。ですが繰り返すように、私生活を犠牲にして働いて成り立つような会社が「普通」とされてるのがおかしい。

田中「そうですね。もうひとつ僕がおかしいことだと思うのは、男性は特別有能じゃなくても辞めないで会社に居続けていいのに、女性の場合は優秀な女性しか働き続けられないことになっていることです。優秀な女だけは輝いてもいいよ、みたいな。男性は優秀じゃなくても働き続ける以外ないし、平凡だったりダメな奴でも『結婚して辞めればいいのに』なんて言われない。40歳を過ぎた平凡な、特別優秀じゃない女性が普通に正規で働いていると奇異の目で見られます。実は僕の友人の会社にいるそうなんです、独身で40代以上の優秀ではない一般職の女性社員さんが。ものすごい陰口を叩かれているんだそうです。早く結婚してやめればいいのに、とか。ひどい話ですよね。自分の生計を立てるために働いて何が悪いんだっていう。どうして肩身の狭い思いをしなくちゃならないのか。すさまじい女性差別ですよね。じゃあどうしろっていうんだ」

――「男が働かない、いいじゃないか」の対になるのって「女が産まない、いいじゃないか」だと思っているのですが、「女が働き続ける、いいじゃないか」もありますね。結婚して男に養ってもらえって、おかしい。

田中「まさにそれですね! 仕事って、お金を貰う以外にも様々な側面を持ちます。嫌なこともまああるけれど、面白い面もあるじゃないですか、いろいろな人に会うことができたり努力の結果が出たり。これを女性だからってだけで制限されるいわれはない。女性は除外ってないなあと思いますよね」

――まず男も女も自分で自分を養える経済力が必要だと思います。「男だから家族を養う経済力を得なきゃダメ」っていうのは性差別。女性が「私は家の中にいたい。だから男が働かないなんて困るよ」って言ってたら、男性も変われませんから、私としては女性側も考えをあらためてほしいと思っています。

(構成/下戸山うさこ)

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