「同性愛」という言葉に「形」を与えれば怖くない。/『同性愛は「病気」なの?』牧村朝子氏インタビュー

近年、セクシュアルマイノリティに関する出来事に注目が集まっています。もはや「異性愛」「同性愛」という言葉を知らない人はいないといっても過言ではないでしょう。しかし、なぜこのような分類がなされるようになったのかを考えたことのある人は少ないのではないでしょうか? まして「同性愛」という言葉がどのように生み出されたのか、その歴史を知っている人はほとんどいないと思います。

今年1月に上梓された牧村朝子さんの『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた世界の「同性愛診断法」クロニクル』(星海社)は、「同性愛」という言葉を巡る150年の歴史を、膨大な資料から紐解いていった一冊。本書に記された「同性愛は異常」とされ、「治療」や「迫害」を受けてきた人々と、それに抗った人々のドラマは、「同性愛」という言葉に深さと重みを与えてくれます。

牧村さんは「同性愛診断について調べることがやめられなかった」とお話になっています。それは、10代のときに感じていた「同性愛」への恐怖心を、知ることで克服したという経験が原動力になっているそうです。マイノリティに対する漠然とした不安はどこから生まれてくるのでしょうか。牧村朝子さんにお話を伺いました。

◎「同性愛 診断」の検索に引っかかりたい

―― 本書を執筆する際に意識したことを教えてください。

牧村 この本は、前作の『百合のリアル』(星海社)に出てくる高校生のはるかちゃんのように「自分は同性愛者なのかもしれない」と悩んでいる人のことを思って書きました。ネットで「同性愛 診断」と検索すると、アフィリエイト目的のどうしようもない診断しかヒットしない状況をどうにかしたかったんです。この本が検索画面に表示されるようになったらいいなと思っています。

―― 本書は世界中の資料を参考に、「同性愛」を巡る150年の歴史を辿られています。特に衝撃的だった資料を教えてください。

牧村 遺書や死体写真が胸に迫りました。本当に同性愛を理由に人が殺されていたんだ、ということを実感して。すごく精神的にきました。これは今でも続いていることです。最近では、イランで10代の男の子ふたりが首を吊られた写真がネットに出回りました。これは同性愛が理由だったとも、同性への性的暴行が理由だったとも言われていますが……もう、瞼の裏から離れないです。

―― その歴史の中では荒唐無稽な同性愛診断が行われていましたね。「脳で見分けられる」「精巣で見分けられる」「ゲイには生理があるのではないか」……時には人体実験までも行われていました。でも、これは「歴史上のお話」ではないと思うんです。今でも、おかしな同性愛診断は蔓延していますよね。

牧村 そうですね……。この本でも紹介しましたが、昨年「この画像に書かれた数字が見えない人は同性愛者です」というツイートが2万リツイートぐらいされました。本当はあれは「石原式色覚異常検査表」というもので、色覚の検査に用いていたものです。ああいうものを信じたり、気軽に広めてしまうのって怖いですよね。だから、そういうものをノリで広めてしまうような人にも、手にとっていただけると嬉しいです。

◎「気持ち悪い」と感じる人が苦しみを抱えている

―― 牧村さんご自身は、同性愛診断をされたことはありますか?

牧村 自分のセクシュアリティに悩んでいた時期、10代から20代前半ごろまでにいくつかしたことがあります。実際に男性とセックスしてみるとか、いわゆるレズビアンもののAVを観て自分がどう感じるかを試したりとか。それから、カウンセラーさんに話を聞いてもらいました。でも、同性愛で悩んでいるということは言えなかったので、適当な悩みをでっちあげてしまって、解決にはならなかったですね。後は、スピリチュアル系の催眠療法に行ったことがあります。そのセラピストの方にも「同性愛で悩んでいます」とは決して言えなかったのですが、「繰り返し見る夢があります。催眠をかけて下さいませんか」と頼んで、自分の心の中を見てもらおうと思いました。

―― 催眠療法はどうでしたか?

