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 お産の数だけドラマがあるというのは当然ですが、世界各国の出産シーンを切り取ったドキュメンタリー映画『プルミエール わたしたちの出産』は、なかなかにディープです。この作品、日本ではPG12指定となっているようですが、〈12歳未満の観賞は 成人保護者の助言や指導が適当とされる〉その理由は、うっかりこんなお産に憧れたら問題であるからだ、と思いたい!

 同作品に登場するのは、日本ベトナムシベリアメキシコブラジル等で出産を迎える女性たち。文化や価値観、それぞれの選択によって行われるお産がバリエ豊富に映されますが、現代日本でごく標準的な出産を体験した自分の目には、ホラーレベルで「ひい、怖い!」と映るものが続々と……。

 登場するお産をジャンル分けしてみると、ざっくり2種類。

・現代医療が介入する派
・民間療法に頼る自然派

です。その中で、この映画のウリでもあろう最大のエクストリーム出産は〈イルカの立ち会う水中出産〉です。作中、メキシコで30年のキャリアを積んできたという助産師が表れ、こんなナレーションが流れます。

「イルカの超音波が胎児を癒す」
「イルカの発する超音波は子宮内に届き、胎児の免疫力を高めてくれ、左右の脳の動きのバランスを取る」

 科学的根拠うんぬんはさておきにしても、イルカの超音波って、仲間とのコミュニケーションだけでなく、エサを捕るときに攻撃としても使ってませんでしたっけ。なんだ? この異物。どりゃ! と、胎児がイルカに攻撃されないといいんですけど。ネット民の間で有名な挿絵「イルカがせめてきたぞっ」(ご存じない方はぜひ検索を)が頭に浮かんでしまったのは、私だけ?

◎意地でも、海で産む!

 イルカの心温まる逸話はたくさんあるけれど、なんでもかんでもイルカは平和で高知能、人間の友達だ! と思うのは、むしろ自然を軽視していそう。そもそも同作品では、水中出産のため、トレーナーが人なつっこい性格のイルカを選んでいるシーンがあって、これはつまり訓練された人慣れしたイルカでないと難しいということでしょう。これって自然なのかな~。

 さて、肝心の本番。陣痛が来たら施設のプールである程度お産が進むのを待ってから、いよいよとなったらすぐ近くの海へ移動して産むというプランだったのですが、何が起こるのか予想がつかないのは当たり前。予想外に進行が早く移動する余裕がなくなり、施設のベッドで生まれます。

 まあ、無事に生まれて何より……とホッとしたのもつかの間、なんと生まれたての赤ちゃんとお母さんを毛布の担架で海に運ぶではありませんか。何が何でも海で出産したいという、すごい執念。気候のよいときを選んでいるのだろうけど、生まれたてほやほやの赤ちゃんを、わざわざ紫外線や外気、潮風にさらす必要があるの~?

 画面に登場するのは、パートナーとともに砂浜で愛おしそうに赤ちゃんを見つめるお母さん。誰が何といおうと、完全に自己満足の世界であります。世の中的には、屋内のプールを使った水中出産はもちろんのこと、海中での出産は有害なバクテリアに感染する恐れがあるので危険であると警鐘が鳴らされていますので、そういった情報もどこかに入っているとよかったのですが。

 お次は、医師はおろか助産師すら頼らず、自分とコミュニティの仲間たちだけで挑む、完全な「フリーバース」です。「よりよい世界をめざし活動を続けてきた」と語り、4組のカップルとアメリカ北部で共同生活する女性の生活は、ヒッピーのそれを思わせます。陣痛が始まると、プールにつかった妊婦の周りで仲間がギターを慣らし、皆で合唱するというもはやイベント状態。お産の直前、仲間に決意をこう語っています。

「お産の最中に死ぬかもしれない。リスクは覚悟している。でも、どんな結果でも受け止める。それが人生だもの」

 できればリスクは自分だけで背負っていただきたいですが、何とか自力で産むことができていたので、まずはおめでとうございます。しかし問題は、産後に起こります。通常なら30分以内に自然に剥離して出てくるはずの胎盤が、3時間たっても出てこないのです。胎盤癒着になれば、大量出血を招き出血性ショックが起こったり、子宮摘出しなくてはならなくなることも。それだけでも「はーやーくー病院に行けよ!」と思うのですが、最終的には仲間の女性が手をつっこみ、胎盤を剥がして取りだしていました。これまた全方向的に、怖い。

 日本パートでは、現代医療否定で有名なあの、吉村医院が登場します。やめてー、全世界にこれが日本のお産だと発信しないでー。吉村医院では、妊婦たちが昔ながらの日本家屋で薪割りをしたり、全身を使ってぞうきんがけをして体を動かしながら暮らします。

「現代の生活を批判し、伝統的な生活を重んじる」
「病院はお産を機械的に行う」
「医療の助けを借りずに出産する」

 そう解説されていきますが、検診では超音波の機械を使ってるじゃ~ん。しかも(作中には登場しませんが)ここ、分娩中にトラブルがあったら普通の病院へ緊急搬送するんですよね。いざというときは医療の力に助けられながら、都合のいいときだけ現代医療を批判するのって何だかずうずうしい。

 同作品の本当の〈昔ながら〉は、マサイ族やカポヤ族の出産でしょう。こっちは分娩法がどうこうというよりも「年頃になったら男たちが牛を持ってきて結婚の約束を競うから、という理由で女の子を望んでいる」などの背景が、現地の生活が投影されていて、とても面白いです。

◎産み方を習うのはヘン!?

 一方、医療を介しての分娩として登場するのは1日120人誕生するという、世界でも有数の分娩数を扱うベトナムの病院や、自宅出産が禁じられているためヘリで搬送されてきて、帝王切開するシベリアのケース。また、フランスのダンサーは無痛分娩(海外では普通分娩よりも無痛分娩のほうが多い)の際に行われる硬膜外麻酔の説明を受け、いきみかたをレクチャーされています。

「自然に産む人もいるのに、産み方を習うなんてへんね」

 わざわざこのコメントをもってきたり、妊婦がイモ洗い状態(言い過ぎ?)で転がっているベトナムの病院を出したりする構成、「命をかけて真剣に挑む自然なお産がいかに幸せに満ちていて、病院でのお産はシステマチックで感動に欠けるという意図が見え見え! それを「出産って生命の神秘だよねっ!」と投げかけられても、そりゃそうなんですけどねえ、と白けモードになるってもんです。私にはむしろ、〈自然なお産〉をあえて選んだ妊婦さんたちの、陶酔しているかのような笑顔に不安を覚えましたけど。

 お腹の中から出てきたてホヤホヤの、羊水&胎脂びっちり(でもかわいい)新生児をたくさん見られるという点は楽しいドキュメンタリーですが、お産そのものは、繰り返しますがはっきり言って戦慄もの。ホラー映画は大好きだけど、この手の恐怖は嫌だなあ。作り物ではない真の恐怖を味わいたい人には、おすすめしてもいいかもしれません。

(謎物件ウォッチャー・山田ノジル)

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