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 名作と呼ばれる小説や映画、絵画。この世に数多ある作品に触れる時、芸術だから何かを読み取らなければ、と身構えてしまう人にこそ読んでほしい、“趣味の世界を気楽に広げるきっかけ”になる3冊を紹介したい。

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■『「罪と罰」を読まない』(岸本佐知子・吉田篤弘・三浦しをん・吉田浩美、文藝春秋)

 ドストエフスキーの『罪と罰』。読んだことはなくても、書名を聞いたことはある、という人は多いだろう。たいていの人が「難しそうだし、自分には一生縁がない」と思うこの作品を身近にしてくれるのが、『「罪と罰」を読まない』だ。

 本作には、直木賞作家・三浦しをん氏をはじめとした作家や翻訳家、装丁家といった4人が、実はまだ読んでいなかった『罪と罰』を、「読まないまま」どこまで中身を推測できるか試みる、という一見無謀な“未読座談会”と、その後、しっかり読んできた4人が答え合わせをするように語り合う“読後座談会”が収められている。

 「たしか、主人公がラスコーなんとかっていう青年ですよね」「おばあさんを殺しちゃうんじゃなかった?」「それってお金が目的で?」「たぶん、そうじゃないかな」――と、それぞれの『罪と罰』に関するあやふやな前知識を持ち寄り、冒頭とラストの約1ページの大筋だけを共有して、全6部からなる長大なストーリーの空白を埋めていこうとする4人。

 各部につき4回までページ数を指定して読むことができるルールで、重要なシーンを引き当てれば喜び、まったく未知の人物の語りを聞かされては「誰?」と困惑する。それぞれが名(迷)推理を繰り広げる会話に笑っている間に、「上下巻で計1,000ページ弱の大ボリューム」「日本人には覚えにくい長い人名」といった未読者をひるませるハードルが少しずつ低くなり、『罪と罰』のストーリーや登場人物像が、断片的に浮かび上がってくる(ただし、この時点では想像なので結構間違っている)。

 三浦氏がこの試みを通して「もしかしたら、『読む』は『読まない』うちから、すでにはじまっているのかもしれない」とつづるように、想像力を働かせて必死に空白を埋めようとする4人は、さらっと読んだ後に筋の大部分を忘れてしまった人より、『罪と罰』を味わい尽くしているように見える。読後の座談会でも、書かれていない作品の背景や未来に思いをはせ、登場人物の心中を推理しては作品を楽しむ彼らの姿勢は変わらない。「読む」という行為が能動的なもので、想像力を働かせて脳内で熟成させることも楽しみの1つだと思い出させてくれる。

 『罪と罰』という名作のガイド本でありながら、“読書”という行為そのものを指南する本書。小説をもっと自由に、気楽に楽しんでもいいと思わせてくれる1冊だ。

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■『あなたたちはあちら、わたしはこちら』(大野左紀子、大洋図書)

 小説に限らず、漫画や映画などのフィクション作品は、出会うタイミングによって、受け止める印象が大きく変わる。作品を楽しめるかどうかは、本人の経験値や読解力と無関係ではない。若い時にしか楽しめないもの、経験を重ねてより深く楽しめるもの、そこに作品としての優劣はないが、人生半ばに差し掛かったからこそ味わえる作品は、売り上げや興行収入のランキングに顔を出すメジャー作品とは限らない。『あなたたちはあちら、わたしはこちら』は、中年~老年の女性にスポットを当てた映画12作のレビューを通して、若くはない女性の生き方を見せてくれる1冊。さらに、演じた女優や衣装を解説するコラムも加えられ、多角的な視点で作品を楽しむことができる。

 年を重ねた女性は、多くの映画で「肝っ玉母さん」「おせっかいなおばさん」といった役割を与えられがちだ。しかし、大野氏が選んだ作品に登場するのは、そんな枠組みから抜け出した、もしくは押し出されてしまった女たちだ。中年女性たちがチャリティーのために自分たちのヌードカレンダーを売り出す実話をもとにした『カレンダー・ガールズ』、頑固な老女の友情や性愛が描かれる『クロワッサンで朝食を』など、定番の役割からはみ出した普通の中年・老年女性の孤独やたくましさ、茶目っ気や美しさを鮮やかに活写している。

 タイトルの「あなたたちはあちら、わたしはこちら」という言葉は、映画『ルイーサ』の主役である、愛する家族もペットも失ったさえない中年女性が、永遠の関係は存在しないことを受け入れ、再び新たな人生と向き合うことを選んだ時につぶやいた言葉だ。何歳になっても、老いも醜さも含めて自分の人生は自分のものだと引き受ける覚悟ができる女性にとっては、シワやシミも勲章になる。そう感じさせる映画が幾つもあることを、大野氏の的確な解説が説得力を持って教えてくれるのだ。

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