牧村 催眠療法、面白かったです! セラピストさんに「今からあなたは自分じゃない存在を自分としているビジョンを見るでしょう」みたいなことを言われて、催眠をかけられたんですね。そしたら裕福ではない、いわゆる非モテな感じのドイツ人の仕立て屋の男性が見えてきたんです。女性とうまく話せないのだけど、ある日、綺麗なドレスを持ってきた女の人を好きになる。でも、自分が直したドレスを着た女性が他の男性と歩いているところをみて「これが俺の人生か。こうやって窓の外にあるキラキラした世界を見るしかないんだ」と絶望し、ガラスのように、何かを隔てるものが怖くなるんです。それでかけている眼鏡を割ってしまう。頭がおかしくなっていることに気付いて入水自殺をするのですが、水の中から眺めた水面がまたガラスのようで……。「俺は一生ガラスを越えられないまま死んでいくんだ」と思う。そんなビジョンでした。

当時は「私は気持ちの悪いレズビアンで、幸せそうな異性愛者の世界を、ガラスのこちらから側から見るしかない」と思っていたので、その表れだったのかもしれないです。

―― そういった不安があるからこそ、診断法を試すことになるのかもしれません。まえがきで「世界の同性愛診断について調べることをやめられなかった」と書かれていますが、その原動力はどこからきていたのでしょうか?

牧村 楽になりたかったんです。同性愛という概念をきちんと知らなかった10代のときはとても苦しくて、怖かったんですね。「治さなくてはいけないものだ」という、もやっとした悪いイメージを持っていました。でもきちんと調べてみたら、もやっとしていたイメージにちゃんとした「形」ができて、怖くなくなっていったんです。今もそれが原動力になっています。

―― 牧村さんご自身が、同性愛に対して「怖い」と思っていらしたんですね。

牧村 私自身だけではなくて、母もそうだったと思います。母は、私がテレビで「私、レズビアンなんです」って言っているのをたまたま見て、私のセクシュアリティを知ったんです。そうしたら「あなたは“レズビアン”なんて不謹慎なことを言っていいの?」と言われてしまいました。

でも、そのことで母を責めるつもりはありません。母の中にも「レズビアン」っていう、もやっとした悪い、いやらしいイメージがあって、私がそれを言っているようにしか見えなかった。でも、そこから掛札悠子さんの名著『「レズビアン」である、ということ』(河出書房新社)など、色々な本を読んでくれて、ちゃんとした「形」を持ってくれたみたいでした。

―― 私が親からそんな風に言われたら、親を責めてしまうと思います。

牧村 母を責めない方が楽だと感じたんです。それに、「レズビアン」って辞書に載っている定義は一応ありますけど、実際に「レズビアン」と聞いて浮かんでくるイメージや湧いてくる感情って人それぞれ違いますよね。だから「“レズビアン”なんて気持ち悪い」と言われても、「私が“レズビアン”だから気持ち悪い」ではなくて、「その人の抱える“レズビアン”のイメージが気持ち悪いんだ」と思うんです。その人の気持ちと、自分を切り離しています。それに、世の中に気持ち悪いものがたくさんあればあるほど、その人が苦しいだけじゃないですか。それは私ではなく、その人の苦しみです。だったらその苦しみを減らしたほうがいいと思うんですよね。知ることは人を楽にすると、私は考えています。

―― 「知る必要はない。自分には関係ない」という人もいます。

牧村 私には「全ての人がセクシュアルマイノリティについてきちんと知るべきだ」と声高に叫ぶ気はありません。「あの人たち気持ち悪くて怖いよね、でも私たちは仲間で安全だよね」という風に、狭い世界で生きていくのもその人の自由なんだと思います。セクシュアリティについて悩んでいた頃の私も、同じように「ここだったら安全、同性愛者は気持ち悪くて怖い」と思っていました。でも、そうやって生きてきた結果、楽しくなかった。狭い世界の中から出られずにいる状態って、もったいないじゃないですか。

◎居場所は「ここ」だけじゃない

―― 私は新宿2丁目のようなコミュティとその他の場所の間に、同性愛者/異性愛者という境界を感じることがあります。自身のセクシュアリティがよく分からないために、そうしたコミュニティに行きづらいと感じている人もいるのではないでしょうか?

