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日本に女性首相が生まれないのはなぜか アジアのリーダーと社会構造から考える

2016/05/05 21:00
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グレース・ポー上院議員公式サイトより

 いまフィリピンで、ある女性が「台風の目」となっている。グレース・ポー上院議員(47)、5月9日投票の大統領選挙に参戦している有力候補だ。

 夏の参議院選挙を前に、日本でも、初の女性首相候補として、自民党の稲田朋美政調会長や野田聖子議員、最近では民進党の山尾志桜里政調会長といった名が取り沙汰されているが、いずれも実現性の薄い話にすぎない。なぜ女性首相が誕生しないのか、その背景を、アジアと比較しながら考察してみる。

■フィリピン、韓国、台湾、ミャンマー、タイも女性リーダー

 グレース・ポー上院議員は、もともと教会の前に捨てられていた孤児だったが、フィリピンの国民的俳優フェルナンド・ポー・ジュニアに引き取られた。成長してから彼女はアメリカに留学するが、養父が大統領選挙に立候補したことをきっかけに政治の世界に入る。養父は敗れたが、彼女はその後、上院選に出馬し、トップ当選を果たす。そして今回の大統領選では、養父の無念を晴らすつもりだ。

 フィリピンは過去にも、コラソン・アキノ、グロリア・アロヨと女性の大統領を輩出している。またアジア諸国を見渡してみれば、韓国の朴槿恵大統領、台湾の蔡英文次期総統など、女性のリーダーが多い。制度上、大統領にはなれないが、ミャンマーのアウンサンスーチーも指導力を発揮しているし、タイは前首相のインラック・シナワトラが女性だ。

 政治の世界に表れているように、アジア諸国では、日本よりもはるかに、女性の社会進出が進んでいる。ILO(国際労働機関)の2015年1月の報告書によれば、女性管理職の割合はフィリピンが47.6%で世界第4位。シンガポールは31.4%で53位、タイは28.2%で64位、ベトナムは23%で76位と続く。日本は11.1%で96位、アジアでは最低ランクだ。

■家事を仕事と見なし、対価を支払う文化

 東南アジアでは、オフィスの主役はむしろ女性だ。オフィスビルのエレベーターでも、乗り合わせるのは女性ばかり。転職は一般的で、会社を替わるごとにキャリアとギャラをアップさせていく女性も多い。

 フロアではときどき、赤ん坊や子どもの声が聞こえてくることもある。職場を託児所代わりにする母親が多いのだ。仕事で会社を離れるときは、手の空いている社員が代わる代わる、子どもの面倒を見る。それで誰からも文句は出ない。おおらかな空気の中で子どもは育ち、母親は社会で活躍することができる。日本のような待機児童の問題は起こりようもない。

 また、メイドという職業が一般層にも浸透している点が大きいと語るのは、近畿大学国際学部教授の柴田直治氏だ。

「アジアで活躍する女性の家庭には、必ずメイドがいます。女性の社会進出を、別の女性たちが支えているのです。ここが日本とアジアの違いです」

 メイドの家庭でメイドを雇っていることも珍しくはない。家事を仕事と見なし、対価を支払うことで負担を軽減し、互いが社会で働く場をつくる。そんな文化がアジアにはある。

■女性が上に立つことに対する違和感が少ない

 男たちの「良い意味でのプライドのなさ」も、女性の社会進出や指導者の誕生を後押しする。

「寒い時期が長い国や、砂漠の国では、男が狩りや農漁業で体を張って家族を養わなければならなかったのに比べ、東南アジアでは二期作、二毛作は当たり前。魚影は濃く、男が必死に働かなくても、ココナッツが落ちてくるのを待てばよいといった世界でした。しかし、炊事、洗濯、調理といった女性の家事は、世界中どこでも長年そう変わりません。だから東南アジアでは、男と比べて女性がよく働くようになったのではないかと推測されます」(同)

 豊かな自然環境が、東南アジアの母系社会をつくっていった。男は自分たちの弱さや情けなさをどこかで受け入れ、尻に敷かれることにあまり抵抗がない。日本の男たちとは違い、女性が上に立つことに対する違和感が少ないのだ。

 ただし東南アジアの場合も、女性政治家の大半が世襲という問題を抱えている。アウンサンスーチーもインラックも、インドネシアのメガワティ・スカルノプトゥリも、インドのインディラ・ガンジーやパキスタンのベナジル・ブットも、家族が国の指導者や有力な政治家だった。グレース・ポーも同様だ。

「ジェンダーというよりも、階層(クラス)や世襲の問題、社会格差の問題でもあるのです」(同)

 だが、やはり世襲政治家がはびこる日本では、女性を担ぎ出す動きは少ない。せいぜい神輿扱いの大臣が関の山で、トップには立っていない。そして実務を期待されてのことではない。

 アジア各国の女性リーダーにも「神輿」に載せられているという側面はあるのだが、精力的に活動し、経済成長などの結果を残すところが日本とは違う。女性の側の政治参画意識もまた、東南アジアのほうが高いのかもしれない。社会構造の大きな変化がなければ、女性リーダーが日本を引っ張る時代になるのは難しそうだ。
(室橋裕和)

最終更新:2016/05/05 21:00
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