痴漢被害が起きる瞬間を、断ち切る剣になるか。「痴漢は俺の敵」バッジの可能性

痴漢被害を減らすための新たな方法として「バッジを付ける」という行動がネットを中心に話題になっています。

きっかけは去年、痴漢被害に頻繁に会っていた女子高生が「私たちは泣き寝入りしません」というバッジを自作して電車に乗ったところ、痴漢被害に遭わなくなったエピソードが広まったことから。その後デザインを公募し、「痴漢抑止バッジ」として配布がなされました。

一方、「痴漢は女性だけではなく、男性の敵でもある」という思いから、男性用の痴漢抑止バッジを作成する動きも生まれています。3月12日に、男性用痴漢抑止バッジの配布イベントが東京・恵比寿で行われ、約40名が集まりました。

◎男性にとっても「痴漢は俺の敵」

今回のイベント主催者は、そんきょばさんという男性。痴漢被害を無くすために男性もできることがあるという考えから、「痴漢は俺の敵 困っている人は助けます」と書かれた缶バッジを作成しました。

痴漢は女の敵だという言葉は聞きますが、痴漢をする人間は男性の敵でもあります。大事な女性が痴漢被害で傷つけられたという男性、痴漢冤罪による誤認逮捕に怯える男性、そして痴漢被害に遭う男性もいるのです。そしてそんきょばさんには、痴漢は自分には無関係な、「女性の問題」だと思い込んでいる男性にも、痴漢は社会全体の敵であり他人事ではないということを認識してもらいたい、という思いがありました。

先駆けて取り組みが始まっている女性用の痴漢抑止バッジには、「泣き寝入りしません」と書かれています。

「この活動を知った時、男性も何かしなきゃと思いました。痴漢被害の問題を語る際、世間では女性(を始め痴漢被害者)に一方的に自衛を求める風潮がありますが、それはいじめられっ子だけに『お前頑張れよ』というのと同じ。警視庁のHPには『性犯罪から身を守れ 許すな痴漢』というページがありますが、これも被害者に向けて『自衛してくださいね』『痴漢被害にあったらあなたが戦ってくださいね』という内容になっています。被害者に痴漢行為に立ち向かえと言うのではなく、痴漢被害を未然に防ぐために自分たち男性にもできることがあると考え、男性用の痴漢抑止バッジの製作をしました」

痴漢被害の問題については、被害者の女性VS加害者の男性という構造で語られることが多く、一般の男性の声はかき消されてしまいがちです。そんきょばさんは今回の活動を始めるにあたり、男性の声を可視化しようとメッセージを募集しました。

多数集まった声の中には、娘が痴漢被害に遭って電車に乗れなくなり、今も痴漢加害者が誰かを傷つけているかもしれないと思うと許せない、というものや、家族と話をしたら、母と妹が日常的に痴漢被害を受けていたということがわかった、というものもありました。また、自分自身が痴漢被害に遭ったという声も少なくありませんでした。

一方で、派手な服装だから痴漢被害に遭う、といった誤解や無理解も世の中には未だあります。

「未だに男性社会と言われてしまう国だからこそ、男性の意識が変わると、痴漢被害を取り巻く状況は大きく変わる。改めて男性からも、痴漢行為を許さないと示すことによって、痴漢行為がやりづらい世の中にしていくことができると考えています」

◎「背景の一部」にしないよう、わざと派手なカラーリングに

実際に会場でバッジを見てみると、まず目を引くのは色使い。ショッキングピンクのベースカラーは、実際に着けると、ぎょっとするくらいの異物感があります。少し付けづらいという声があるかもというのは承知で、わざとこのカラーリングにしてあるとのこと。

「ダークスーツばかりの車内に、このカラーリングはとても目立ちます。痴漢行為をしようとする人に対して、バッジを見た瞬間に抑止力になるようにしたかった。将来的には、遠目からでもこの色を見たら『痴漢抑止バッジだ、痴漢するのをやめておこう』と思わせたい」

電車を降りたら簡単に取り外せるよう、缶バッジはクリップの付いたデザインを採用。バッグなどにも付けられるよう小さいサイズから大きいサイズまで3種類を揃えています。

◎痴漢被害VS冤罪という構造から抜け出す

痴漢被害の問題を考える際、どうしても「痴漢冤罪はどうなるのか」という声が対立軸になりがちです。痴漢被害に遭った女性は加害者を「捕まえたい」という気持ちがある一方、混んでいる車内で違う人を捕まえ、冤罪を生んでしまうのも怖い。また、男性は自分が痴漢被害に遭うことの他に、痴漢に間違われることも怖い。

そんきょばさん自身、痴漢をした人間だと間違われ、その時に被害に遭った女性と言い合いになってしまった経験があります。

「本来であればどちらも被害者であるにもかかわらず傷つけ合ってしまう状況に、痴漢をした人間は笑っていたんだろうと思うと、とても悔しかったです」

「痴漢は俺の敵」と意思表示することは、痴漢をする人間に対しての威嚇になり、痴漢行為を踏みとどまらせることに繋がります。また誰かが痴漢被害に遭っているその現場で、このバッジをつけている人が居合わせれば、「助けて欲しい」と声を出すことが出来るかもしれません。

実際、女性用痴漢抑止バッジは使用者の声から一定の効果を出していると言われており、男性用についても同様の効果が期待できるとそんきょばさんは考えています。

誤解を受けやすいのが、このバッジの目的は冤罪を減らすことではなく、根本にある痴漢行為を減らすことであるという点です。

「『痴漢抑止バッジを付けていると、冤罪から身を守れる』という捉え方をする男性もいますが、このバッジの考え方は、痴漢被害の根っこを断ち切ること。痴漢をしようとする人間がバッジを見て、痴漢行為をやりづらいと思わせる環境を作る。これによって痴漢行為が無くなれば、冤罪の被害もなくなるという考え方です」

◎痴漢抑止バッジは、痴漢被害が生まれる瞬間を断ち切る剣

イベント会場にはFacebookやTwitter、ニュースサイトなどで痴漢抑止バッジを知った約40名が集まりました。

「わたしは過去にいじめられた経験があります。いじめと似た構造になりがちな痴漢行為が許せないという思いで今日は来ました」(30代・男性・会社員)
「男友達に頼まれて、バッジを買いに来ました。渡したら、実際に着けた感想を聞いてみたいです」(20代・女性・大学生)
「このバッジ着けたら格好いいと思います。友達にも『いいね』って言ってもらえそう」(20代・男性・会社員)

今回は第一回目の配布イベントでしたが、東京以外の地域からも痴漢抑止バッジが欲しいという声が上がっています。地方への販売方法も検討しながら、そんきょばさんは今後も配布活動を続ける予定です。

「痴漢対策は『女性専用車両』だけで十分だ、という意見があります。しかし、女性専用車両は盾であって剣ではない。女性専用車両は痴漢被害に遭った女性を守ることはできますが、痴漢行為自体を減らすことにはなりません。この痴漢抑止バッジは剣になります。痴漢被害が起きる瞬間を断ち切るための剣です。みんなでこの問題に関心を持ち、痴漢被害の発生を減らしていけたらと思います」

痴漢被害を無くすためにできることは、男女関係なくあります。そのひとつとして痴漢抑止バッジを着けることは、これからの痴漢被害を減らす有効な手段になり得るでしょう。イベントの参加者が、買ったばかりのバッジを着けて帰っていく様子に、この活動が徐々に広がっていくだろうと感じることができました。
(此方マハ)

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