牧村 最近の新宿2丁目は観光バーみたいなところができて、敷居が下がりましたよね。「観光客気分で来ていいですよ」というコンセプトのバーです。当事者じゃなくてもいいし、カミングアウトをしなくてもいい。本格的なバーでも、本来なら非当事者が行っていいし、カミングアウトを強要されることもないはずなんですけれどね。本格的なバーには行きづらいと感じるなら、観光バーのようなところに行ってみたらいいと思います。

でも、1つ考えたいのは、なぜそこに行きたいのか、ということですよね。私が昔、新宿2丁目に行きたかったのは「そこじゃないと生きられないんじゃないか」という思いがあったからです。「私はどうやら女のことが好きな女らしい」と自覚した上で将来のことを考えたとき、例えば会社勤めになった場合、社内の「今度合コンやるんだけど来るー?」と言われるような空気の中で本当のことは言えないだろう、と思いました。そういう世界では息ができなくなるだろうと。じゃあどうするかっていうと、会社のなかでは異性愛者としての仮面を被り、新宿2丁目でその仮面を外す、という生き方をするしかないんじゃないか、って思っていたんですよね。

―― そういう風に生きている人は多そうですね。

牧村 そうですね。それも一つの生き方だと思います。でも、決してそれだけじゃなくなってきているんだということは、忘れないでほしいです。“新宿2丁目じゃないと息ができない”という時代は終わりつつある、ということは言いたいですね。それは“新宿2丁目はオワコンだ”って言う意味じゃないですよ。新宿2丁目に行きたいと思えば行ってもいいと思うけど、そこにしか居場所がないわけではない、ということです。

◎同性愛者と異性愛者は違う人間か?

―― 近年は政治の場面でもセクシュアルマイノリティについて議論されるようになりました。残念ながら差別的な発言もたびたびみられます。

牧村 「同性愛者は婚姻制度から排除されるべきだ」と考える人の意見の重さと、私の意見の重さは同じです。それぞれが言いたいことを言って、決めていくだけだと思っています。だから、「排除しろ」と言う人に対して、「それは差別だから、発言するな」とは思わないです。もちろん、同性愛者が婚姻制度から排除されている、という状況は、差別的だと感じています。でも「排除されるべきだ」という意見も一つの考えとして、受け止めたいです。

―― 本書に限らず牧村さんは他人の意見を尊重するという姿勢をお持ちだと感じています。例えば本書で紹介されている、「同性愛者は異性愛者と異なる種類の人間である。同性愛は生まれつきなのだから、罰するべきではない」と考えるウルリヒスと「同性愛者も異性愛者も同じ人間である。どちらにせよ、成年同士の合意あるプライベートに国家が口出しするのはおかしい」と考えるケルトベニのどちらも否定されていません。牧村さんご自身はどちらのお考えに近いのでしょうか?

牧村 私はケルトベニに近いです。「性的指向が生まれつきかどうか、変えられるものかどうか」ということは、私にとっては重要ではないです。生まれつきだろうが、趣味だろうが、性癖だろうが「人の性のあり方を理由に、婚姻制度から一定の人が排除されている」ということがおかしいんです。

でも、まずウルリヒスが同性愛者を一つの「人種」としてみて、「同性愛者という存在がここにあるんだ」と主張したからこそ、ケルトベニの考えにシフトできたんだとも考えています。この本で紹介した通り、人間はここ150年の間、「人間はみんな異性を愛するように生まれつき、子孫を残したいと考えるんだ」という価値観から、どう本当の世界に近づいていけるか、という戦いをしています。そのためにまずは「人間はみんな生まれつき異性愛者だ」という前提に反論にしないといけなかったんです。ウルリヒスは近くを見て、ケルトベニは遠くを見ていたんだと思うんですよね。

―― 現在はウルリヒス的前提のもとで議論がなされているのも、それはある意味ケルトベニというゴールへの前段階なのでしょうか?

牧村 私はそう思っています。(後編に続く)
(聞き手・構成/北原窓香)

■牧村朝子/1987年生まれ。タレント、文筆家。2013年にフランス人女性と同性婚、現在フランス在住。セクシャリティをテーマに、各種メディアで執筆・出演を行う。将来の夢は「幸せそうな女の子カップルに”レズビアンって何?”って言われること」。

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